異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#295 The Poisonous Hospital

帝国大病院《(どくだみ)

それが、彩奈達が今居る場所の名前だった。

 

帝国の首都《豪羅京(ごうらきょう)》の都内にある、蕺喬が運営する帝国最大規模の病院である。帝国に存在する最新の手術技術、回復妖術(魔法)、そして薬草を利用した高度な薬剤を全て利用し、高い成功率を叩き出す高い実績を持つ。

 

この病院を訪れる患者の大半は身体を病んだ帝国内の富裕層であるが、例外が存在する。それが鬼門組最高機関《陸華仙》に収監され、受けた取り調べ(拷問)の治療を受けさせられる(・・・・・・・)犯罪者である。蕺喬は陸華仙で生まれる負傷者の治療を引き受けるという契約を結んでいる。

死刑を廃止し、犯罪者の死であっても良しとしない帝国の秩序が生み出した警察組織と医療組織の関係である。

 

そして今、その大病院に患者でもない、かと言って負傷した犯罪者でもない更なる例外が病院の大広間に待機している。

本来鳳巌の被害を受け、陸華仙に庇護されるべき存在、朝倉彩奈だ。

 

 

 

***

 

 

 

場所は病院《蕺》の鴻琴が入院している病室の前、彩奈は扉を隔てた椅子の上に腰を下ろしていた。そして彼女の隣にはもう一人女性が座っているが、それは虎徹ではない。彩奈の隣に座っているのは陸華仙の隊長の一人、苺禍である。

 

「……………………」

「一抹でも不安の感情があるならば今からでも引き返して我々の手厚い保護を受けるべきだ。もう一度言っておくが今から襲ってくる奴は君が本来存在すら知る必要もない人間なんだからな。」

 

両手で膝を抑えて小刻みに震える杏珠(彩奈)の隣で半ば呆れながらそう呟いた人物こそが苺禍である。本来の彼女の配置はこの鴻琴の病室の前の扉であるため、予定に変化はない。変化は後からこの場所に配置される事が決まった彩奈の方だ。

両者共に理解し始めている事だが、鴻琴の事と言い鳳巌の事と言いそして今回の事と言い、彩奈と苺禍の間には奇妙な関係性が芽生え始めていた。

 

(~~~~~ お、重い!! 空気が重苦しい……………………!!!

な、何か話さないと!! あの時みたいに人を怒らせないような、そんな当たり障りのない事でもいいから……………………!!!)

「あ、あの!!」

「? 出し抜けにどうした。やはり引き返そうという気になったか。」

「あ、い、いえ!! そ、そういう事ではなくて………………!!!」

 

苺禍の邪推によって彩奈の勇気ある発言はその出鼻を挫かれた。それでなくとも自分の言いたい事を一発で言い出せない事は早急に解決しなければならない事だと心の中での猛省を済ませ、彩奈は言葉を重ねる。

 

「だとしたらなんだというのだ。分かっているだろうが此処は警察(鬼門組)ではなく《病院》なのだ。私語は禁止されていなくとも過度な大声は避けた方が無難だぞ。」

「わ、分かりました。

それで、聞きたいんですけど、苺禍さんはあの、お医者さんの人をどう思ってますか?」

「蕺喬様の事か。何故今更そんな事を聞く。」

「!!」

 

彩奈がその質問をした理由は病院の看板に彼女の名前と同じ《蕺》の文字が書いてあったからだ。

彩奈はその文字の読み方も意味も知らないが、態々自分の名前を仕事場の名前に流用する事からもその厚顔さが伺える。それでいて鬼門組と深い信頼関係を持つ(であろう)蕺喬を当事者の一人である苺禍はどう思っているのだろうかと、そのような純粋な疑問を持った。

その旨を十数秒かけてたどたどしくも話すと、苺禍の返答の言葉が彩奈の耳に届く。

 

「………………そうだな。

生憎私は、蕺喬様の事を正確に知っている訳ではない。だが少なくとも、私が凰蓮総監の御側で働くようになった頃には既に我々と太い関係で結ばれていた事は確かだ。そして、確かな腕がある事もな。」

「………………!!!」

「それに、あの人は自らの素性、経歴を全てひた隠しにしている。」

「? それは、虎徹さんから聞きましたけど、それが一体……?」

「分からないのか。この国において、医療の世界でのし上がっていくには本来は上の者との関係や信用が不可欠だ。そしてそれを可能にするのは産まれやその道程の質だ。

だのにあの蕺喬様はそのようなものを一切使っていない。即ち、己の実力のみでこの帝国の医療の頂点に立った。蕺喬様とはそういう人間だ。」

 

彩奈はそれ以上の疑問は口にしなかった。恐らく鴻琴がそうであるように、今までにも数々の重病、そして重傷者の命を救ってきたのであろう。

苺禍の真剣な表情がそれを物語っていた。そして彼女もまた鬼門組の一員としてそれを目撃した生き証人なのだ。

 

「………暗殺者の人、来ると思いますか?」

「ああ。翡翠だとは限らないが、必ず誰かは来る。珂豚は身の破滅を何よりも恐れ、その手の人間にまず間違いなく縋りつく。

そこまで言えば分かるだろう。珂豚は必ず鴻琴の口を封じに来る。それを未然に防ぐ事の意味も、君ならわかるだろう。」

「は、はい…………………!!!」

 

《暗殺者》も《口封じ》も《警察》も全て、生前(日本に居た頃)の彩奈には縁遠い要素だった。それらが身近に迫っているという事実を彩奈はひたすらに噛み締めていた。

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