異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#306 Strange Migration 2 [How To Transport?]

鬼ヶ帝国の運命を分ける戦いは暗殺者 簸翠の一戦が終わった直後、新たな局面を迎えた。鳳巌の根城へと拉致され、(本人にとっては敵の情報をかき集めるつもりだったが)音信不通になっていた哲郎が発見されたのだ。そして彩奈や虎徹だけでなく、苺禍や蕺喬も簸翠の事など忘れてその問題に夢中になっている。その理由はその事実が余りに不可解だったからだ。

 

「ど、どういう意味ですか? 哲郎さんが丒吟地方に居る訳が無いって………」

「まだ分からんのか。良いか、主の記憶が一切合切正しければ、哲郎は先程まで通話の妖具の通信可能距離に居ったという事になる。その状態で丒吟地方に居るなど有り得んのじゃ。」

「それって、距離が遠すぎるって意味ですか………?」

「そうじゃ。陸華仙の辺りから丒吟地方へ行く為には最低でも半日は掛かる。仮に最後の通信の直後直ぐに移動が開始されたとしても今現在其の場に居るのは不可能じゃ。」

 

虎徹は頻りに『不可能』という意味合いの言葉を口にしているが、彩奈は釈然としない様子でその話を聞いていた。その『不可能』を覆すものの存在を彼女は知っているからだ。

 

「あの、さっきから『不可能』とか『有り得ない』とか言ってますけど、本当にそうですか?」

「其れはどういう意味じゃ。」

「だって、方法ならいくらでもあるじゃないですか。例えば、魔法(虎徹さんが言う妖術)を使って瞬間移動するとか、速く移動するとか色々━━━━━━」

「否、その可能性は無い。」

『!!!』

 

彩奈の鼓膜を背後から震わせたのは苺禍の声だった。彼女の言葉はまたしても否定の意味合いを持っていた。

 

「い、い、苺禍さん!!! い、いつから━━━━━━!!?」

「申し訳ないが今の一言を立ち聞きさせてもらった。その上で言わせてもらうが、長距離移動を可能たらしめる妖術は少数ながら確かに存在する。だが、拉致された哲也にその類の妖術が使われた可能性は皆無だ。」

「えっ!? どうしてそんな事が分かるんですか!? どうやって調べたって言うんですか━━━━!!?」

「調べたのではない。他でもない哲也自身がそう証言したんだ。」

「!!!?」

 

 

 

***

 

 

 

鬼門組 丒吟地方 俔剴(げんがい)町支部

それが今現在、哲郎が居る場所の名前である。哲郎はそこで椅子に座り、一人の男と向かい合っていた。鬼門組 俔剴町支部長 《萩樷(はぎむら)》。それが哲郎が今向かい合っている男だ。

 

「━━━━では、改めて事実を確認させて頂きます。

哲也さん、貴方は今から数十分前に町の郊外の林の中に倒れていたところを発見された。これは間違いありませんね。」

「ここが本当に丒吟地方だと言うなら、それで間違いありません。」

「分かりました。では次に、その状況に至った経緯を詳しく話してください。」

「分かりました。」

 

口ではそう言いつつも、哲郎は鳳巌の根城で得た情報の全てを話せない事を理解していた。目の前の萩樷という男に何を話せ、何を話せないのかを慎重に吟味しながら回答に応じる。

 

*

 

結果、哲郎は昨日 成り行きで山賊団の下っ端を捕らえた事、それが原因で鳳巌に拉致された事、そしてつい先程、何故か(・・・)解放された事を順を追って話した。敢えてその根城で得た情報は口にしなかった。

 

(今伝えられる事はこれくらいだろ。根城の位置やあの日記の事はまだ伝えられない。情報が不確か過ぎて混乱させてしまうかもしれないからな。

取り敢えず僕に出来る事は何とかして彩奈さん達と合流して情報を伝えて、その後の事はその時に考えれば………………)

 

哲郎はこの状況下においては必要最低限の事だけを伝え、不確実な(かつ帝国の命運を握るような)事柄は一先ず伏せておく事を選択した。彩奈達と合流する光景を思い描いていた哲郎を現実に引き戻したのは萩樷の声だった。

 

「分かりました。即ち貴方は刹喇武道会の参加者だったという訳ですね。」

「はい。選手として参加していました。」

「哲也さん、貴方の拉致現場に居合わせた被害者達は今、安全を鑑みて豪羅京にある《陸華仙》という鬼門組の本部にて保護を受けています。」

「そ、そうなんですね。(彩奈さんがそこに行く前に拉致された僕がその事を知ってるのはおかしいな。ここは知らないふりをしておこう。)」

「その上で提案しますが、今から陸華仙に行く事が出来ますが、どうしますか。」

「そうですか。もちろん行きます!」

 

その言葉を聞いた瞬間、哲郎は心の中で喝采していた。早くも自然な形で彩奈達と合流する方法が見つかったのだ。しかしその感情は萩樷の言葉によって吹き飛ぶ事になる。

 

「分かりました。直ぐに手配を行います。なお、今からですと陸華仙に着くのは半日後(・・・)となりますので、そのつもりでいて下さい。」

「えっ!!!!? い、今なんて━━━━」

「? 陸華仙に着くのは今から半日後だと言ったのですが、何か問題でも? 差支えがあるならば時間をずらす事も出来ますが。」

「ああいえ、そういう意味じゃないんです。今からでお願いします。」

 

哲郎はそう言って茶を濁した。しかし彼の脳内は一つの疑問に埋め尽くされていた。

 

(ど、どういう事だ!!!? 僕の計算が正しければ鳳巌のアジトと陸華仙って場所とは目と鼻の先の筈だ!!!

僕は鳳巌に追い出されてからここに連れてこられるまで多く見積もっても数時間しか経ってない筈なのに!!! それに魔法が使われた感触も無かった!!! そんな不自然な事があったら気付く筈だ!!!

じ、じゃあまさか、まさかそんな━━━━━━━━━━━━!!!!!)

 

その瞬間、哲郎の脳裏にある可能性がよぎった。自分を丒吟地方へと移送する際に転生者の能力が使われたという可能性を。

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