非常事態の発生を報せる半鐘の音を耳に挟みながら、哲郎は目の前に広がる光景を認識する事に終始していた。眼前の状況から得られる情報を細分化し、少しでも多く情報を得ようと努めていた。
例えば人数は軽く見積もって十数人の鬼門組の人間達と僅か数人の屈強な男達という状況である事。
例えば戦況は圧倒的に人数的有利を取っていながら鬼門組の方が侵入者の男達に圧倒されているという事。
例えば侵入者達の様子は明らかに正気を失い全身に青筋が浮かび上がり白目が真っ赤に充血しまともな言葉を口にしていない事。
僅か数秒の時間で哲郎は様々な情報を目の前に広がる光景から得た。
(何なんだこれは……………!!
あの人達が敵の《転生者》の仕業の可能性はかなり高い。何にせよ!!!)
目の前に広がる状況を独自に分析し、哲郎は駆け出していた。自分の立てた仮説が当たっていようと外れていようと、今自分が取るべき行動はたった一つしか無い事を哲郎は理解していた。
*
言うまでも無く、鬼門組の最高機関である陸華仙の実力は誰にも疑う事は無い。しかし彼等の実力が発揮されるのは専ら本部の
それは最高機関である陸華仙を襲う人間などまず居ないからだ。
たった数人の暴徒達に精鋭である筈の彼等が苦戦を強いられた理由は大きく分けて二つ。本部内での緊急事態の対処に全くの不慣れである事、そして侵入者達の正体が掴めず下手に手が出せない事だ。
「本部の中で暴れさせてはならない!! 絶対に中に入れるな!!!」
「敵は操られているだけの一般市民の可能性もある!! 傷付けずに無力化させるんだ!!!」
「麻酔銃だ!! 催眠の妖術使いでも良い!! とにかく応援を頼め!!!」
陸華仙の門の前で、突如として起こった不測の事態に対処しようとする男達の怒号が飛ぶ。図らずも彼等の目的は侵入者たちの無力化に行きついた。
「し、しかし、敵の力が強すぎてとても━━━━━━━━
グワッ!!?」
一人の男を吹き飛ばしたのは唯の腕の大振りだった。それは戦術も技術も入る余地のない無造作な攻撃だった。しかし無造作であるが故に戦術を頭に刻み込まれた精鋭の虚を突いた。
その攻撃一つによって男は地面を転がりながら吹き飛び、身体を木の幹に叩き付けて止まった。
(な、何なんだこいつは!!! 確かに身体は作られてはいるが、それでもこんな馬鹿力、隊長にも届き━━━━━━━━)
「ウギュルアアアアアアアアア!!!!」
「!!!!」
背中に走った衝撃に顔を歪めているその一瞬で侵入者の男は全力疾走で隊員の男との距離を詰めた。あろう事か鍛えられた精鋭である自分が何処の馬の骨とも分からない人間一人に敗北する。その荒唐無稽な話が実現する光景が隊員の男の脳裏に過った。
『━━━━━━━━ゴッ!!!』
『!!?』
(間に合った!!)
侵入者の男の攻撃を止めたのは哲郎だった。片腕を垂直に構え、それを片腕で補強する形で男の攻撃を防御する。筋肉と骨に少なからず衝撃が走るが、即座に《適応》し次の行動を選択する。敵の攻撃を防御し即座に反撃に転ずる。それが哲郎の十八番だ。
「セイッ!!!」
ドゴッ!!!! 「!!!」
哲郎は攻撃の為に自分の身体と接触していた男の腕の手首を掴み、身体を翻した。男の身体は宙を舞い、地面へ激突した。
突如として現れた一人の少年が侵入者を圧倒する光景に意識を奪われていた隊員に哲郎は言葉を飛ばす。
「…………………………!!!」
「すみません!! 早く何か!! 手錠とか縄とか!! 何かこの人を縛るものを!!!」
「!! 分かった!!」
*
両手と両足を拘束し、哲郎が持っていた麻酔針を刺して侵入者の一人は完全に無力化された。
「……………良し!! これでこの人はもう暴れる事はありません!!」
「あぁ。本当に助かった。 しかし君は確か……………」
「僕の事は良いです。それより出来る限り詳しく状況を教えて下さい!」
「!
━━━━分かった。今確認出来る侵入者は最低でも五名だ。今の所は死傷者は出ていない。それに応援も来始めている。だから君は早く━━━━
!? おい、何処へ行く!!?」
隊員の男から侵入者はまだ居るという事実を聞かされた哲郎は駆け出していた。それは彼の脳裏にある予感があったからだ。
(これが、これがもし敵の《転生者》の仕業ならこんな程度で済ます訳が無い。絶対にまだまだ増える!! こんな所でじっとしていられない!!!)
哲郎にはこの状況はまだ見ぬ敵の悪意が具現化されたもののように感じられた。これから敵が起こそうとしている事を一つたりとも実現させてはならないという使命感に駆られていた。