凰蓮が刹喇武道会に出場したのは鳳巌の手によって繪縲達が血の海に沈んだ忌むべき日ー後に《繪縲事件》という名称が付いたーの数年前である。かつて武道会の選手であり凰蓮と試合をした経験を持つ《
「はい。私は惇圖の方の生まれで、武道会に出た理由も単純に自分の実力を売り込みたいというものでした。凰蓮氏との試合はその大会の二回戦です。ええ。ご存じの通り、惜敗しました。
凰蓮氏の第一印象ですか? 色々とありますが、強いて言うなら何か、強い使命感に囚われているような印象を抱きましたね。具体的にはこう、是が非でも優勝しなければならないというような強い執念めいたものを感じました。
実はその後凰蓮氏と少しだけ話が出来たんです。その話によると彼には共に出場する筈だった友人がいて、自分はその友人の分まで勝ち続けなければならないと言っていました。
いや、その友人が誰なのかは聞きそびれました。恐らく言いたくなかったんだと思います。出場直前に不慮の事故で亡くなってしまったとか、そんなところでしょう。
それでも彼の執念というか、信念というか、兎に角彼の思いは本物でした。私はその次の大会で勝ち進んで実力を買われて警備職に就く事が出来ましたが、ご存じの通り、彼は私と闘ったその大会で優勝し、見事鬼門組に入る事が出来たんですから。何というか、格の違いというやつを思い知らされましたね。何を隠そう彼はそれからたった数年で鬼門組の総監に就いた訳ですからね。」
侃銘が挙げる凰蓮が総監に就いた出来事とは繪縲事件から六年後、鬼門組の支部長補佐まで上り詰めた凰蓮と犯罪組織を束ねるまでに成長した鳳巌が激突した日の事である。
***
「━━━━━━━━い凰蓮。
━━━━おい凰蓮! 返事をしないか!」
「! あぁすみません支部長。」
場所は《
「……………お前、またその手配書を見ていたのか。こいつを許せん気持ちは重々察するが身の丈に合わん背伸びは身を滅ぼすだけだ。」
「……………はい。」
凰蓮が見ていたのは二十年以上前に離れ離れになった親友であり今は最悪の犯罪者である鳳巌の手配書だった。繪縲事件の後その凶悪さに戦慄した帝国の政府は彼の首に二十万艮(約二十億円相当)という常識外れの懸賞金を懸けた。しかしそれから五年以上、鳳巌の足取りは掴めていない。その現状に鬼門組は焦燥感を覚えていた。
凰蓮は自分と鳳巌の関係を周囲に明かしていない。繪縲事件の後、凰蓮は自分の手で鳳巌を止めなければならないという決意を強く固めた。その為に周囲に自分の過去を伏せた。私情を持ち込んでしまっている事は彼が一番良く理解していたが、鳳巌を犯罪者に変えてしまったのは自分であり、自分がその責任を取らねばならないと強く言い聞かせていた。
「凰蓮、俺はな、お前には少しでも長く生きて帝国の平和の為に尽くして欲しいと思っているんだ。お前も知っての通り、武道会の叩き上げは就職しても精々一線で身体を駆使する事が精一杯だというのに、お前はこうして俺の補佐として色々な仕事をこなしてくれている。腕っぷしだけの叩き上げには出来ない事だ。
勿論そういう奴等のお陰で帝国が回っている事は事実だが凰蓮、お前はそれ以上の事が出来ると俺は信じている。だから━━━━」
「支部長!!! 愼會支部長!!! 通報です!!!」
『!!!』
愼會が凰蓮と話している最中、匯御谷支部勤務の女性隊員が青い顔をさせて凰蓮達の許へ駆け寄った。彼女の表情からしても尋常ではない事が起こったのは明白だ。
「た、たった今通報があり、大勢の武装勢力が領主の屋敷を襲撃していると━━━━!!!」
「何だと!!? 首謀者は誰だ!?」
「つ、通報者によれば、武装勢力を束ねているのは、あの繪縲事件の鳳巌だと━━━━!!!!」
「!!!!」
鳳巌という名前を聞いた瞬間、凰蓮は女性より、そして愼會よりも早く駆け出していた。その場に居た誰もがこれから繪縲事件と同等、或いはそれ以上の被害が出るという懸念に囚われたが、凰蓮の活躍によって被害はそれより遥かに抑えられる事になる。
***
通報を受けてから僅か数十分。凰蓮は件の領主の屋敷に誰よりも早く到着した。そして自らの目ではっきりと鳳巌の姿を視認する。嘗て村に居た頃とはかけ離れた、憎悪によって醜く歪んだ、しかしそれでも自分の記憶情報と確かに合致する鳳巌の姿がそこにはあった。
犯罪者となってしまった鳳巌の姿を視認した瞬間、凰蓮は半ば反射的に地面を蹴って鳳巌へ肉迫していた。武装勢力の誰もが凰蓮の強襲に反応出来なかった。反応するよりも早く凰蓮は手に持っていた武器ー巨大な刃物ーを鳳巌に向けて振るった。
『━━━━━━━━ガァン!!!!!』
それは、凰蓮と鳳巌が持つ刃が衝突した音、そして二人の再開と開戦を告げる音だった。