異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#33 A tiger that borrows the power of a tiger

哲郎は天井裏にいる。

いじめの容疑者、グス・オーガンのバックにどういう組織がいるのかを確かめる為に彼女を尾行していた。

 

そして、彼女が何やら学園内の異空間に移動したので、哲郎も咄嗟にその空間に入った。

 

この時点で彼女のバックに何かがあるのは間違いないが、そうなると重要なのはその組織がどれほどのものなのか ということだ。

 

 

「!?」

辺りを探っていた哲郎はその時、奇妙な声を聞いた。

 

天井裏を器用に這って進むと、開けた所に出た。 ちょうどいい所に外せそうな天井板を見つけたので、それをずらして覗き見る。

 

 

「………!!?」

 

哲郎がそこで見たのは、大広間だった。

内装は低い階段で仕切られた講堂と石造りの座席、そしてそこに複数人の人がいた。

 

「今日も特に問題はありませんでした。」

 

そう言ったのはあのグスだ。

教室とは違って比較的 行儀のいい座り方でそう報告した。

 

「……そうかい。

ところでよ、ラドラさん。

やっぱりここにも警備をつけとくべきじゃないですか?

万が一 侵入者でもいたら………」

「その必要は無い。 ここの扉は人知れない場所にあるし、それに扉自体が厳重な魔法にかけられているからな。」

 

黒髪に小さなサングラスをかけた男の提案を奇妙な仮面を着けたフードの男が切って捨てた。

 

「……そうそう。 グズ。」

「はい。 何でしょう?」

 

そう言って銀色の髪を肩くらいの長さにした男が振り返った。 その腕には何やら奇妙な人形が抱き抱えられている。

 

「お前が私達のメンバーであることは 誰にも知られていないだろうな?」

 

その男はそう 凄んで言った。

その威圧感にグスも哲郎もたじろぐ。

 

「いやいや。 決してそんなことは」

「それならいい。 いじめの噂から足がつくといけないからな。」

 

 

「……………」

 

哲郎も天井裏から見ていた。

あの部屋にいる人数はグスを除いて7人。

 

(……とりやえず 写真を撮っておくか。)

 

哲郎は懐から1つの結晶を取り出した。

ラグナロクではカメラが無い代わりに結晶にデータを記録して紙に転写する技術が存在する。

哲郎は結晶に男たちの顔を記録した。

 

(………で、どうやって戻ろうか。)

 

咄嗟のことで気にかけなかったが、出る時の事を考えていなかった。

 

「ではアタシ、これで失礼します。」

(しめた! これはいい!)

 

そうだ。彼女が出るのと一緒に出て、すぐに天井に張り付けばそれで済む。

早速 哲郎は行動を起こした。

 

 

結論から言うと、作戦は完壁に上手くいった。

 

グスが廊下から離れるのを見計らって哲郎も床に降りた。 今日の尾行はこれで十分。

あとは学園寮の自室でこの情報を整理するだけだ。

 

 

***

 

 

「………こんなものか………。」

 

哲郎は寮内の自室で今日の尾行で得た情報を整理していた。

 

 

・グスがいじめをしているという噂 (確定)

・グズのバックに組織の存在がある (確定)

・組織内で何らかの陰謀がある (要確認)

・組織の人数は7人以上 (確定)

 

「………そして、この男か。」

 

哲郎はさっき現像した銀髪の男の写真を手に取った。

この男が何者かによってグスのバックの組織がどれほどの大きさなのかが分かるはずだ。

 

「………おい、何やってんだ?」 「!!!?」

 

哲郎は咄嗟に振り返った。

 

「ええっと、あなたは確か………」

「ここのバディのマッドだよ。

ま、何はともあれ これからよろしくな、マキム!」

「あ、はい。 よろしくお願いします。」

 

彼の言葉で哲郎は今 自分がマキム・ナーダという別人であると再確認する。

捜査に意識を集中力させすぎて自分が田中哲郎であるとバレれば元も子もない。

 

哲郎に声をかけてきたこの男の名前は マッド・ベネット。

赤い髪と それから今は外しているが黒いバンダナが特徴的だった。

 

「なぁ もうすぐ消灯だぞ。 もう寝ようぜ。」

「あぁ。わかりました。 すみません。」

 

このマッドという男は何かと馴れ馴れしく自分に接してくる。

こういう状況にも対応出来るコミュニケーションが取れることを哲郎は改めて感謝した。

 

「ところで、明日 何か予定はあるか?」

「どうして?」

「ほら、俺たち こうして同室になった訳だろ? だから この学園のこと、もっとしっかり案内しようと思ってよ。」

「ありがとうございます。

それはまたの機会に。」

 

マッドは少し暑苦しくはあるが、真っ直ぐに会って間もない自分のことを気にかけてくれている。

こうした友情こそ 哲郎が最も大切にしていることの1つだ。

 

 

***

 

 

翌日 授業を適度にこなした哲郎は再び食堂でアリス、そしてファンと密会した。

 

「早速昨日 あの女を尾行したんですが、気になることがありまして。」

「「……気になること?」」

 

哲郎は懐から写真を取り出し、2人に見せた。 例の銀髪の男だ。

 

「この男に見覚えはありませんか?」

 

「「えっ!!? こ、この人は…………」」

「何か知ってるんですね?」


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