九年前 それは鬼門組の支部長補佐へ上り詰めた凰蓮と犯罪組織の元締めへと成り果てた鳳巌が真っ向から激突した日である。鬼門組匯御谷支部勤務の隊員であり、件の事件の解決任務に当たっていた経験を持つ《
「いや、もう一発で。右の大振りでした。
私が駆け付けた時には既に始まっていたんですよ。当時の凰蓮総監は鳳巌の姿を見るや否や真っ先に飛び出して鳳巌に向けて持っていた刃物を渾身の力で振り下ろしたんです。それで終わっていれば話は簡単でしょうが、そうはなりませんでした。鳳巌も総監の攻撃を正面から受け止めたんです。
はい。それはもう物凄い轟音でした。とても金属同士がぶつかったとは思えないくらいの。その場に居たかなりの人間がその音だけで昏倒したんですよ。私は辛うじて耳を塞いで難を逃れたのですが、隣に居た隊員や総監の側にいた組織の男達が大勢意識を失いました。後で判明した事ですが、彼等全員の鼓膜が破れていたんですよ。」
***
俜劵は事件の証言を行っているが、彼も知らない事が件の事件には隠されている。それは凰蓮と鳳巌が交わした言葉の数々である。それを知っているのは凰蓮と鳳巌だけだ。
「……………久しい、と言うべきかな。鳳巌。」
「……………そういうお前は随分と小汚い衣を身に纏っているな。帝国の言いなりに成り下がったか。」
「………一つ答えてくれるか。六年前、大勢の人を殺した殺人犯は本当に君なのか。」
「ああ。
「答えを期待してはいないが、敢えて聞こう。一体何故なんだ。」
「知れた事だ。此の国が如何に腐っているかを思い知ったからだ。」
「鶯蘭の事か。それなら私も聞いた。其れが何故人を殺す理由になるんだと聞いているんだ。」
「理由などない。刃の一振りで耐えるような脆い者に掛ける温情などありはしない。」
そこまで聞いて凰蓮はようやく、目の前の男はかつての親友からは変わり果ててしまっている事を理解した。最早鬼門組の一員としてこれから起こるであろう惨劇を未然に防ぐ為には取れる方法はたった一つしか無い事を理解し、それを実行に移す。
凰蓮と鳳巌は戦場には似つかわしくない緩慢とした動作で持っている武器を上段に振り上げた。
「………命の価値すら見失ってしまったか。
ならば
「千七百四十九回目の勝負だな。
…………否、真剣での斬り合いは此れが初か。」
「そうだね。」
鼓膜を劈くような重厚な金属音と共に、再び凰蓮と鳳巌の攻撃が衝突した。泣き叫ぶような金属音が響く鍔迫り合い後、鳳巌が身体を沈め均衡を崩し、凰蓮の体勢を崩す。そしてかち上げるような動きで凰蓮の身体は宙に舞った。
凰蓮はそのまま体勢を立て直して着地し、再び鳳巌と向き直る。
「…………俺の手で投げられるなどと、随分と軽くなったな。その図体は張りぼてか何かか。」
「其れはきっと鬼門組の仕事で彼方此方走り回ったからだろうね。」
「……至極残念だ。ならばお前はもう俺には勝てない。吹けば飛ぶような紙屑に成り果てたお前にはな。」
「……………!!!」
凰蓮が鳳巌と衝突している中、鳳巌の下に就いた武装勢力の男達は目の前で起こる光景に圧倒されていた。自らの目的を達成しようとしている最中、突如として始まった自分達の統率者の一騎打ちを呆然と見ていた。
そして凰蓮は不意を突かれる。鳳巌と武装勢力達とには浅からず関係があったのだ。
「貴様等は早く向かえ!!! 此奴の相手は我がする!!
貴様等の手で己が自由を掴むのだ!!!!」
「!!!」
その言葉に誘発されるように武装勢力は一斉に屋敷に向けて駆け出した。凰蓮の誤算は鳳巌と彼等の間に関係が結ばれていた事、そして武装勢力達の目的を見逃した事だ。更に何故鳳巌が態々 このような事件を起こしたのか、その理由も彼の頭からは抜け落ちていた。
***
「……………はい。私達も後で調べて分かった事ですが、あの武装勢力の目的は所謂《自由》を求めて事を起こしたんです。あの領主は常識外れの高い税金を徴収し、人々から反感を買っていたんです。それが何故か鳳巌という協力者を得て、あの大反乱に発展したんです。
ですが鬼門組も負けてはいませんでした。私達も彼等の確保に向けて動き出していたんです。
………これは私の見解ですが、あの事件は凰蓮総監にとっても一種の転機だったと思いますよ。
知っての通り、あの事件を切っ掛けとして凰蓮総監は総監となったのですからね。」
俜劵の証言によって明らかになる事件は凰蓮と鳳巌の激突から始まり、そして新たな局面を見せる。程無くしてこの一連の事件は鬼門組だけでなく帝国の歴史に深く刻まれる事となる。