#321 Juvenile and Garuda
鳳巌の根城から
誰が言及するでもなく、今日この日が鬼ヶ帝国の運命を左右する一日になるだろうという事を確信していた。
「…………じゃあまず、お互いの情報を擦り合わせる事から始めましょうか。
まずは僕から。色々ありましたが一番大きな事は、やっぱりあの根城で鳳巌の日記を読んだ事ですかね。」
「日記……………?」
「はい。鳳巌の根城の中の倉庫のような場所で見つけました。具体的には鳳巌の子供の頃の様子が書かれていました。」
「!」
日記の内容を話し始めた瞬間、彩奈の顔色が変わった。
「? どうかしましたか?」
「わ、私、聞きましたよその話! 凰蓮さんから、子供の頃の話を!!」
「えっ!!? 本当ですか!?」
「は、はい! 小さな海沿いの村で暮らしてたって……………!!」
「(あの日記と同じだ…………!!)
すみません。一度僕が読んだ日記の内容を全部話してからにして下さい。その後に凰蓮っていう人から聞いた話と一致しないところが無いか判断しましょう。」
「あ、は、はい……………!」
*
哲郎は日記の内容を文字を一文字一文字読み上げるように、凰蓮と鳳巌の在りし日の日常、鶯蘭という女性が料理の大会に出ようとした事、その鶯蘭が一向に帰って来ない事が記載されていた事を順を追って話した。
「………で、残念ですが日記はそこで終わっていました。ここまでで何か彩奈さんが聞いた話と間違ってるところはありませんか?」
「いえ、あの人から聞いた通りです。後私、
哲郎が話し終えると次は彩奈の番だった。人と話す事に慣れていない彩奈は凰蓮から聞いた話を神に箇条書きにしていた。それを基に数分以上を掛けて凰蓮の過去話を哲郎に話し終えた。
「━━━━で、その事件の後に、凰蓮さんは鬼門組の
「なるほど。これでようやくあの記事の事件の全容が分かりましたよ。それで、他に分かった事はありませんか?」
「い、いえ、それ以外は……………」
「そうですか。では僕からもう一つ、
鳳巌の娘を名乗る女性に出会いました。」
『ッ!!!?』
***
哲郎が言った鳳巌の娘を名乗る女性とは、彼が鳳巌の根城内で交戦した《黐咏》である。哲郎は彼女の容姿や言動を話した。交戦から半日以上が経過した現在でも彼女の印象は哲郎の脳裏にはっきりと記憶されている。
「━━━━で、隙を見てその人から逃げて来たという訳なんです。」
哲郎が話し終える時には彩奈も、それまで一言も話さなかった虎徹も動揺を隠しきれないというような顔をしていた。哲也はその反応を予測していた。今この場に居る者の中で他でもない哲郎本人がその事実を受け止め切れていないのだ。
驚愕の一色に染まった空気を変えたのは虎徹の言葉だった。
「………一つ確認するが、其の娘が現に彼奴の娘を名乗っていたのか。」
「はい。それに鳳巌を『パパ』と呼んで完全に肩を持つ行動を取っていました。僕の事を殺しに来たくらいですから。」
「……………そうか。ならば儂に言えるのは唯一つじゃ。
其の娘が彼奴の実娘である可能性は皆無という事じゃ。」
黐咏と交戦した直後の哲郎も虎徹が言った結論に辿り着いた。そしてその根拠も同じだった。
「……やっぱり虎徹さんもその結論に辿り着きますか。」
「うむ。彼の獣同然の男に言い寄る女子など居る筈も無い。其れに加え血縁が居るならば血眼になって探しておる鬼門組の者共が気付かん道理も無い。ならば考えられるのは其の娘が鳳巌に拾われた者であるという可能性だけじゃ。尤も、その経緯は知る由も無いがな。」
「僕も全く同じ事を考えました。後これは僕の勝手な空想ですが、もしかしたら鳳巌はその黐詠という人に鶯蘭さんを重ね合わせたんじゃないかと。」
『……………!!!』
哲郎の推測は全く根拠の無いものだった。哲郎は日記の記載から、彩奈は凰蓮の話からしか鶯蘭の情報を得ていない。この場に居る全員が鶯蘭の顔すら知らないのだ。
そしてその話を聞いていたのは彩奈と虎徹だけではなかった。
「……皆さん、此処にいらしていたんですね。」
「!!?」「お、凰蓮さん!!」
(凰蓮!!? この人が、鬼門組の
哲郎の背後には凰蓮が立っていた。この時が哲郎と凰蓮の初対面だった。
哲郎は鳳巌と同等の体格を持つ凰蓮に鳳巌とは異なる迫力を見出した。
「………こうして顔を合わせるのは初めてですね。初めまして、鬼門組 陸華仙の現総監の凰蓮です。
時に哲也さん、何やら非常に興味深いお話が聞こえましたが、私にも詳しくお聞かせ願えますか?」