哲郎は孤立無援の乱戦状態であっても冷静に状況を分析し、出来る限り多くの情報を得ようと努めた。結果、操られている(可能性が濃厚)男の不自然な身体の動きから、自分が今相手にしている男達はやはり何者か(そしてそれは十中八九敵の《転生者》)に操られているという結論に至った。
それだけで哲郎の精神状態は大きく好転する。今この状況において正体不明の敵の情報は喉から手が出る程に欲するものだ。
(………良し! 一歩前進だ。状況が良くなった訳じゃないけど、それでもこの一件に敵の《転生者》が関わっているなら何か得られるものがある筈だ!!)
哲郎は心の中で喝采を上げたが、その願望を実現する為にはまず目の前の現実に対処せねばならない。たとえ裏に控えている黒幕の情報に手が掛かっても敵は依然として哲郎に拳を振るっている。そして哲郎は敵の情報を掴みかけた事を喜ぶ一方である事実が浮き彫りになった事も理解していた。
それは目の前の男達は
哲郎はつい先程、確かに男の一人の顎を攻撃し、その意識を断ち切った。しかし男はそれでも止まらず、哲郎に襲い掛かった。それでいて哲郎が自分の攻撃が効いたという確信が持てた理由は、その男の奇妙な挙動にある。
哲郎が男の顎を攻撃すると、男は一度は確かに膝から崩れ落ち
(━━━━つまり、話をまとめるとこうだ。
➀男は最初、敵の能力+男本人の身体能力で動いていた。
②→僕が攻撃する。
③→男が意識を失う。
④→敵は自分の能力
って訳だ。その証拠に、今攻撃した男の動きが鈍くなってる。能力だけで男の身体を
つまり、僕が今やった事は無駄じゃない!! このまま攻撃を続ければ状況は少しづつでも好転する!!!)
哲郎は最初、男が再び動き出したその一瞬の時だけは自分の攻撃が効かなかったと考えた。しかし直ぐにそれは間違いだったと考えを改める。こうして攻撃を続けている限り、状況が悪化する事は有り得ないのだ。
しかし、悪化は有り得ない状況も目に見えて好転した訳では無い。危機は未だに続いている。そしてそれは哲郎の背後から襲い掛かった。
「!!!」
哲郎の周囲には今、六人の男達が居る。そしてそのうちの一人が背後から、哲郎の後頭部目掛けて拳を振るっていた。加えて目の前に居る男も攻撃を加えようとしている。事実だけを言えば、哲郎は完全に挟み撃ちにされた格好だ。
しかし哲郎は即座にその危機を好機に変える方法を考案し実行した。
「ふんっ!!」
「!!?」
哲郎を救った事、それは背後の男の攻撃の方が数瞬速かった事である。哲郎は素早い足遣いで無駄の無い動きで身体を反転させ、背後に居た男と相対する。そして男の攻撃を捌き、男の手首を掴んで身体を再反転させて捻った。
━━━━ドゴォン!!!!
「!!!!」
それは男の攻撃が身体に直撃する音だった。しかしその攻撃を受けたのは哲郎ではない。
哲郎の背後に居た男の身体は哲郎の肩を支点として宙を舞った。そして手首を哲郎に掴まれ、逆さまの状態で攻撃しようとする男に背を向ける格好となった。男の攻撃は哲郎に投げられた男の背中に直撃したのだ。
殆ど無防備の状態で渾身の攻撃を背中に受けた男は口から言語化すら困難なくぐもった声を吐き出し、その直後に意識を失った。
(━━━━良し、上手く行った!! そして僕の読みが正しければ━━━━
!!! 来たっ!!)
哲郎の予測通り攻撃を受けた男の身体は
そして懐から縄を取り出し、男達の手首足首に潜らせ、一気に引いた。縄が引き絞られ、男達の身体の自由が奪われる。それ以降、二人の男達の身体は全く動かなかくなった。
(━━━━良し!!! 僕の予測通り、身体の自由を(物理的に)奪ってしまえば操る事も出来ない!!!
後、四人!!!)
二人の男を攻略したという事実と体の自由を奪ってしまえば敵は操る事が出来なくなるという情報により、哲郎が今置かれている状況は目に見えて好転した。その変化は哲郎の精神状態にも作用する。
状況は好転しても哲郎の目的は依然として変わらない。この男達を陸華仙へ行かせずこの場で攻略する事、そしてこの一件から少しでも敵の《転生者》の情報を掴む事だ。