鳳巌と敵の《転生者》が繋がっているという哲郎の予測は外れていた。しかし、《転生者》の目論見を聞いても尚、鳳巌は無頓着な姿勢を崩さなかった。帝国を統べる者が変わろうと、帝国が誰のものになろうとも、鳳巌にとっては些事なのだ。
哲郎にはどうしても納得いかない事だった。
「……本気で言ってるんですか?」
「何?」
「
「何が言いたい。」
「分かりませんか。いうなればこの国は《天然の要塞》と言っていいくらい外からの侵入が難しいんです。何かをするにあたってこれ以上適した場所は無いと思いませんか?」
哲郎は《転生者》がこの鬼ヶ帝国を襲撃する理由を明確に示したつもりだった。しかしそれでも鳳巌の心動かすには足らなかった。
「……貴様の話には最も重要な部分が欠如している。
仮にそのような輩が存在するとして、其奴はこの地で何をしようとしておるのだ。」
「………………それはまだ。その正体が分からないと知りようがありません。」
「紙より薄い根拠だな。
して、貴様は自らを能力を持つものだと嘯いたが、貴様の側に居たあの見慣れん小娘もそうなのか。」
「!!!!
……………………答えられません。そもそも、あなたの質問は僕に関する事だけだったはずです。それ以上の事を答える理由は僕にはありません。」
「話にならん。聞くだけ時間の無駄だったようだ。」
「その時間を取るように言ったのはあなたじゃないんですか?」
「……………………………………」
哲郎の話を鳳巌は真っ向から信じようとはしなかった。或いは自分の話が本当であろうとも噓であろうとも問題はない。故に半信半疑というような印象を受けた。
そしてこの瞬間、哲郎の鳳巌に対する印象がはっきりとした像を結んだ。ここまで後手に回っていた哲郎だが、遂に反撃に打って出る。
「……あなたの質問には全て答えました。次は僕が質問する番です。」
「質問 だと?」
「そうです。僕は今まで、あなたの行動に違和感しか覚えませんでした。だけど今の話でそれが何なのかはっきりと分かりました。」
「何を抜かしておる。言いたい事ははっきりと言え。」
「分かりました。では言います。
あなたはもしかして、自分がいつ終わっても良いと考えているんじゃありませんか?」
哲郎は鳳巌の心に大きな爆弾を落とした。そのような表現が相応しい程にこの発言の意味するところは大きかった。実際に鳳巌の眉は目に見えて動いた。今の発現が的外れならばこれほどの反応は期待出来ない。自分の予測は当たっていたと、強く確信した。
(この人はどんな時も僕を殺そうとはしなかった。僕を生かしておいても得をする事は何一つ無い筈なのにだ。
まるで、僕をきっかけにここがバレても構わないと言っているみたいだ。だからこの人はきっと、自分も仲間もどうなっても良いと考えてる!!!)
「……どうなんですか。僕の言ってる事、的外れだと言い切れますか?」
「………………否。当たりだ。」
「!!!」
鳳巌はあっさりと哲郎の予測を肯定した。
しかし、哲郎はその言葉に拍子抜けするどころか逆に身体を震わせて身構えた。最早哲郎にとって鳳巌の一挙手一投足は彼の身体に緊張を走らせる。
「………だとすると、あなたのさっきの『餌になってもらう』という言葉の意味も変わってくる。あれはてっきり、鬼門組をここにおびき出して叩き潰そうとしているんだと考えていました。だけどそうは言わなかった。
そしてようやく、その理由が分かりました。あなたは鬼門組に潰される事を望んでるんじゃありませんか!?」
哲郎がその結論に至った理由は、この根城で得た情報を総合した結果だ。
かつての鳳巌はしがない漁村の出身だったが、鶯蘭に関する不幸があった。それをきっかけとして彼は悪の道に進んだ。ここまでが彼の日記と現状を照らし合わせて構築した推測だ。
しかし一方で鶯蘭のいない前途に悲観し、華々しく終わる事を望むようになった。これが哲郎が今生きていられる理由だ。
「…………自惚れも大概にしろ小僧。貴様、自らを妖術使いか何かと履き違えておるのか。
我の心中を貴様が如何にして推察するというのだ。」
「!!!
………………分かりました。
あなたは一体、人間の命をどのようなものだと考えているんですか。」
この質問を投げ掛ける際、哲郎は心の中の感情を極限まで抑え込むように努めた。そうでもしなければ語尾が荒くなるか、鳳巌へ飛び掛かろうとしてしまいそうだったからだ。
しかし、鳳巌の返答はあまりに空虚なものだった。
「脆きもの。
唯の