異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#290 The Mysterious Berserker 1 [Foreign Martial Arts]

哲郎はこの帝国に潜入して以来の最大の悪手を打った。哲郎も理屈の範疇ではそれを理解していた。

しかし、哲郎の心には微塵も後悔は無かった。

この国に居て何を最優先に行動するべきかを理解している。自分がたった今助けたこの珂豚があくどい男である事を知っている。

しかし、哲郎の信念が彼の死を許さなかった。彼の心にあったのはレオルとの確執の時と同様の直情的な衝動だけだ。

 

「……貴様の周囲での殺しを許さんだと?

意味が分からんな。珂豚が死んで貴様に不都合があるのか。」

「……そんな汚い話をしているんじゃない。

僕は、人の命がどれほど大切なものかを知っている。少なくとも、あなたよりはね!!!!!」

「!!!!?」

 

鳳巌の力が一瞬緩んだ瞬間を見逃さず、哲郎は攻撃を仕掛けた。

身体を沈め曲げた腕の下に通し回転させ、後ろを向いた瞬間に腕を振り下ろした。

鳳巌の身体は哲郎の腕と持っていた薙刀の柄を支点にして浮き上がり、天井に身体を擦りながら宙を舞った。

 

何が起こったのかを理解した瞬間、鳳巌は身を守る行動を起こした。

持っていた薙刀から手を放し、床に手をついて受け身を取った。

すぐさま自分を投げた不遜な少年に粛清を加えるべく、鳳巌は体勢を立て直した。

 

しかし、彼の思惑は現実にはならなかった。

 

「!!?」

 

鳳巌が哲郎の方向を向いた瞬間には既に哲郎の追撃は始まっていた。

身体を半身に構え、両手は片手の掌と甲を合わせ、腕は横に曲げられている。

哲郎の得意技である《魚人波掌》を撃ち出す構えだ。

 

『━━━━━バチィン!!!!!』

『!!!!!』

 

その音は、哲郎の掌底が鳳巌の腹に直撃した音だった。

壁や天井は震え、音は衝撃波と化して珂豚の鼓膜や脳を震わせた。

哲郎の脳内には身体の中の水分と魔力にもろに衝撃が走った結果、体中から血を吹き出す鳳巌の姿が浮かんでいた。

 

しかし、哲郎の目がその思い描いた未来を認める事は無かった。

 

「ぬぅん!!!!」

「!!!」

 

目に闘志を蘇らせた鳳巌は反撃に転じた。哲郎の首を狙って鎌のような横薙ぎの蹴りを繰り出す。

哲郎は寸での所でそれを身を引いて躱し、その勢いのままに跳び上がり、後ろの壁の天井近くに着()して距離を取った。

 

「…………………」

「…………………」

「~~~~~~~~~~!!!!!」

 

哲郎が啖呵を切りながら鳳巌を投げてから壁に足をつけるまでの時間はほんの数秒程度しかなかった。

しかし、その濃密な時間の中で立て続けに様々な事が起こった。珂豚の脳は問答無用で流れ込んでくる膨大な情報を処理していた。

最早彼の頭の中からはついさっきまで命の危険にあった事など消えかけていた。

 

(━━━━━い、い、今何が起こった………………!!!!?

鳳巌のお頭を投げ飛ばして一撃入れおった!!! このガキ、一体………………)

 

珂豚が場違いな思考に頭を埋め尽くされている最中にも、哲郎と鳳巌の視線は交わっていた。

そして哲郎が徐に壁から足を離し床に着地した瞬間、その沈黙は破られた。

床に落ちた薙刀を拾い上げながら、鳳巌は口を開いた。

 

「………(かつ)て、外海の果てに伝わる奇怪な武術の話を聞いた事がある。

その武術は、身体に巡る魔力(妖力)を震わせる事を旨としていると聞いた。

そう、たった今貴様が使ったような技をな。」

「!!!」

「だが、其の技では我は殺せん。

我は妖術使いではない。攻撃を通す妖力は微々たるものだ。

貴様の細腕如きが我の息の根を止める凶器になる事は万に一つも有り得んと思え。」

「………」

 

哲郎は頭の中で鳳巌の言葉の意味を理解していた。

哲郎が戦闘の場で重きを置く魚人波掌は相手の強さ(魔力)に依存している。最後にそれを使った寅虎との試合でもそれは実感していた。

もし仮に寅虎の身体に魔力が満ちていたならば、瀑渦が与えた衝撃による身体への影響は何倍にも膨れ上がっていた。

哲郎の目算では少なくとも受けた腕の麻痺、延いては腕を使えなくなる程度の負傷という結果は得られていた。

 

「………そして、この一件で貴様に聞きたい事が山の様に増えた。

黎井共を捕らえ、我の城に忍び込み、そして我の命令を容易く破る其の胆力。並のものではない。」

「………嫌味を言っているようにしか聞こえませんね。

それに、あの黎井という人達は彩奈さん(僕の姉)を連れて行こうとしたんです。助けようとして当然でしょう?」

「……そうか。では奴等はその娘を我の機嫌取りに選んだのか。では寧ろ運が良かった(・・・・・・)のか。」

「………どういう意味ですか?」

「……我に足る女は古今東西を探したとしても唯の一人しか居らん。

仮に女一人を捧げたならば、奴等の首は身体と生き別れていただろうな。」

「………その女というのはもしかして、鶯蘭(おうらん)とかいう

!!!!」

 

命を軽視する事ばかりを口走る鳳巌への怒りを抑え込んで問いを投げ掛けようとした瞬間、哲郎の喉元に薙刀の刃が突き付けられた。

 

「………貴様の其の矮小な口如きで、その名を口にするな……………………!!!!!」

「……………………!!!

(今までの中で一番に動揺している。鶯蘭という人は一体…………………)」

 

喉笛に凶器を突き付けられても尚、哲郎の心は揺れ動く事は無かった。

彼の頭にあったのは鳳巌の謎を解く鍵になり得る鶯蘭という人物の事だけだった。

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