十五年前まで繪雅の屋敷に囚われていた女性 弍啊の証言は続く。彼女が語るのは屋敷の中に鳳巌という
「………はい。それはもう見上げるような大男でした。全身を真っ赤な布で覆って物凄い表情を浮かべていました。最初は何が起こってるのかまるで分かりませんでした。あの部屋は屋敷の最上階にあったんです。ですからあの大男はそこまで跳ぶかよじ登るかして部屋まで来たって事になるんです。
次の瞬間にはこう、首を掴んで、片手で軽々と繪雅を持ち上げたんです。繪雅の体重ですか? 多分ですけど、二十羅貫(約60キロ)くらいはあったんじゃないですかね。それを顔色一つ変えずに片手で持ち上げたんです。並の力じゃないですよ。
その時の繪雅ですか? 勿論大男が入って来た事に驚いて、暴れて抵抗していました。最初は大男に向かって『なんだこの手は』とか『さっさと離せ』とか、そんな高圧的な事を言ってました。だけどあの大男は一言、『貴様がさっさと消えろ』と言うと、
その後ですか? 私の番だと思いましたよ。だって目の前で人が殺されたんです。私も殺されると思うのが当然じゃないですか。だけどあの大男は私には目もくれずに部屋から出て行きました。
その後すぐに私は気を失ってしまいました。その時私は手酷く殴られて虫の息でしたからね。目を覚ました時には町の病院でした。その事件で私が知ってるのはこれで以上です。」
「そこからは私が話しましょう。」
弍啊の証言を捕捉する形で口を開いたのは《
「ええ。通報してきたのは繪雅の屋敷の人間でした。最初はまさかと思いましたよ。彼等は我々鬼門組をまるで信用しておらず、面倒事は自分達で解決していましたから。今となっては恐らく、後ろ暗い事を嗅ぎつけられるのを恐れていたんでしょうね。
ですが通報の声が尋常ではなかったのでね、只事ではないと思いましたよ。まぁ尤も、通報がある以上は駆け付けますけどね。兎にも角にも、そういう訳で私はあの屋敷に駆け付けたんです。」
埔斑が屋敷に到着した時間は日が沈んでから数時間が経過した頃だった。彼等は到着して屋敷を見て激しく驚愕した。そこにある筈の光景が全く異なっていたからだ。
「通報を受けてから駆け付けるまでの時間ですか? ええ。早馬を飛ばしてほんの十数分で。
………ですから、あの屋敷で起こった惨劇も、一人の男の手によってその十数分で行われた事になります。」
まず埔斑達が見たのは屋敷の庭に転がる大量の男達の遺体だった。いずれも鳳巌の手によって命を奪われた繪雅直属の傭兵である事が後の捜査で判明している。
「ええ。月明かりに照らされて、庭一面に赤い血が染み付いていました。一目見た時、私は何か《統一感》みたいなものを直感的に覚えました。それが何故なのかはすぐに分かりました。
その遺体は全て同じ鎧に身を包んで、全員が斬り殺されていたんです。全員が繪雅の傭兵で鳳巌の手によって切り殺されたんだから、当たり前ですけどね。」
後で判明した事だが、埔斑達が駆け付けた時には既に鳳巌の手によって屋敷の人間の
「これは現場の状況や遺体の状態から推測した結果なのですが、まず鳳巌は繪雅を扼殺し、その後駆け付けた傭兵達を次々に返り討ちにして、その最後に繪縲を殺害したと我々は考えています。それが僅かな時間の中で行われたのは間違いありません。現場に飛び散った血痕は全てまるで乾いていませんでしたから。
その時鳳巌が何処に居たかですって? 直ぐに見つけましたよ。奴は屋敷の屋根に立っていたんです。片手に奴の身の丈程もある大きな刃物を持っていました。あれがあの屋敷に居た人間達の命を奪った凶器と見てまず間違いありません。
その後奴は我々の姿を見るや否や踵を返して走り去りました。ええ。屋根から屋根へと飛び移って。あの巨体で考えられませんよ。勿論追いかけましたが、結局追い付く事は出来ませんでした。
その後は追跡を諦めて事後処理に専念しました。ええ。てっきりもうあの屋敷には遺体しか残されていないと考えていました。ですが事実は知っての通りです。あの屋敷に囚われていた町の女性達は無傷でした。ええ。彼女、弍啊さんもその一人でした。つまり鳳巌は何故か女性に危害を加えなかったんですよ。
ですから鳳巌を繪雅から女性達を救ったと考える人達も一定数居るんです。
それからしばらくしてですよ。その鳳巌という男が再び我々に見つかったのは。その後は、ええ。皆さんも良く知るあの事件の始まりです。」