互いの胸の内を曝け出し合った凰蓮と鳳巌は憑き物が落ちたかのようにより一層生き生きと明るくなり、活発的に村の漁業に従事した。そしてその傍ら、いつか来るであろう刹喇武道会で対戦するその時の為に互いを高め合った。この時、凰蓮達は十代の半ばであり、武道会への出場資格の獲得まで日を数える。
━━━━━━━━ボキィン!!!!
『!!!!』
その音は、二本の木の棒が圧倒的な膂力に耐え切れなかったが為に折れた音だ。
とある日、海の状態は近年稀に見る大時化で漁師達はその日の出航を断念し、村民は皆つかの間の休息に浸っていた。村では皆日々の激務の疲労を癒す為に家から出ようとはしなかったが、その中で例外が二人居た。それこそが凰蓮と鳳巌である。既に二人は村一番の力自慢としての地位を確立していた。
二人は村の小屋に移動し、その中で手に棒を持っての組み手を行っていた。しかし小屋から響く音はとても木と木が衝突して鳴るものではなく、傍から見れば金属製の真剣がぶつかり合う音にしか聞こえなかっただろう。
当時の二人の実力は互角だった。互いの
「……………ふぅっ!!
此れで五百三十四勝五百三十三敗六十一引分。僕に追いつくには至らなかったね。」
「ふん、言ってろ。俺が何回お前を追い抜いたと思ってる。また直ぐに追い付いてやるさ。」
「そんな吞気な事言ってられるのかい? 武道会に出られるようになるまでもう時間は無いよ?」
互いに刺々しい言葉を飛ばし合っているが、二人の表情は穏やかだった。その理由は大きく分けて二つ、組み手による疲労が感情の起伏を抑えた事、そして武道会の場で実力を示す自分達の姿を思い描いていたからだ。
「それより聞いたか? 今年も優勝者が出たらしいぞ。」
「僕も外から聞いたよ。確か一矻地方の農家の長男だって話だったよね。」
「おうよ。今やそいつも豪羅京のお偉いさんの目に留まって、用心棒の道を進み始めたって聞くぜ。それに噂じゃそいつの故郷で作られた野菜を料亭で使うって話も浮かんでるってよ。」
「僕も聞いたよ。それできっとその村も潤うだろうね。村から一人優勝者が出るだけで此処迄変わるんだから、全く夢のある話だよねぇ。」
刹喇武道会で優勝延いては優秀な成績を残した者は権力者の目に留まるばかりではなく、首都の人間がその者の故郷の産業を利用する事に前向きになる場合もある。帝国から経歴や生まれなどの色眼鏡無く優秀な人材を見つけ出す為の仕組みだ。
無論、二人も簡単に優勝できるとは思っていないが、少しでも優秀な成績を残す為に死力を尽くすつもりなのは変わらない。
「━━━━なぁ、もしお互い一度も試合出来ずに一回戦で負けたら、その時はどうする?」
「今からそんな弱気な事を言ってどうするんだい? じゃあ逆に聞くけど、どうしたら良いと思う?
二人共に身を引くか、それとも決着が付くまで未練がましく続けるか。」
「そりゃもちろん身を引くべきだろうよ。そんな情けないやり方で勝ち取った所で嬉しくもなんとも━━━━」
「あー! やっぱりここに居た!」
『!』
凰蓮と鳳巌が顔を流れる汗を拭いながら話し込んでいる所に雨風を凌ぐために笠や蓑で身を包んだ少女が入って来た。雨に濡れた笠や蓑を脱ぐと茶髪を肩の付近で切り揃えた快活な顔が露わになる。その少女こそが凰蓮と鳳巌の思い人である《鶯蘭》だ。
尚、凰蓮と鳳巌は武道会の件を他言してはいない。知っているのは二人だけだ。
「全く。こんな時くらいゆっくりしてればいいのに。
ほらこれお昼ご飯。どうせ戻ってくる気無いだろうからここで済ませとけって。」
「おう! これは……!」
そう言って鶯蘭は笹の葉を加工して作られた包を二人に手渡した。中には大きなおにぎりが三個ほど入っている。一目見て二人は鶯蘭の手作りだと理解した。
「なぁ、中に入ってるこの漬物ってお前の手作りだったよな? 確か半年前に漬けてた。」
「あー 覚えててくれたの? そうなの。やっとご飯に合う味になってね。お母さんから教わった作り方だけど、ちゃんと漬かってるかな?」
「うんうん。ぴったりな味になってるよ。全くこんな料理を毎日のように作ってもらえるなんて僕達って幸せ者だなぁ。」
「ちょっとちょっと? いくら褒めてもそれ以上は持ってきてないよー?」
先程まで二人の少年がぶつかり合い木と木が衝突する音が響いていた小屋の中に、今度は三人の少年少女の笑い声が響く。この三人の関係こそ凰蓮と鳳巌が約束を交わしてまで壊したくなかったものだ。
しかし次の瞬間、鶯蘭の口から三人の運命を大きく左右する言葉が発せられる。凰蓮は今でもこの提案に反対していればどれ程良かっただろうかと考える。
「ねぇ、二人って何かの武道会に出る気なんだよね? 別にそのまね事って訳じゃないんだけどさ、私も料理の大会に出ようと思ってるんだけど、どうかな?」