異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#312 Nightingale Elegy Part4 ~Departure Of The End~

鬼ヶ帝国において年に一度、一矻地方にて大規模な料理大会が開かれている。全国から選りすぐりの腕自慢が集められ、地方一の料亭にて出場者が作った料理を国の権力者達が食べ、その勝敗を決めるのだ。

そしてその大会には二種類、全国の精鋭達が鎬を削り合う《精鋭の部》と無名の人達が己の実力を示し合う《一般の部》が存在する。一般の部では毎年のように実力者達が権力者の眼鏡に適い、全国でその実力を遺憾なく発揮している。

 

しかし、その料理大会の歴代出場者の名簿には本来ある筈の名前が無い。凰蓮は鬼門組に入団して大会の出場者の名簿を見て初めてある事件(・・・・)の真相を知った。

 

その名前こそが《鶯蘭》である。

 

 

***

 

 

凰蓮達が住む屋敷の中で、様々な音が響いていた。包丁が食材を切る音、鍋の中で出汁が煮える音、火に食材が焙られる音。それらは全て一人の少女の動作によって鳴っている。

 

「━━━━ふぅっ!! 出来た!!」

 

少女がそう完了の宣言の言葉を発した。彼女の眼前には机一杯に料理が並べられている。しかしそれらは誰かに振る舞う為だけに作られたものではない。料理は謂わば《予行演習》の意味合いを兼ねていた。

 

「ねぇ、今で何分くらい?」

「四十三分だね。時間ぎりぎりだから、もう少し効率良くした方が良いかな?」

「確かにな。野菜の切る早さと日の通し方は改善できるな。最低でも四十分には抑えるべきだ。」

 

料理を作っていたのは鶯蘭であり、彼女の前には凰蓮と鳳巌が居た。しかし、彼等は料理の《味》ではなく鶯蘭の《効率》に改善案を呈した。その理由は、鶯蘭が出場しようとしている料理大会にある。

その大会で競われるのは料理の味だけではなく、制限時間が設けられている。出場する者はその部を問わず指定された料理を五十分以内で作る必要がある。その為、大会出場者は四十分程度で料理を仕上げる必要があるのだ。

 

「ん~ 三分か……。火の通し方はこれ以上短くできないし、やっぱり包丁捌きだね。

で、肝心の味の方はどう?」

「うんうん。とても美味しいよ。野菜に確り出汁が染み込んでるし、お米も粒が立ってる。」

「……今日も肉の火の通りは問題ないな。万が一にも食べた奴等が腹を壊したりしたら失格では済まないからな。優勝できなくてもそこだけは抜かるなよ。」

 

今回の審査員は凰蓮と鳳巌だが、鶯蘭が大会に出場すると決まった日から僅か数日で村中の人間が鶯蘭の料理に舌鼓を打っている。皆一様に絶賛しているが、鶯蘭はそれでも安心していない。

 

「まぁ、お前は何を言っても安心はしないだろうがな。村一番と持て囃されて出場したにも関わらず、身の程知らずと蔑まれて一回戦敗退などという目に遭う気は無いだろ。」

「そんなの当たり前でしょ。その点君達は明確な物差しがあるから良いよね。こないだ二人共一人でこんな大魚を釣ったって聞いたよ?」

 

鶯蘭はこんな(・・・)と言いながら、両手を広げて見せた。実際に二人が船釣りにて釣り上げた魚は体高、体重共に二人の倍以上もある大物だった。余談だが、その魚の肉は村だけでなく村外にも売られ、かなりの金額を村に納めた。

 

「はっはっは。確かにあの魚はついこの前までの僕達だったら手に余る大物だったろうね。」

「そうでしょ? 自分の実力が分かるって幸せな事だよ? まぁ、私も全く通用しないとは思ってないけど……………」

「大した自信じゃないか。そこまで言うなら大会で思う存分その実力を発揮して来い!」

 

鶯蘭特性の料理を囲んで再び三人の笑い声が部屋中に響いた。そうしている間にも各々が自らの夢の一歩を踏み出す時は刻一刻と迫っている。それでも三人は自分達の進む道は平坦ではなくとも希望に満ち溢れていると信じて疑わなかった。しかし彼等は直ぐに、その思い込みが余りに空虚な幻想だった事を思い知らされる。

 

*

 

それから数年後、遂に三人はそれぞれが出場しようとしている大会への参加資格を満たした。最初に村を出たのは鶯蘭だった。それは単純にその料理大会が刹喇武道会より早く開催されるからだ。凰蓮は当時の事を強く後悔している。この後に起こる事が分かっていたならば、自分はきっと三人の関係を犠牲にしてでも鶯蘭を強引に止めただろう と。

 

 

*

 

「━━━━とまぁ前置きが長くなりましたが、此れが私の故郷の話です。」

「………………!!!」

 

数分に渡って綴られる衝撃的な事実の数々に、彩奈は唯々圧倒されていた。凰蓮と鳳巌が幼馴染だった事実もさる事ながら、一際関心を寄せるべきは鶯蘭という女性だ。

 

「……………そ、そ、それで、その鶯蘭っていう人はどうなったんですか? 勝てたんですか!? というか今はどこで何を━━━━!?」

「……………残念ながら、その質問には答えられません(・・・・・・・)。鶯蘭はその大会には出場しなかったのです。

……………鶯蘭が生きている姿を見たのは、その時が最期でした。」

「ッ!!!!?」

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