何故 男達が操られていると分かったのか。
凰蓮の一言は哲郎を容易に窮地へ追い込むものだった。哲郎が男達が操られていると確信した理由は帝国を狙う敵の《転生者》の存在故だ。その情報を凰蓮に開示する訳にはいかない。即ち哲郎は今 情報を秘匿したまま凰蓮の質問に答える事を求められている。
(……………!!!
ど、どうする!? どんな理由を付けてこの人の質問に答えれば良い!? 僕が持ってる情報を明かす訳にもいかないし、かと言ってこのまま何も言わなかったりあからさまな嘘をつくのはとても━━━━━━━━
!! 待てよ!! そうだ!! 嘘なんか
「━━理由はあります。僕が戦ってる時のあの人達の動きがおかしかったからです!!」
「!?」
哲郎はそう言った後、自分が男の顎を攻撃し意識を断ち切った事。そしてその後崩れ落ちる男が急速に意識を取り戻し再び攻撃してきた事。その情報から推測して男達が操られているという結論に至った事を順を追って説明した。
これらの事を話す哲郎の口調は極めて流暢で穏やかだった。何故ならそれらは紛れもない事実であり、哲郎はそれらを話す上でなんら負い目を感じる必要は無いからだ。
「……………成程、そういう事ですか。すみません。少々疑い深くなっていたようです。」
「確かにこんな所で一人で行動していれば疑われても仕方ありませんね。ちなみにですが僕がここに居るのは━━━━」
「分かっていますよ。騒ぎを聞きつけて第二陣を先に迎撃しようとしたのでしょう。勇気はあれど褒められた行動ではありませんがね。」
「!!
……………はい。」
凰蓮は哲郎の行動に《勇気》という前向きな単語を添えてくれたが、その表情は極めて堅苦しいものだった。哲郎は帝国を救う為に情報を集めようとしてこの単独行動を起こしたが、それは事情を知らない人間には唯の我儘故の蛮勇にしか見えないのだ。
「凰蓮総監殿、ご報告します。暴徒と化した六名の身元が判明致しました。
結論から申し上げますと、
「……………此処もそうでしたか。」
凰蓮と哲郎に驍梔が報告の言葉と共に近付いてきた。彼の後方へ視線を向けると依然として男達が氷に閉じ込められている。この場の鎮圧に完全に成功したのだ。
「総監殿も不審に思われていますか。何故悪人ばかりが暴徒と化しているのでしょうか。そもそも何故このような事が……………。鳳巌が表舞台に出て来た事と関係があるのでしょうか……………。」
『…………………………』
(それは僕もおかしいと思った事だ。てっきり無関係の一般人が操られてると思ってた。寧ろそうすれば、そうだと思ってたから僕は下手に手出しが出来なかったんだ(まぁ悪い人と分かってても痛めつける気はなかったけど)。
じゃあ何で敵の《転生者》は悪い人ばかりを操ったんだ? 一般人を操らないって良心からか? いや、帝国を乗っ取ろうとしてるような人がそんな事する訳が無い。
…………でも、それなら何でだ? もしかして、その方が
敵の《転生者》の目的は言うまでも無く帝国の転覆であり、故に哲郎は敵が善良な市民を巻き込む事を避けたなどと言う極めて楽観的な可能性は早々に切って捨てた。しかし一方で哲郎にはそれ以外で敵が態々悪人を傀儡に選んだ理由を見出す事が出来なかった。唯一思い付いた可能性は《合理性》という観点から至った結論だ。
(……………わざわざ一般人を選ぶより悪い人達を選んだ方が効率的だった……………?
そもそも敵にとってこの行動は計画的なものなのか? それとも僕達が簸翠と接触したからこれをやらざるを得なかった……………?
だとするとこれは急ごしらえの作戦で、あの人達は急いで用意した事になる。たまたま近くに居て操れたのがあの人達って事なのか? もしかして敵は
敵に操られていた者達が悪人だった。
そのたった一つの不審な点は哲郎の脳裏に様々な懐疑心を引き起こした。考えれば考える程に不確実な可能性ばかりが思考を埋め尽くしていく。その悪循環を終わらせたのは凰蓮の声だった。
「哲也さん、そろそろ戻ると致しましょう。早急にこの身柄を本部へ護送しなければなりませんし、何より貴方も彼女達を安心させなければならないでしょう?」
「! そ、そうですね。
(……………そうだな。この事は戻って彩奈さん達と共有してから考えよう。不確かな事ばかりでどの道確実な結論なんて出ないんだし僕が今ここでいくら考えても無駄だ。)」
凰蓮と驍梔に続く形で哲郎は戦場と化していた森を後にする。被害は最小限に抑えられたものの得られた情報は少なかったというのが哲郎の直感的な感想だった。
***
哲郎が森を後にする光景を森の奥から眺めていた者が居た。それは今回の襲撃事件を引き起こした張本人、帝国を狙う《転生者》だった。哲郎の奮闘の一部始終を見ていた《転生者》は心の中で一人呟いた。
(……………《CHASER》には疑念を植える事が出来たか。だが問題は陸華仙の連中だな。ここまで引っ掻き回してやったがどうやら今夜鳳巌の根城を襲うのは変えないらしい。
……とは言えそれならそれでいくらでもやりようはあるがな。お前らは好きなだけ暴れていれば良い。最後に笑うのは一人と決まっているからな……………!!!)