異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#304 HIDE AND FIND

時は簸翠を捕らえる罠が発動する数時間程前へと遡る。大病院《蕺》の病室の前で待機していた彩奈は緊張故の尿意を覚え、大事を取って早めに用を足す為に病院の(トイレ)へと足を運んだ。それだけでは話題にすら上らない程他愛もない出来事だったが、その彩奈を待っている者が居た。

 

「おう、漸く来たか。」

「ッ!!? こ、虎徹さん!!? 何でここに!?」

「大声を出すな戯けが。今、儂の姿は『墨汁』の力で主以外には組の一隊員に見えておる。連中を言いくるめて此の厠の前を勤務場に宛がった。主と内密に会う為にな。」

「そ、それってどういう━━━━」

「其の話は後じゃ。早く用を足してこい。主が厠の前に来る理由など一つしか無かろうが。」

「あ! そ、そうでした! 失礼します………………!」

 

自分の目的を思い出すとそれに誘発されるかのように再び尿意を覚えた。虎徹の横を通過し、彩奈は足早に厠の中へと歩を進める。

 

*

 

数分後、手拭い(ハンカチ)を片手に姿を現した彩奈を見て虎徹は漸く自分の話を始める。

彼女は自分に残された時間が少ない事を理屈で察していた。本来、彩奈は苺禍にトイレ休憩の許可を得て此処に居る。時間が掛かって咎められる事は無いだろうが、不審に思われる可能性は十分にある。それは秘密裏に病院に居る虎徹にとっては避けるべき事態だ。

 

「お待たせしました。それで、私に用って言うのは━━━━」

「悪いが前置きをしている時間は無い。故に一度で理解しろ。

今から儂と主とで此処に来る不埒の輩(十中八九簸翠であろう)を捕らえる罠を張るぞ。」

「!!!?」

 

虎徹は一度で聞き分けろと言ったが、彩奈にとってそれはとても無理難題だった。彼女の言葉をそのまま鵜呑みにするなら、病院に襲撃してくる暗殺者に攻撃すると言ったのだ。

 

「ど、ど、どういう事ですかそれ!!!」

「声が大きいと言っておろうが。良いか、儂は断じて鬼門組(奴等)の力量を甘く見てはおらん。輩に不覚を取るか否かで言えば後者の方が十二分に高いと儂は考えておる。だが万が一という事は何事にも存在する。故に儂等が其の万が一を補う為の罠となるのじゃ。無論、其れを使わん可能性の方が高い。気負わずに構えておれば良い。」

「な、なるほど。それで、一体どんな罠を……………」

「其れはな、此れじゃ。」

「!!?」

 

その瞬間、虎徹は出し抜けに彩奈の腹部に手を伸ばし、その上で指を躍らせた。指の爪は黒く変色している。『墨汁』の能力を使用している証だ。

 

「えっ!!? こ、これって━━━━━━━━」

 

虎徹が指を離すと、彩奈は自分の腹部に文字(・・)が書かれている光景を認めた。そこには『隠』の文字が記してあった。

 

「一般教養のある主ならば分かるじゃろう。其れは『隠す』という字じゃ。知っておるように儂が書く字には特別な力が宿っておる。一度儂が力を込めれば主の姿は立ち所に見えなくなる。

後は言わずとも分かるじゃろう。主の『転送』の力を用いて不埒の輩に裁きを下すが良い。」

「!!!!? な、何を言ってるんですか!!!」

 

彩奈は三度 甲高い声を発した。虎徹の言葉が余りに物騒だったからだ。

 

「何じゃ。奴と相対するのは気が進まんか。」

「当り前じゃないですか!!! 私が人を傷付けるなんてそんな事出来る訳が無いでしょ!!!」

「この国に無断で立ち入って哲郎(あの小僧)に尽力しておる奴の物言いとは思えんな。ならばこう考えるが良いわ。儂が先刻言った『万が一』とは即ち組の奴が窮地に立たされるという事じゃ。

其れを主が能力で救う(・・)のじゃ。」

「!!!」

「どうじゃ。此れならば多少は気概が湧いて来たであろう。」

「た、確かにそう言われれば助けたいとは思いますけど、でも………………!!」

「………ならば儂が一つ知恵を授けてやる。主の『転送』の使い方(・・・)じゃ。」

 

 

***

 

 

「━━━━で、虎徹さんが言ってくれたその妖術(・・)の使い方が、飛び道具が手に触れる瞬間に『転送』するっていうものだったんです。」

 

彩奈は「転生者の能力」を「妖術」と言い換え、虎徹との会話の内容を事細かに話した。その話を苺禍と蕺喬は険しい表情で聞いていた。

その表情は独断で行動を行った二人を咎めたい心情とその作戦によって窮地を救われ、簸翠を捕らえる事が出来た負い目がせめぎ合っている事を意味していた。数秒の思考の後、口を開いたのは苺禍だった。

 

「……………私達に黙って勝手な作戦を実行した事は誠に頂けないが、それによってこうして簸翠を捕らえられたのは事実だ。だからもう何も言わない。

だが君の掌が苦無に塗ってあった毒に触れている可能性がある。血管に入っていなければ大事は無いだろうが、早急に病院の精密検査を受けるんだ」

「隊長!!! 苺禍隊長!!!!」『!!?』

 

苺禍の言葉が言い終わるより早く、一人の隊員が青い顔をさせて病室に飛び込んで来た。

 

「君は《唐麻(とうま)》か。何の用だ。我々はたった今、簸翠の確保に成功した。」

「わ、私からもご報告する事が。す、数時間前に刹喇武道会会場にて、鳳巌によって拉致された少年《哲哉》が、発見されました!!!!」

『!!!!?』

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