異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#332 CRIMSON BURST

哲郎は戦闘続きの場に身を置いてからは一度も《油断》というものを経験した事が無い。相手が誰であろうともその時その時の自分に出来る最善を尽くす事を哲郎は徹底していた。

そして今も例外ではない。《男達を傷付けずに無力化させる事》と《少しでも多くの情報を手に入れる事》を全力で取り組んでいた。この状況下の哲郎に油断は一切ない。しかし、全力を尽くしている限り負ける事は有り得ないと感じてはいた。

 

男達は転生者特有の能力を持っている訳でもなければ動きにも隙が多い。自分が故意に手を抜きでもしない限りは不覚を取る可能性は一切ないと哲郎は心の奥底で感じていた。それは慢心ではなく、それまでの戦績に裏付けされた冷静な分析であった。

 

(今の僕に出来る事は負ける確率を出来る限り下げる事だ。その為にはしっかりと状況を把握しなくちゃいけない。

二人を動けなくして、残りは後四人。このまま堅実に動いていれば負ける事は有り得ない。とは言え、ここで何か有力な情報を掴むのは難しいかな……………)

「!!」

 

哲郎が思考を巡らせている内に、残る四人の内の一人が既に哲郎の眼前に迫っていた。しかしそれは男にとっては自殺行為も同然である。

哲郎は感情の波を微塵も揺らす事無く攻撃してきた男の手首を掴み、そのままその小柄な身体を男の下へ潜らせた。哲郎に掴まれている男の腕の関節は最大限まで曲がり、悲鳴を上げる。

 

「ほっ!!」

「!!?」

 

哲郎が身体を折り曲げると、男の腕は遂に限界に達した。骨折を避ける腕は男の身体を宙に浮かせ、哲郎の動きに巻き込まれる形で空を舞った。進行方向を逆行する形で舞った男の身体は砲弾と化して彼の背後に居た男達三人に直撃した。

四人の男達は纏めて倒れ込み、とても反撃出来る体勢では無くなった。哲郎はこの瞬間を千載一遇の好機と捕らえ、懐から縄を出して一気に距離を詰める。四人を捕縛すればこの状況を鎮圧出来ると判断しての事だ。

 

しかし、その行動が完全な裏目に出た。

 

『━━━━━━━━ドパァンッッ!!!!!』

「!!!!?」

 

その瞬間、哲郎の視界が真っ赤に染まった。そして同時に鈍い破裂音が彼の鼓膜を叩く。一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、顔に走る感覚(・・)がそれを哲郎に教えた。

 

(この感触、僕の顔が濡れてる(・・・・)!!? ま、まさか…………………………)

「!!!!!」

 

哲郎は半ば反射的に袖で顔を拭った。そして袖に着いた赤い染み(・・・・)を見て、自分に血が掛かったという推測が的中していた事を悟る。しかしそれすら些事に思える事態が目の前で起こっていた。男の一人の足が破壊されていたのだ。

 

(い、い、一体何が!!!? 足が爆発した!!!!? まさか、敵の《転生者》が!!!!?

い、いや待てよ!!!)

 

男の足が破裂した事は哲郎の精神に著しい衝撃を与えた。しかしそれと同等の事態が目の前で起こっている事を理解する。それまで四人居た筈の男が三人になっていた。

 

「グルアァッ!!!!」

「!!! うおっ!!!」

 

消えた男は哲郎の横から襲い掛かった。しかし野太い掛け声が功を奏し、哲郎は男の攻撃を避ける事に成功した。すぐさま後ろに跳んで距離を取り、辛うじて窮地を脱する。しかし哲郎は既に追い詰められていた。一つの事実が哲郎の行動を著しく制限した。

 

「…………………………!!!!!

(今の爆発、まさか敵が起こしたのか!!? 僕が追い詰めたから………!!!?

それじゃあ、それじゃあもう僕は…………………………!!!!)」

 

それは、哲郎の脳裏に刻み込まれた《死》の想起だった。足を破壊された男は辛うじて息をしてはいる。しかしこれから哲郎が攻撃を仕掛けると敵が男達の身体を破壊すると仮定した場合、男達が生きていられる保証は何処にも無い。寧ろ死亡すると仮定した方が賢明である。

その可能性がほんの少しでも脳裏に浮かんだだけで哲郎はまともに動けなくなった。無論、自ら負けに行く気は起っていないが男達にこれ以上攻撃する事は出来なくなった。

 

(ど、どうする!!? どうすればあの人達をこれ以上傷付けずに済む!!?

一旦逃げて応援を頼むか!? そ、そうだ!! 虎徹さん!! あの人の能力なら爆発させない事くらいは……………!!!

だけど、僕が離れた後この人達が何をさせられる(・・・・・)か分からない!! もし無関係の人達が傷付く事になったら、それこそ本末転倒だ!!!)

「!!!」

 

哲郎が意識を向けると、既に男の一人が跳び上がって哲郎に襲い掛かっていた。この攻撃自体は隙だらけであり、哲郎にとっては対処する事など造作も無い。しかし今の哲郎はその次(・・・)の策を講ずる事が出来ずにいた。如何にしてこの窮地を脱するか、その方法を考え付けずにいた。

 

『━━━━━━━━ドゴドゴッ!!!』

「!!!?」

 

その音は、哲郎の行動によって鳴った音ではなかった。男の蟀谷と脇腹に石のような物体が衝突して鳴った音だった。男は意識を失い、地面に倒れ伏した。

 

(だ、誰!!?

!!!)

「やはり第二陣が居ましたか。様子を見に来て正解でしたね。」

 

哲郎が石が飛んできた方向に視線を向けると、そこには凰蓮が立っていた。

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