異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#330 Battleform of Crab 2

(ガザミ)の構え

それは、哲郎の得意技である魚人武術において最も攻守の均衡の取れた構えである。

 

片方の腕は身体の前方、胸の付近へ防御に専念させ、もう片方の腕は身体の後方で大きく振り上げ、攻撃用に特化させる。両腕のそれぞれに明確な役割を与える事により戦闘の組み立て方が鮮明となる。

加えて身体は半身に構える事によって必然的に敵から見える攻撃可能箇所の面積は減り、急所を狙われる危険性は激減する。

 

哲郎は今までこの構えを選択する事は無かった。その理由は今までの戦闘では攻撃に専念する方が得策な場合が多かったからだ。しかし今は違い、攻撃だけでなく防御にも気を配る必要性がある。何故なら今回は一対多である事に加え下手に相手を傷付けられない状況下にあるからだ。

 

*

 

哲郎は今、敵の《転生者》の能力(であると半ば断定していた)によって操られ、凶暴化した男達と相対している。その最中にも、哲郎は脳内で様々な事を考えていた。

 

(……………この人達が敵の《転生者》に操られているなら、出来る限り傷付けたくはない。だけど僕にそんな難しい事が出来るのか……………!? 考えてみればこの世界に来てからはほとんど、全力で戦ってれば良いだけだったからな。傷付けない戦いなんてやった事が無い。

 

じゃあどうする? 気付けたくないからと言ってそれにこだわって余計なけがしたり負けたりするなんて論外だし、それなら最悪、首を絞めて気絶させるくらいは覚悟しておいた方が良いか……………?)

『ウゴオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!』

「!!!」

 

それまで様子を窺うように微動だにしなかった男達が籍を切ったかのように金切り声を上げ、その内の一人が地面を蹴り飛ばして一気に哲郎との距離を詰めた。それに続くように他の男達も攻撃を開始した。

 

『グガァッ!!!』

ズガァンッ!!! 「!!!」

 

先に攻撃を開始した男は拳を振り上げ、哲郎へ向けて無造作に振り下ろした。哲郎はその攻撃を防御に特化させた腕を頭上に移動させて受け止める。その衝撃は少なからず強く、哲郎の身体を伝わって地面に亀裂を生んだ。

 

攻撃の衝撃を完全に受け止めるや否や、哲郎は即座に反撃に出た。半身の状態で攻撃を受け止めていた状態から身体を反転させ男の懐に潜り込み、攻撃に特化させた腕で男の二の腕付近を掴む。更に防御に特化させた腕にも男の手首を掴むという役割を与え、半身の状態で両手で男の腕を広く掴む状態に持ち込んだ。

その状態に持ち込んでしまえば後は簡単な話である。身体を捻り男を地面へ投げ落とせば良いだけの話だ。しかし今回は訳が違う。それは後数秒後には複数人の男の攻撃が自分へ届くという事だ。

 

「くっ!!」

ぶおっ!! 「!!」

 

残された時間が限りなく少ない事を理解した哲郎は片方の腕をかち上げ男の身体を宙へ吹き飛ばすのみに行動を止めた。両手を男の腕から離し再び臨戦態勢に入る頃には既に男の一人が哲郎の射程距離に入っている。

本来ならばその状況は恐れるに値せず一発で決着を付けられる筈だが、男達を下手に傷付けられない事と後数秒後には更なる攻撃が哲郎を襲う事がその約束された筈の決着を妨げていた。

 

「ふっ!!」

 

哲郎はこの帝国での戦いの経験により、周囲の速度への《適応》を完全にものにしている。故に自分に向けた攻撃が如何に圧倒的な速度を誇っていようと、《適応》が成功した時点で完璧な対応が可能となる。

今回の場合、その攻撃は男の一人の直線的な拳の攻撃だった。哲郎の顔面に向けて無駄の無い動きで襲い来るそれは直撃するまでには一秒と掛からず、とても少年に避けられる代物ではない。しかし哲郎は即座にその拳の速度に《適応》し、身体を加速させ屈め、男の腕の下を掻い潜りその背後へと移動した。

 

哲郎の狙いは今攻撃を繰り出した男ではなく、その後ろに居る男だった。その男は今、身体の体勢を攻撃のみに特化させ、完全に無防備状態となっている。

今回のように複数人で連携を取る場合、一人でも戦闘不能にすれば後は脆く、意外に簡単に瓦解する事が多い。哲郎はこれまでの戦闘経験と己の直感からそれを察知していた。

 

「━━━━はぁっ!!!」

バチィン!!!! 「!!!?」

 

哲郎は屈んだ体勢で男の懐に飛び込み、一気に跳び上がってその勢いを乗せた掌底を男の顎に叩き込んだ。コロシアムでのサラとの試合がそうであるように、哲郎は顎は人体において最も有効な急所の一つであるという持論を持っていた。

ましてや歴戦の猛者でもなく《転生者》でもないこの男に対してはこの一撃で意識を完全に奪える可能性も決して低くは無い。一発で戦闘不能に出来るならば出来る限り(・・・・・)傷付けないという哲郎の希望的観測にも反しない。

 

しかし、その望みが完全な形で(・・・・・)実現する事は無かった。

 

「うわっ!!?」

 

掌底を撃ち終えた哲郎は自分の望みが実現する事を確信していた。その理由は目の前の男が確かに膝から崩れ落ち始めた(・・・)からだ。

しかし男は倒れ込む直前で踏み止まり、再び哲郎に攻撃を繰り出した。哲郎はその攻撃を半ば直感的に避けたが、勝利を確信していた哲郎は目の前の出来事に言葉を失う。

しかし即座に意識を現実に引き戻し、一つの推測を立てた。

 

(確かに攻撃は決まった!! 立っていられる訳が無い!!!

それにこの動き、まるで無理矢理動かされている(・・・・・・・・・・・)みたいな━━━━!!

間違いない!! この人達は操られている!!!)

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