異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#288 The Black Camouflage 2

虎徹は身体中に自分の能力である《墨汁》を被り、その姿を鬼門組の人間に誤認させた。

その上で虎徹は彩奈が乗る病院に向かう車に向かっていた。

そのような方法を取った理由は彩奈に同行する為だけではない。同行するだけならば鬼門組を説得すれば可能だと予測していたが、この方法を取った一番の理由は他にあった。

 

 

***

 

 

彩奈は車の席に座り、出発の時を待っていた。

哲郎と同様に、これから戦地に赴き、帝国の運命を左右する重要な戦いに身を投じるのだ。

その事は少なからず彩奈の心に緊張をもたらしたが、それ以上の使命感と闘志でそれを抑えつけた。

それがただの虚勢に過ぎない事は彩奈も分かっていたが、それでも行かねばならないと己をひたすらに鼓舞した。

 

「………………」

「…おい杏珠。徐々出発するぞ。」

「! は、はい━━━」

「! ………何だ君は。

見ない顔(・・・・)だが、君もこの車に乗るように言われているのか。

………そうか。なら早くしろ。直ぐに出発の時間だ。」

「…………?」

 

彩奈は苺禍の言葉に怪訝な表情を浮かべた。

その一番の理由はやはり彼女の口から出た『見ない顔』という言葉だ。

しかし、彩奈はすぐにその謎の答えを理解する事になる。

 

「!!!!?」

「おう彩奈。儂も同行する事にしたぞ。」

 

車に乗り、彩奈の隣に座った人物の姿は彩奈の目には虎徹に見えた(・・・・・・)

一番驚いた事は彼女が《墨汁(能力)》を使ったであろう(・・・・)事だ。

先程の苺禍の言葉からもそれは明確だった。彩奈は一番にその理由を聞いた。

 

『こ、こ、虎徹さん!!!? どうして………………』

『決まっておるじゃろう。主にばかり任せるのは余りに酷じゃと思っただけの事よ。』

『そ、そうじゃなくて、なんで能力を使ってまで…………』

『見抜いておったか。其れも簡単な事よ。

此の方法が一番道理に適っておると思っただけじゃ。』

『!!?』

 

彩奈は小声で話していた。

それは瞬時に虎徹の姿が自分以外(・・・・)には鬼門組の人間に見えている事を理解しているからだ。

傍から見れば『杏珠と鬼門組の隊員が大声で話している』という光景は不審なものに映るだろう。

 

『良いか彩奈。此れは自慢でも慢心でもなく、只の事実として言うぞ。

儂と主が居れば、敵襲を撥ね退け、鴻琴の爺を救う事など造作も無い。じゃが、其れだけじゃと敵に警戒される。

考えてもみぃ。病院に主だけではなく儂迄居るとなれば、それは如何に奇怪なものに映るじゃろう。』

『!』

『じゃが、儂の姿を鬼門組の雑兵に偽ったならば、無駄な警戒もされんよ。

彩奈、分かっておるじゃろうが、この作戦も非常に重大じゃ。

帝国の法の面子にかけても鴻琴の暗殺などという卑劣な所業を断固として許さんのは無論の事、あわよくば敵襲を生け捕りにし、珂豚や鳳巌の事を聞き出せれば良い。

……否、主の我儘を通したならば、其れ位の成果が無ければ申し訳が立たんじゃろう。』

『………………!!!

は、はい………………!!!』

 

虎徹の言葉によって、彩奈は自分が如何に大それた事をしているのかを再確認した。

そして自分がこれからやろうとしている事は帝国の命運を左右する極めて重大な作戦である事を改めて理解した。

鬼門組に迷惑をかけている以上は彼らの役に立つのはもちろんの事、自分の失敗で彼等の顔に泥を塗る事は万に一つもあってはならないと自分に言い聞かせた。

 

「苺禍隊長。出発の準備、全て整いました。」

「分かった。

おい君達。今聞いた通りだ。出発するぞ。」

『はい!!!』

 

二人の言葉に誘発されるように馬(のような生物)は足を前に出し、車輪は回転した。

それは即ち帝国の運命を掛けた作戦への前進が始まったという事だ。

 

 

 

***

 

 

《鳳巌の根城 倉庫内部》

 

(………もうそろそろ彩奈さんは病院に向かい始めた頃かな…………。)

 

哲郎は情報収集の為の倉庫物色を進めながら、頭の中でそのような思考を巡らせていた。

頭の中は彩奈に関する希望的観測で埋め尽くされている一方、肝心の情報は最初に読んだ日記以降は皆無だった。

しかし、哲郎は焦ってはいなかった。それはこの倉庫には日記以外の情報は全く無い事とこれから何をするべきかが分かったからだ。

 

(……もうここには用は無いな。

ここから出られるとしたら………………、あそこか。)

 

哲郎はこの倉庫から出る事を決断した。体内時計しか頼れるものは無いが、それでも軽く数時間はここに居る。これ以上悠長に構えていられないのは火を見るよりも明らかだ。

とはいえそれは鳳巌の言いつけを破る事になる。哲郎もそれは理解していた。

しかし、それを実行するにあたって哲郎の頭にあったのは鳳巌の約束を無碍にする罪悪感でもなく、危険性故の恐怖でもなかった。

彼の心にあったのは使命感だけだった。帝国に居る人間の中で一番鳳巌の秘密に近いのは自分であり、この状況で鳳巌の尻尾を掴む事が出来るのは自分を置いて他に居ないからだ。

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