「鳳巌の根城に奇襲を掛ける」と、凰蓮はそう言った。しかし哲郎はその発言に真っ向から驚く事はしなかった。それは哲郎が凰蓮が鳳巌の根城の位置を予測している事を予測していたからだ。
「おや。存外に驚かないんですね。」
「そうですね。
「間違いありませんね。何より貴方が提供してくれた情報で辿り着いた候補地ですから。」
哲郎は鳳巌の根城に拉致された時に彩奈に二度通信を行っている。そしてその時の地点から鳳巌の根城(の候補地)はその通信の最大距離を結んだ点であるという推測がなされた。それは他でもない哲郎が考えた推測であり、自分より遥かに長く人生を経験している凰蓮をはじめとする鬼門組の面々が同じ結論に至る事は容易に予測できる。
「兎にも角にも、皆さんは事件の被害者。我々には全力で皆さんの身の安全を保障する義務があります。今日は一日此の陸華仙の中で保護します。此の鉄壁の城の中に居れば絶対に安全です。」
「……………」
「言うまでも無い事でしょうが、くれぐれも此処から出て首を突っ込むなどと言うような気は起こさないように願いますよ。
譬え我々の中の誰かが奇襲から生きて帰れなかったとしてもね。」
『!!!!』
「少し長くなりましたが、私から話す事は以上です。皆さんから話す事が無ければ私は此れで失礼します。私は此れより今夜の奇襲の作戦を練らねばならないのでね。」
凰蓮はそう言って立ち上がり、彩奈の部屋を後にした。凰蓮が姿を消し、数分以上哲郎達は口を閉ざして黙り込んでいた。奇しくも彼等の心中は全く一緒だった。
そして静寂を破ったのは虎徹の言葉だった。
「…………………………彼奴、今夜死ぬ気じゃな。」
「!!!!」
虎徹の一言に対し、
「……て、哲郎さん……………?」
「どうやら主も心当たりがあるようじゃな。」
「ええ。実は鳳巌も同じような事を考えていると、僕は考えています。鳳巌の今までの行動からそう推測しましたし、彼自身がそう言ってました。」
*
哲郎は自分が鳳巌が鬼門組に潰されて終わる事を望んでいると考えていると推測した事、鳳巌の言動を根拠にそう推測し、鳳巌自身もその推測を認めた事を話した。
「鳳巌は僕を拉致したというのに全く殺そうとも危害を加えようともしませんでした。そして彼は『鬼門組を誘き出す為の餌』と言いました。」
「それって、鬼門組を呼び寄せて、その、倒す為なんじゃ……………!!」
「いえ。それなら『誘き出して潰す』とか言う筈です。そうは言わなかった。きっと彼は珂豚みたいな仲間も仲間と思わず、自分がいつ終わっても良いと思ってるんですよ。その結果仲間達がどうなっても構わないとね。」
『!!』
哲郎の言葉には(犯罪者とはいえ)仲間である人間達を顧みない鳳巌の傍若無人さを糾弾する意図が込められていた。
「ならばどうする。此の儘凰蓮が死地に飛び込む事を指を咥えて見ている主では無かろう。何かしらの行動を起こすつもりの筈であろう。」
「もちろんですよ。とはいえ
「此処から出なければ何もしても良いという腹積もりか。傍から見れば唯の屁理屈じゃな。
じゃが今は其れでも構わんじゃろう。儂に一つ心当たりがある。」
「!
……………もしかして、鴻琴を殺そうとした暗殺者ですか?」
「ほう。既に其処迄予測しておったか。ならば話は早い。付いて来るが良い。」
***
「…………しかし今迄簸翠の名を知らなんだとは驚いたな。其れであるというのに何故儂等が奴の目論見を封じたと分かった。」
「そんな事は簡単ですよ。」
哲郎が言った暗殺者とは《
「僕は彩奈さんを通してその簸翠と言う人が動こうとしている事を伝えました。そうすれば鬼門組の人達は何かしらの行動を起こすでしょう。そしてそれには虎徹さん達もまず間違いなく同行する。
ここまで言えば分かるでしょう。」
「聞くだけ野暮じゃったようじゃな。其れにしては主は随分と儂等の事を高く評価しておるようじゃな。」
「儂等?」
「その通りよ。此の娘も目を引くような活躍じゃったのじゃぞ。なぁ?」
「えっ!!? そ、それは、その……………」
彩奈は虎徹の評価を否定はしなかった。簸翠との戦いを決着させたのは簸翠の毒の苦無を彩奈が《転送》させた事だ。虎徹は寧ろあの戦いの功労の割合は彩奈の方が大きいと考えている。
「おお、無駄話をしている間に着いたな。
……此処からは締めてかかれよ。儂等は此れから奴から情報を吸い出すのじゃからな。」
哲郎達は今、彩奈の部屋から抜け出し、虎徹の能力である《墨汁》を利用して姿を隠した上で秘密裏に行動している。そして哲郎達は今とある部屋の前に居る。
そしてその扉の向こうには鴻琴の命を狙った暗殺者《簸翠》が拘留されている。