異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#322 Juvenile and Garuda 2 ~Rotten Friendship~

帝国潜入の二日目の昼頃に鳳巌に拉致された哲郎と凰蓮が対面するのはこれが最初である。哲郎もそれまでに凰蓮についての様々な事前情報を仕入れてはいたが、それでも実際に顔を合わせると想定を超えた衝撃が哲郎を襲った。

 

そして現在、彩奈の部屋にて哲郎と凰蓮が座って対面して口にしたのは凰蓮だ。

 

「色々とお聞きしたい事は在りますがまず、貴方は其の娘と交戦したと言いましたが、鳳巌に拉致された後拘束されなかったのですか?」

「最初は狭い檻の中に入れられました。ですが隙を見て脱走しました。それで安全な場所を探していたらその娘を名乗る人に出くわしたんです。」

「成程。では次に、その女性について分かっている事を出来る限り教えて下さい。」

「分かりました。」

 

哲郎は黐咏の情報として彼女の容姿服装と使用した武器を鮮明に話した。哲郎にとってその行為は簡単なものではなかった。記憶を辿って黐咏の情報を思い起こす度に当時の緊張が克明に蘇ってくる。

 

「……………赤い長髪に和服、そして装備は長い刀と投擲用の小刀 ですか。

分かりました。ではその女性の似顔絵を作るとしましょう。担当の者を呼んで参ります。」

「!!」

 

凰蓮は黐咏の似顔絵を作ると言った。哲郎はその言葉を聞いた瞬間、次に起こるであろう事を察知し顔を青くさせた。

哲郎も(テレビドラマの中の話とはいえ)こういう場合はそのような方法を取る事があるという想定はしていた。しかしそれでも動揺を示したのはそれによって哲郎の無根拠な推理が当たっているか否かが分かるからだ。

 

哲郎は黐咏を鳳巌の実の娘ではないと考え、そして鳳巌が黐咏を義娘にした理由を黐咏に鶯蘭を重ね合わせたからだと推測した。この推理にまるで根拠は無く、他の誰かが聞けば一笑に付されそうになる程に荒唐無稽な考えである事を他でもない哲郎自身が自覚している。

しかし今、その推理が正解か否かが問われようとしている。黐咏の顔を知っている哲郎と鶯蘭の顔を知っている凰蓮が対面するという状況がその条件を満たしていた。

 

*

 

似顔絵担当の鬼門組隊員の男ー名前を峨彩(がさい)と名乗ったーの質問に哲郎は出来る限り正確に答えた。目の形、髪型の詳細、鼻立ち、口の形状、そして轟鬼族特有の特徴である角の形状。数分を掛けて哲郎は様々な情報を峨彩に開示した。

哲郎が詳細を話す度に峨彩の筆を持つ指が紙の上を滑らかに動く。そして哲郎が持てる情報を残らず開示し終わる頃には紙の上に一人の少女の顔が完成していた。それは哲郎の記憶に深く刻まれている黐咏の顔と瓜二つだった。

 

「……………!!!」

 

哲郎には全く絵の才能が無いという訳では無い。少なくとも図画工作の授業で苦労した記憶は哲郎には無い。

しかしそれでも峨彩の技術の高さに言葉を失っていた。峨彩が描いた黐咏の顔は実物をそのまま克明に描写していた。それは(モノクロの)写真と見間違う程だった。哲郎にそこまでの技量が無いが故に圧倒される他無かった。

 

「哲也さん、貴方が見た娘を名乗る女性はこの顔で間違いありませんか?」

「あ、はい! こんな顔でした。」

「成程成程。これは……………」

 

哲郎と同様、凰蓮も峨彩が描いた黐咏の似顔絵を吟味するように見つめている。それを見た哲郎は満を持して凰蓮に問い掛ける。

 

「……………凰蓮さん、僕は鳳巌が黐咏という女性を娘にした理由は鳳巌がこの人と鶯蘭という人を重ね合わせたからではないかと考えています。凰蓮さんはどう思いますか。」

「……………そうですねぇ。全くの瓜二つとは言えませんが、それでも雰囲気に共通する部分は見受けられます。哲也さんの考えが当たっている可能性も無いとは言えないでしょう。

 

……………ところで今、《鶯蘭》と言いましたね。その情報源はもしや鳳巌の日記ではありませんか?」

「!!? どうしてそれを!?」

 

凰蓮は哲郎がまだ彼に開示していない情報を平然と指摘して見せた。哲郎は面食らったが凰蓮は更に言葉を重ねる。

 

「やはりそうでしたか。この時になってもまだ保管していたとは。因みに其れは何処で?」

「鳳巌の根城の中に倉庫のような部屋がありました。日記はその中に。ちなみにですが、その日記は鶯蘭という人が失踪した時期で終わっていました。」

「!! そうですか……………」

 

鳳巌の日記が最後に書かれた時期は哲郎にとっては何気ない情報の一つだが、その事実に凰蓮は少しばかりではあるが顔を顰めた。その時期は若かりし日の凰蓮と鳳巌が鶯蘭の捜索について確執を生み、道を違えた時だ。

 

誰にも言っていない事だが、凰蓮はその日が自分達の運命を大きく分けた日だと考えている。その日、もし凰蓮が村外に出て鶯蘭を捜索し死の事実を知っていたならば道を踏み外していたのは自分の方だったのではないかと毎日のように考えている。

凰蓮のその胸中を知ってか知らずか、哲郎は核心に迫る質問を凰蓮に投げ掛けた。

 

「……………凰蓮さん。鳳巌と接触のある人間として一つ聞かせて下さい。鳳巌の事を、どう考えて(・・・・・)いますか?」

「どう考えて? 決まっているでしょう。あの男は最早私の友ではない。早急に捕らえねばならない極悪人以外の何者でもありませんよ。今日迄其の為に全力を尽くしてきました。

そして其の努力は今日報われるでしょう。我々鬼門組は今夜、鳳巌の根城に奇襲を掛けます。」

『!!!』

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