異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#307 Strange Migration 3 [Clock In The Mind]

少年 田中哲郎に関して、次のような逸話がある。

数年前、彼は海沿いの田舎町で数か月を過ごした経験がある。その町には子供達にとっての娯楽が少なく、哲郎が通っていた小学校ではとある遊びが流行していた。それは目を閉じた状態でストップウォッチを起動させ、目標の値で止めるというものだった。

哲郎も当時を振り返ってこの遊びを単純なものであったと考えているが、下らないものであったとは考えていない。その理由は偏に哲郎がその遊びで優秀な結果を修めたからだ。

 

この経験を切っ掛けとして、彼は自身の体内時計はある程度の正確性を秘めているという確信に至った。無論一秒一秒を正確に把握できるとは思ってはいないが、半日という長い時間と数時間とを誤認するなどという事は考えられないと、今までの彼は思っていた。

 

その確信に近い思いを根本から覆そうとしている出来事こそが今現在、俔剴町にてとある事実を聞かされた事である。

 

 

***

 

 

俔剴町にて聞かされた事実とは、哲郎が居た鳳巌の根城(の予測位置)と今居る俔剴町とは早くても移動するには半日は掛かる距離であるという事である。哲郎がこの事実を信じられなかった理由は鳳巌の根城から移動させられ、俔剴町に着くまでの体感時間は多く見積もっても数時間程度だったからである。

今の哲郎にとって帝国内で起こる全ての事は貴重な情報源であり、それは視界を塞がれていようとも例外ではない。故に彼は視界が不自由な移動中であっても情報収集に注力していた。しかしその上でも移動の際一定間隔の揺れがある事と周囲が湿気に覆われている事以外の情報は得られなかった。ましてや移動時間は数時間だと信じて疑わなかった。

 

しかし目の前の萩樷という男の発言に嘘があるとも思えないというのが哲郎の率直な見解である。哲郎の体内時計に大幅な誤差が無く、その一方で萩樷の発言も真実であるならば、考えられる可能性は限られてくる。哲郎は二つの可能性を思い浮かべたが、その一方はすぐに切り捨てた。

 

(僕に魔法が使われた、って可能性は考えにくいよな。僕は今まで色んな魔法を受けた。もし時間感覚を狂わせるような強い魔法が使われたら気付く筈だ。それにそもそも誰がそんな事をする? 鳳巌の部下か? それはない。僕にそんな事をする理由が無い。(鳳巌の言葉を鵜呑みにするならだけど)僕はアジトから追い出され、無関係な人間になったんだから。それに鳳巌達も帝国の人間なら国の地理は分かっている筈だ。僕に時間を錯覚させて得をする事なんて何もない。

 

じゃあ後考えられるのは転生者の能力くらいだよな。つまりあの時、敵は堂々と僕の前に居たって事だ。その時能力を使って、僕を━━━━━━━━

 

!! いや待てよ。それはおかしい!!)

 

脳内で思考を巡らせていた哲郎は自分の発言にある違和感を覚えた。

 

(僕が移動していた時に敵の転生者が居たなら、なんで攻撃してこなかったんだ!!? わざわざ僕の前に現れるって事は(哲也)が敵の正体だって事は分かり切っている。ならその場で攻撃したほうが確実だ!!

それをせずにわざわざ移動させたって事は敵の転生者は鳳巌に従うしかなかったって事か!? って事は敵の正体は鳳巌の仲間の中の誰かって事か………………!?

それになんで移動に数時間を掛けた(・・・)!!? 彩奈さんみたいに一瞬で移動させる事は出来なかったって事なのか……………!!?)

「━━━━━━━━さん、」

(だとすると僕を数時間で移動させたのは、僕の《適応》が空を飛べる(重力に《適応)する》ようになったみたいに能力の応用って事なのか……………!?)

「哲也さん!」

「!!? あっはいどうしましたか!?」

 

移動の状況を振り返り様々な思考に囚われていた哲郎を現実へと引き戻したのは鬼門組俔剴町支部長 萩樷の声だった。

 

「どうしましたかって、陸華仙に向かう為の準備が完了したから声を掛けたんですよ。向こうまで半日かかりますからね、中で睡眠を取れるように寝台付きの馬車をご用意しました。」

「そうですか。わざわざそんな贅沢なものを用意してくれるなんて。」

「いえいえ。貴方は鳳巌の被害者なんですから。せめて手厚い保護をさせて下さい。今から出発すれば明日の明け方には目的地へと着きます。凰蓮総監には話を付け、残りの被害者全員を陸華仙にて待機させてもらうよう手筈を整えております。」

「そうなんですね。それは安心しました。」

 

萩樷の言葉で哲郎は今の自分の行動が最善ではない事を理解した。今の自分に求められているのは一刻も早く彩奈達と合流する事だ。

 

(そうだ。そうじゃないか。ここでただ考えていても出来る事なんて限られてる。今はそれより早く彩奈さん達と合流してこの事を正確に伝えるんだ。)

 

そう思い直して哲郎は立ち上がった。少しづつではあるがこの帝国を運命を分ける戦いが始まろうとしている予感をひしひしと感じていた。

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