異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#309 Nightingale Elegy Part1 ~Prolog~

(……あぁ。やっと太陽が沈んで夜になった……………。いや、もうって言うべきかな。

今日中には哲郎さんに会えると思ってたのにな……………)

 

時刻は()。彩奈は陸華仙(・・・)の部屋の窓から見える山の裏に沈む太陽を見ながらそのような事を心の中で発した。哲郎は帝国において最悪の犯罪組織に囚われた身であり、今日中(・・・)に会う事は疎か本来ならば再び会う事すら疑うべき事態だが、哲郎ならばどうにかしてくれるのではないかと思わせるような何かを彩奈は感じていた。

しかし、哲郎に会えないと決まった訳ではない。丒吟地方を出発し、明日の朝には陸華仙に着けると連絡はあった。

 

鴻琴と鬼門組の面目を簸翠から守る為の戦いに勝利した彩奈達は《蕺》に蕺喬、そしてある程度の警備を置き、虎徹や苺禍を含むその他全員は皆 簸翠の身柄と共にこの陸華仙に舞い戻った。到着後すぐに彩奈達はそれぞれの部屋に移動され、食事と入浴が済み次第早急に就寝するようにという指示を受けた。

他人に食事や就寝の時期を強制されるのは面白くは無いが、彩奈は理屈の範疇で彼等の気遣い(・・・)を快く思うべきだと理解している。今日だけでも彩奈は武道会の観戦し身内の拉致現場に巻き込まれ、そして陸華仙(警察組織)(大病院)の往復と暗殺者との戦闘を経験している。彼等が彩奈の身体が休息を欲しているという推測へ至るのは自明の理だ。

 

(ご飯も食べたしお風呂にも入ったし、もう起きててもしょうがないかな。やる事やってもう寝よう……………)

 

就寝する為の完全な準備を行う為に彩奈は腰を上げた。そして部屋に備え付けられた洗面台へと足を運ぶが、それを扉を叩く音が呼び止めた。

 

(? 誰だろ。虎徹さんかな。それとも苺禍さん……………?)

「は、はい。 今出ます

ッ!!?」

「おや、もしや寝るところでしたか?」

 

扉を開けた彩奈はその予想外の来客を見上げた(・・・・)。訪問者は虎徹でも苺禍でもなく、陸華仙の総監(トップ)の凰蓮だった。あまりに予想外にして迫力満点の来客に対し彩奈は面食らい、声にもならない声を出してしまうが、凰蓮は穏やかな口調で言葉を重ねる。

 

「杏珠さん、貴方さえ宜しければ少しお付き合い願えませんか。是非ともお話ししたい事がありまして。」

「えっ? あ、はい……………。」

 

穏やかさの中に迫力を内包した凰蓮の表情に気圧され彩奈は咄嗟に否定とも肯定ともつかない返事を発する。凰蓮はその言葉を後者の意味で受け取った。

 

「そうですか。では、行きましょうか。」

「えっ!? こ、ここじゃ出来ない話なんですか!?」

「いえ、そういう訳ではなくてですね、是非ともお見せしたいものがあるものですから。」

 

鬼門組に保護されている身で今の時間から外出する事は憚られると考えたが、結局のところ彩奈は凰蓮の後について行く形で部屋から出た。

 

 

 

***

 

 

 

「……………………………!!!」

「どうです? 貴方には此れがどう(・・)見えますか?」

 

彩奈は上を見上げ(・・・・・)、喉の奥から感嘆の感情が乗った息を漏らしていた。凰蓮に連れられた彩奈は知らぬ間に屋上へと足を進めていた。凰蓮が彩奈に見せようとしていたものとは大量の眩いばかりの星々が浮かぶ夜空だったのだ。太陽が完全に沈んだ後にも関わらず、まるで照明に照らされているかのような光が彩奈に降り注いでいた。

天文学に明るくも無ければ日常的な多忙さで星や夜空にまともな関心など示した事の無い彩奈だったが、率直に、それこそ気取った理屈や根拠など無く『綺麗』という感想を抱いた。

 

「ど、どうって、とてもきれいだと思いますよ!! 私、星に詳しくはありませんけど……………!」

「…………… そうですか。

私もそう思います。確かに(・・・)この国にはこのような美しいものも少なからず存在します。しかし、それだけではないのですよ。」

「えっ?!」

 

不意に発せられた意外な言葉に彩奈は咄嗟に視線を凰蓮の方へと向けた。彩奈の目に映った凰蓮の横顔は帝国の首都 豪羅京を眺めている筈なのにどこか遠くを見ているような感想を抱かせた。そして彼の目は寂し気な印象を内包していた。

 

「それって、豪羅京(この町)の事ですか……………!? 夜空とは違いますけど、これもきれいだとは思いますけど……………!」

「確かに、此の豪羅京も見方によっては美しいものだと言えるでしょう。ですがそれだけではない。そのような綺麗事一つでこの国の全ては語り尽くせません。 世の中には政治の陰で涙を流している者も居るのですよ。

例えば、鳳巌(・・)とかね。」

「ッ!!!!?」

 

凰蓮の口から発せられるとは思いもしなかったその言葉に、彩奈は先程とは比べ物にならない程の声を発した。思いもしないを通り越して、発せられてはならない(・・・・・・・・・・)とすら思える程の発言だった。

 

「驚くのも無理はありませんね。ですがこれこそ貴方に話したかった事なのですよ。

杏珠さん、貴方に私と鳳巌の事(・・・・・・)を全てお話しします。」

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