哲郎は凰蓮から『今夜の夜襲に首を突っ込むな』という意味合いの忠告を受けた。哲郎はその言葉を表面上は守った。
裏を返せば、
簸翠は彩奈達の活躍によって捉えられ、現在は鬼門組の手の中に居る。簸翠は現在最も有力な情報源だ。珂豚の事にせよ鴻琴の事にせよ、何かしらの情報を握っている事は想像に難くない。
「…………言っておくが哲郎、なるべく早く済ませよ。いくら儂の《
「分かっていますよ。ですがその簸翠という人は絶対に情報を握っている筈です。それが分かれば何かしら対策は立てれます。敵の《転生者》に対してね。」
「………でも、どうやって聞き出すんですか? もしかして、
「否、そんな方法は取らんよ。儂には選ぶ余地がある。より穏便で迅速な方法を取る余地がな。」
彩奈が言った
しかし虎徹はその可能性を否定した。そして簸翠が拘留されている部屋の前に立ち、その鍵穴に《墨汁》の能力で文字を書く。書いたのは《解》という字だ。
「よし。此れで突入出来るぞ。」
『!』
虎徹がそう言って戸を引くと扉は簡単に開いた。哲郎は扉を施錠する閂が戸に埋まっている光景を認めた。虎徹の能力が鍵を開錠したのだ。
「…………………………!!」
「何を呆けておる。さっさと終わらせるぞ。」
(………改めて見てもこの人の能力、本当に何でもありだな………………………!!
この人が敵に回らなくて本当に良かった……………!!)
たった一文字書くだけで帝国一の警備すら容易く突破してしまえる虎徹の《
「お、居ったな。奴がそうじゃ。」
「! あの人が……………!」
哲郎達は部屋の奥で拘束されている男を見た。彼こそが鴻琴を狙った暗殺者《簸翠》である。
簸翠は檻に入れられ、その上で全身を拘束衣に包まれていた。哲郎はまだ知らない事だが、鬼ヶ帝国は死刑廃止国であり、それ故に犯罪者、取り分け凶悪犯への締め付けはより強くなっている。加えて今回の場合は簸翠が空間に関係する
故に鬼門組はこうでもしなければ簸翠を捕らえておけないという結論に至り、それを実行した。
現在、当の簸翠は(蕺喬作の)麻酔薬で眠らされている。凶悪犯であるという自覚を持って警戒をしながら、哲郎達は檻の前まで近付いた。
「………この人も鳳巌みたいに何人もの人を……………!!
! 何ですかこの肩の傷は。」
「ああ。其れは彩奈が付けた傷じゃ。」
『えっ!!!?』
哲郎が見つけた簸翠の肩の傷とは、彩奈が簸翠の(毒付きの)苦無を《転送》し肩に刺さり、簸翠が毒から逃れる為に肩の肉ごと切除した時の傷である。虎徹の言う通り、それは彩奈が付けたと言って間違いはない。
しかし、彩奈は咄嗟にそれを否定した。
「あ、い、いや、それは、私のせいじゃないっていうか、でも、私が原因っていうか、その……………!!」
「分かってますよそんな事。彩奈さんが理由も無くそんな事する訳ないじゃないですか。
虎徹さん、早く済ませましょう。やり方はもう思い付いてるんでしょ?」
「うむ。」
哲郎の言葉を聞いた虎徹は口元にニヒルな笑みを浮かべながら指先に《墨汁》を溜める。因みにその時彩奈は『理由があればやるって思われてるんだ……………!』と少なからず傷付いていた。
「では始めるとしよう。儂流の取り調べをな!!!」
虎徹は指を振り指先の《墨汁》を簸翠へと飛ばした。簸翠の胸元辺りが黒く塗り潰され、そこに文字が浮かび上がる。虎徹が書いたのは《誠》という文字だ。
それを確認し、虎徹は檻の外から簸翠に呼び掛ける。哲郎はその様子を固唾を飲んで見守っていた。これからの数分に今夜の命運が掛かっている。
「さて簸翠よ。今から儂の言う事に嘘偽り無く答えよ。先ずは主に此度の暗殺を依頼した者について知っている事を洗いざらい話せ。」