「……はい。私を含め、当時あの場に居た誰もがあの《繪縲事件》の再来だと思ったと思います。つまり、これから山ほどの人間が死ぬ羽目になるとね。ですがそうはなりませんでした。尤も、死人無しとは行きませんでしたが、それでも被害は遥かに抑えられました。
それもこれも、偏に凰蓮総監があの鳳巌を単独で足止めして下さったお陰ですね。彼は帝国の英雄ですよ。」
俜劵の証言は続く。彼は凰蓮と鳳巌が再開し、そして激突した事件を今でも機能の事のように覚えている。
「二人の戦いの顛末ですか? 申し訳ありませんが私も事件の鎮圧に奔走していましたからね。そうです。鳳巌が手下達に檄を飛ばした時に、私も自分の職務を全うせんと必死になっていました。手前味噌にはなりますが、かなりの数の男達を確保しました。勿論私だけじゃなく、他の隊員達も活躍してくれました。
とはいえ手放しに喜ぶ事は出来ませんけどね。何人か取り逃がして突撃を許してしまって、警備の人が死んだり逆に返り討ちをさせてしまった例もあります。ええ。今言った死人が其れですよ。」
結果的にこの事件で九人の犯人グループと三人の警備員が犠牲になった。因みに犯人を返り討ちにした警備員は全員正当防衛が認められた(尤も、その他の犯罪で逮捕され、例外なく起訴されている。)。
「話を戻しますが、戦いの顛末ですね。過程は全く見ていませんが、逆に最後は辛うじて目撃しました。……ええ。ご存じの通り、決着は引き分けでしたよ。
私が粗方の犯人を確保し、鳳巌の所に行った時には既に全てが終わっていました。あの壮絶な光景は生涯忘れませんよ。
お互いの持っていた武器の刃が、お互いの身体を貫通していたんです。そうです。こう、お互いに突きを放って、相討ちって奴です。
しばらくした後、両者が同時に武器を抜きました。私ですか? その場に居た私を含めた全員が動けずにいたんです。何かこう、干渉してはならないものを感じてしまってね。
抜いた後は、そうです。刃という栓が抜かれた訳ですからね。腹部から夥しい出血ですよ。それまでの戦いでかなり斬り合ったからでしょうね。二人共大小様々に切り傷塗れの血塗れで、限界が来ていたんでしょうね、二人とも膝を突きました。それでようやく動けたんです。全員で鳳巌を確保しようとね。
ですがしぶといのがあいつです。我々を吹き飛ばして逃げ出し、そして仲間、襲撃とは別の仲間が用意していた馬に乗って逃走を許してしまったんです。ええ。逃走したのは鳳巌一人でした。 ……………逆に鳳巌は逃がしてしまったとも言えますけどね。
凰蓮総監ですか? 重傷だった訳ですから勿論病院に救急搬送ですよ。因みにその時総監の治療を行ったのはあの蕺喬女医でした。そういう訳で今、陸華仙と蕺は協力関係を結んでいるんですよ。
その後は皆さんも知っているように、新しい鬼門組総監の誕生ですよ。」
***
「……………其れが、私が最後に鳳巌の顔を見た日でした。」
「…………………………!!!!」
凰蓮の口から語られる数々の衝撃的な事実に彩奈は唯々 圧倒されていた。時折、自分は何処かの創作物の世界に迷い込んでしまったかのような錯覚に陥った。それ程までに凰蓮の口から語られる話は非現実的だった。
「生死の境から目を覚ました後は兎に角大変でした。先ず、上から激しい追及を受けました。まぁ、独断で勝手に襲撃の主犯と一戦交えたのですから自業自得と言われれば其れ迄なのですけどね。其れで私は敢えて自分と鳳巌の関係を洗いざらい話しました。庇っていると思われないために、鶯蘭の事も含めてね。
其の後は綱渡りのような毎日でした。鬼門組を追われるか否かの瀬戸際に何度も立たされました。」
「だ、だけど、そうはならなかった……………」
「運が良かっただけです。誠意を持って鳳巌を自分が捕まえると言った事と、
其れからは今日迄、帝国の治安維持と鳳巌の足取りを辿る生活を続けました。そしてつい最近、鳳巌が巨大な犯罪組織の頭になっている事を突き止めたんです。尤も、私と同じで唯の成り行きでしょうけどね。」
彩奈は頭の中で点と点を繋げていた。昨日の山賊団と珂豚と翡翠と鳳巌は全て繋がっているのだ。
「……………杏珠さん、最初に私が言った事を覚えていますか? 私は此の国には美しい部分も汚い部分もあると言いましたね。ならば私は此の国の美しい部分を少しでも増やそうとし、鳳巌は汚い部分を憎悪したのだと思っています。それこそ、今この場に居て貴女と話しているのが鳳巌だった未来もあったのではないか とね。」
「えっ!!? そ、そんな訳ありませんよ!!
鬼門組の
「そう言って頂けると、この道を選んだ甲斐が有るというものです。」
「総監!! 凰蓮総監!!!」
『!』
凰蓮と彩奈の前に現れたのは苺禍だった。
「やはり此処に居ましたね! まだ年端も行かない少女を連れ出して! 一体今何時だと思ってるんですか!!
もう日付が変わってます!! 就寝時間はとっくに過ぎてますよ!!」
「おやおや。ついつい話が長くなってしまったのですね。分かりました。
杏珠さん、私が誘っておいてなんですが、行きましょう。」
「は、はい……………」
日を跨ぐまで起きているという人生初の体験をした彩奈は苺禍に連れられて自分の部屋に向かった。こうしてようやく鬼ヶ帝国の激動の二日目は各々の感情や陰謀を内に秘めたまま、終わりを迎えた。