『貴様一体何者だ』
鳳巌のその問いは哲郎にとってこれ以上ない程に聞かれたくない質問だった。
しかし、その質問を投げ掛けられている原因が自分にある事も分かっていた。その上でも哲郎は自分の行動を後悔するつもりは無かった。
(……………!!!
やっぱり怪しまれたか。だけど、後悔は
むざむざと殺されそうになってるあの人を見殺しにして喜ぶような人間には、絶対になりたくない!!!)
哲郎は頭の中であらゆる回答、そしてそれに対する鳳巌の返しを想起していたが、この状況に対する有効な回答が口から出てくる事は無かった。
鳳巌に自分が唯の帝国民である事はほぼ完全に読まれている。唯一分かる事は下手な事が言えないという事だけだ。
「…………答える気が無いのか。
それとも、答えられん状況に立たされておるのか。」
「!!!」
「図星が当たったか。ならば、我もそれ相応の対応を取る。」
「?!!」
その時、鳳巌は意外な行動に出た。
この部屋の唯一の扉を背にして座り込んだ。哲郎は一拍後にその行動の意味を理解した。
「貴様が答える迄、我は
そして、珂豚を屠る事を止める気もない。」
「!!!」
鳳巌の言葉に珂豚は顔を青くさせたが、哲郎はその言葉に隠された真の意味を見抜いた。
「…………僕が答えれば、あの人を見逃してくれるんですか?」
「…………貴様の話に聞き入っている間に誰が何をしようとも、我が気付く事は無い。」
「!!!」
その言葉の意味を理解した珂豚の表情は少しばかり明るくなったが、哲郎はその言葉の真意に顔を青くさせた。自分の退路が完全に断ち切られた事に気付いたからだ。
「言っておくが、此処からどのような行動を取るかは貴様の自由だ。
我の問いに答えるもよし。此処を正面から出ていこうとするもよし。其の通気口から尾を巻いて逃げるもよし。
尤も、貴様が出て行った後に我がどのような行動を取るかは分からんがな。」
「!!!!」
哲郎が心中で察していた鳳巌の真意が直接的な言葉となって襲い掛かった。
哲郎にとっての安全策はすぐにでもこの場から撤退する事だが、それは即ち珂豚を鳳巌の凶刃に晒す事を意味する。そして哲郎にとってその選択は論外的だった。珂豚を見捨てる事は即ちこの凶悪な男と同じ穴の狢になる事を意味しているからだ。
しかし、鳳巌も
「……………………………………ッ
……………分かりました。秘密にしてる事を話します。ただ、それは二人きりでにさせて下さい。」
「構わない。」
「!!!」
その言葉を聞いた瞬間、珂豚は何者かに背中を押されるかのように部屋から逃げ出した。鳳巌はそれを気に留めようともしなかった。つい先程彼に凶刃を振るっていたのが嘘のようだと、哲郎はそのような印象を抱いた。
そして小部屋の中は異常な状況へと変化する。部屋の中央に少年と大男が向かい合って座っている。哲郎は座高からも鳳巌の迫力を再認識していた。
「……………此処迄譲歩してやったのだ。今更違える事はあるまいな。」
「そんな事しませんよ。あなたにこれ以上悪い印象を持たれたくありませんからね。」
「そうか。ならば話せ。貴様は一体何処の誰だ。」
「………………結論から言いますと、僕はこの国の人間でも轟鬼族でもありません。」
「!」
*
哲郎は自分が《転生者》である事、この国に来た理由、この国を狙っている存在が居る事を順を追って話した。哲郎は敢えてその説明に嘘は含めなかった。それは後で辻褄を合わせる必要をなくすためだ。
「………………外海には
貴様の話はこういう事だな。」
「そういうとらえ方で大丈夫だと思います。」
「……………………して、其の荒唐無稽な戯言を我に信じろと言うのか。」
「別に無理に信じて欲しいとは思ってません。ただ、一つだけ聞いておきたい事があります。
………………この国を滅ぼそうと考えている《転生者》とあなたは繋がっているんじゃありませんか?」
哲郎にとってこの質問は賭けも同然の行動だった。
敵の《転生者》狙いはほぼ間違いなく帝国の皇帝の首だ。そしてその首を狙う過程として犯罪組織も同然である鳳巌と関わりを持つ事は有効であると、哲郎は考えていた。
「何を抜かしているのか皆目分からん。」
「!」
「そも、貴様の今の言葉には間違いがある。
国が滅ぶ事など有り得ん。唯、国の名や土地を統べる者が変わるのみだ。寧ろ、首が挿げ変わる事によって此の
(腐り切った体制!!? 何を根拠に!?
まさか、鶯蘭とかいう人と関係してるのか!?)
ここまでの数分足らずの会話だけで哲郎は鳳巌には会話をしようとする意思がまだある事、そしてこの会話から得る情報が如何に重要かを理解していた。