異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#308 Strange Migration 4 [Moving And Shooting]

萩樷が用意した馬車の窓から、哲郎は太陽が山の裏へと沈んでいく光景を見ていた。そしてそれによってようやく認識する。自分はまだ一日しかこの帝国で生活していない事を。

 

帝国について早々彩奈を山賊達から助け出し、その後金埜と出会い成り行きで武道会に参加する事になった、その初日すら一番忙しい日だと感じていたにも関わらず、今日という一日は多忙という点において昨日を遥かに凌駕した。

 

(朝に呑宮に着いて、武道会に出てそこで色々な情報を得て、鳳巌に連れ去られて、それで今か。ここまで忙しい日は今までなかった。ってそれは昨日も思ってた事だけど、これから今日以上に忙しい日ってあるのかな。

…………まぁそれはそれとして、問題は━━━━━━)

 

哲郎は早めの夕食として渡された白飯の塊(おにぎり)を数個口に運びながら一つの思考に捕らわれていた。それは言うまでも無く、自分が遥かに早く俔剴町に着いたその謎である。

 

(そもそも鳳巌が僕を俔剴町に追い出す気だったのかって話だよな。僕が()ここに居る方法が転生者の能力なのはほぼ間違いないとして、問題はどうやって、そしてなんでそんな事をしなければならなかったのか だよな。)

 

哲郎は犯人は敵の転生者であると断定し、思考をその先、即ち方法と理由に集中させていた。

 

「哲也さん、大丈夫ですか? 拉致事件に巻き込まれたばかりでお疲れでしょう? 私には構わず、どうぞ休んでください。」

「ああいえ、大丈夫ですよ。 眠たくなったら寝ますので。」

 

哲郎の隣には、鬼門組の制服に身を包んだ女性が座っている。哲郎の護衛役として馬車に同乗している。

 

「分かりました。長い旅路になります。ですが必ずもう一度ご家族に合わせる事を約束します。ですからどうぞ

ッ!!!?」

「!!?」

 

話の途中で女性が耳に手を当てて驚愕の声を漏らした。彼女の耳には通信の魔法具が装着されている。その通信機が異常な何かを傍受したのだ。

 

「━━はい。 はいはい。

━━━━ええっ!!!? ほ、本当ですか!!?

……はい。分かりました。直ぐに萩樷支部長にも共有します。 はい。」

「……………!!」

 

女性の受け答えの声しか聞こえないにも関わらず、ただならぬ事を聞いたのだと、哲郎は察知した。そして鬼門組(警察組織)に入ってくる情報は事件関係であると相場は決まっている。

 

「あの、どうかしたんですか? もしかして事件ですか?」

「はい、実はその通りで、殺人事件なんです!!!」

「ええっ!!?」

「ここから東に大きく進んだ場所で、一人の男性の遺体が発見されたと通報があったんです。

頭部を横から撃ち抜かれて即死状態。死後一時間弱との事です。ただ妙な事に、それだけの損傷があるにも関わらず、凶器も、それが使われた痕跡もどこにも見つかっていないそうで━━━━!!」

(それだ!!!)

 

女性の話を聞いた瞬間に哲郎はその殺人事件の被害者が哲郎を移動させる役目を受けた男であり、犯人が敵の転生者であると確信した。今の話の中においてもそれを確信させるだけの情報が含まれていた。

 

(死亡推定時刻が一時間程度なら僕が追い出(解放)された時期とも一致する!! それに凶器も痕跡も残さずに殺すなんて転生者の能力でもないと不可能だ!!

……だけど、『速く動く』事と『頭を撃ち抜く』事なんて一つの能力で出来るのか………?)

 

(殺人事件の犯人が敵の転生者であると仮定した場合)今まで得た情報を統合すると、敵の転生者の能力は最低でも『速く動く』事と『頭を撃ち抜く』事が出来る事になる。問題はその無関係に思える二つの事を一つの能力で出来るのかという事だ。

とはいえ哲郎は転生者の能力は応用次第で様々な事が出来るようになる事を身を以て体験している。実際に哲郎は最初から出来ていた『状態への《適応》』だけではなく、浮遊(重力への《適応)》や加速(速度への《適応)》などを行えるようになった。しかしそれを考慮した上でも今の二つの事を本当に出来るのかという確信に至らない。

 

(この二つから敵の能力を推理出来ればと考えたけど、それは難しそうだな。

……そもそも、そこまでして敵がこんな事をする理由って何なんだ? 僕がここに居る(・・・・・)事で得られるメリットなんて移動に時間が掛かる(・・・・・・・・・)くらいしか━━━━━━━━)

「ッ!!!!!」

「!!? ど、どうしましたか!!?」

(ま、まさか!!! まさかそういう事(・・・・・)か!!!!?)

 

哲郎が至った結論とは、哲郎に時間を掛けて移動させる事によって出来た隙を利用して敵の転生者が別行動を取っている彩奈達に奇襲を掛けるという可能性だった。その最悪の可能性が脳裏に過った瞬間、哲郎は半ば反射的に隣の女性に迫っていた。

 

「あ、彩、 杏珠さんは!!? 杏珠さんは無事なんですか!!!?」

「!? ろ、陸華仙の方から異常があったという報告は受けていませんが……………。それでなくとも鬼門組の名にかけて、必ず何物にも手出しはさせないと約束します。」

「あ、は、はい。 そうですよね。すみません。」

「?」

 

そう言って哲郎は女性から離れたが、哲郎の心中は全く穏やかではなかった。彩奈達の無事を祈ると同時に一刻も早く彼女達と合流したいという思いが強く働いていた。

 

 

 

***

 

 

その時、哲郎が乗る馬車を遠くから見ている人物が居た。その人物は哲郎の発言も正確に聞き分け、その上で哲郎を嘲笑った。

 

(フッフッフ。勝手に早とちりしてくれて助かるよ。精々神経を擦り減らしてろ。

だが、今日やる事はもうない。勝負は明日だ。明日、お前らも皇帝もこの国も全て潰してやるよ………………)

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