「……もうすぐだな。」
哲郎はノアの家に向かっていた。夜は魔界コロシアムの一室に止めてもらい、試合での負傷を治していた。
そして今、ノアの両親がノアの優勝を祝ってパーティーを開くと言い、哲郎もそれに呼ばれたのだ。
ノアの家、正確には転生した際の両親の家 は、魔界コロシアムの会場から歩いて行ける距離にあった。
「……ここか。」
哲郎が着いたのは、木製の一軒家の平屋だった。1階建てだが、見た目では部屋数は二階建てと同じくらいだろう。
ラグナロクの家にはインターホンという文化がないので、哲郎はドアをノックした。
「あぁ! いらっしゃい!」
ドアを開けて出てきたのは、1人の女性だった。見た目は自分の母親より一回り若いくらいだろう。
「あの僕、ここに呼ばれてきた 哲郎という者です。」
「聞いてるわ。さぁ。入って」
***
哲郎はリビングに案内された。
そこのテーブルには、自分の誕生日で見た料理より一回り豪華な料理が並んでいた。
強いて不振な点をあげるなら、中央の料理がキノコのソテーだったということだ。
聞くところによると、それがノアの好物なのだと言う。
哲郎は遠慮なくいただくことにした。
ノアの優勝だけでなく、自分の準優勝までも祝ってくれているようだった。
しかし、哲郎にとって本当に重要だったのは、その後の話だった。
***
「いいんですか本当に。
ご馳走させてもらっただけじゃなく、泊めてくれて。」
「構わんさ。
俺たちはこのラグナロクでたった2人の転生者なんだ。
これくらいのことはやらせてくれ。」
夜
哲郎はノアの部屋に来ていた。
そこでベッドの傍に寝て泊まるようにと勧められた。
ラグナロクには布団は無いので、クッションを並べてそこで寝ることになった。
「ちなみにですが、あの両親(?)に自分が転生者だということは伝えてるんですか?」
「いや。伝えていない。
成長してはいるがな。」
「成長?」
「そうだ。産まれてから数年経って、自分が転生者だということに気付いたんだ。
そしたらいつの間にかこの姿になっていたんだ。」
「……それでバレたりしないんですか?」
「いや。急成長というのはラグナロク全体で見たらさほど珍しいことではない。
だから俺も珍しい子供 ということで処理されたよ。」
「…そうですか………。」
ノアはとてもフレンドリーに話してくれた。
油断すると目の前のこの男が昨日 死闘を繰り広げた魔王であることを忘れそうだ。
「ところで、お前はこれから何をやるか決まってないのか?」
「さぁ。ギルドを作ろうと思ってましたが、それはもう少し先にするべきだと思いましてね。」
「……そうか。なら、俺たちの学校に来るか?」
「学校?」
「そうだ。あらゆる種族が一同に会して通う学校。俺はそこに通いながら今のラグナロクを調べてきた。
ちなみにだが、お前が戦ったサラ と、その妹のミナも学部は違うがそこの生徒だ。」
「……それはありがたいですけど、もう既に修行は済ませてますし、僕には通う理由が━━━━━━━━」
「そう言うだろうと思った。
確かに今から通ったところで得られるものは少ないかもしれない。
━━━━━━━━━━━━━━━だが、」
「?」
ノアは懐から1枚の紙を取り出した。
「『ギルド』の『依頼』があるならどうだ?」
「依頼?」
哲郎が受け取った紙に書かれていたのは、いじめで悩んでいる という旨の以来だった。
第一章 魔界コロシアム 完結