哲郎達は今、鬼ヶ帝国の
『……………!!!』
「どうじゃ? 余りの速さに言葉も出んか?」
馬は哲郎が生きた世界だけでなく鬼ヶ帝国、延いてはこの世界においても強靭な動物として認識されており、人々、特に魔法の類が使えない一般人にとっては有用な移動手段としてその能力を高く評価している(つい先程凰蓮達が鳳巌の根城へ向かう移動手段として選んだ事からもそれは明白である。)。
そしてそれは魔法を大きく超える存在である《転生者》の虎徹も例外では無かった。虎徹がその気になれば自分の足に常識を超えた脚力を付与する事も造作も無い。しかしそれには大量に自らの血液同然の
組み上げた材木を能力で馬に変えれば、後は
「確かに速いですね。後どれ位でその皇居に着くんですか?」
「此奴の持久力を鑑みれば後一時間か其処等と言う所じゃろう。どうじゃ、其の時間を使って此れから聞いておきたい事があれば聞いておくぞ。」
「分かりました。まずは皇居に到着してその後、どうやって入り込むつもりですか?」
「知れた事じゃ。着いたら手頃な布に儂の
「……………………。」
虎徹の口から一言《隠》の文字が出る。哲郎はそれが意味する所を十分に理解している。
哲郎は彩奈がその《隠》の文字によって姿を隠し帝国随一の暗殺者 簸翠を出し抜いた事を知っている。彩奈にも《転送》という能力はあるがそれだけで簸翠を出し抜けるなどと言う楽観的な思考を哲郎は持ち合わせていない。
仮に彩奈と簸翠が真っ向からぶつかっていたなら彩奈も無事では済まず、或いは致命的な負傷を追っていたかもしれないと掛け値なしに考える。それを彩奈の無傷の勝利という結果に
重ね重ね哲郎は虎徹の能力の無法さを、そしてこれからその無法な能力の本質を目の当たりにするという事を強く確信していた。
「もう聞く事は無いのか。」
「ええ。大抵の事はその能力でどうにか出来るだろうという事は十分分かりました。」
「うむそうじゃな。尤も全幅に当てにされるのは憚られるがな。」
「それも十分分かっています。出来る限り自力でどうにかしますよ。」
「ふむ、良い心掛けじゃ。では次に皇居に入り込む前に浚っておきたい情報を言っておくとしようか。」
「はい、お願いします。」
*
虎徹が開示した情報とは、皇居で活動している三人の重要人物の事であった。
帝国の政治は三つの要素に分けられ、専門の人間達が運営している。そしてそれぞれに一人づつ最高責任者がその時代毎に宛がわれており、皇居での活動を許されている。
立法
行政羅刹:《
司法羅刹:《
虎徹は皇居に潜入する上で皇帝と同様に警戒しなければならない人物として彼等の名前を挙げた。
*
「━━━━因みにじゃが、其奴等三人は全員男じゃ。というより此の国において羅刹だけでなく
まぁ尤も、其奴等が
「…………………………!!」
虎徹の言わんとしている所を哲郎は瞬時に察知した。敵の《転生者》がその彼等を狙っている可能性は勿論の事、その正体が彼等、即ち彼等(の内の誰か)が敵に乗っ取られている可能性も皆無ではないのだ。
「まぁ話は長くなったが何が言いたいかと言うとじゃ、此処から先は今迄とは比べ物にならん程に何が起こってもおかしくは無いという事じゃ。」
「ですね。(この国で言うのもおかしいけど、鬼が出るか蛇が出るかってところか……………。)」
帝国民にとって皇居とは近寄り難く輝かしい場所であるとそう認識されている。しかし哲郎はまだ見ぬその場所に良からぬものが詰まった入れ物のような印象を抱いていた。そしてその入れ物をつついて良からぬものを全て明るみにする事がこの国を救う最も確実な方法であると確信していた。
(……………僕達が皇居に着く頃にはきっと凰蓮さん達も鳳巌の根城に着くだろうな。そうなった場合一番避けたいのは皇居に
哲郎達が皇居へ向かうと同時に凰蓮達も鳳巌の根城(と推測した所)へ近付いている。こうして帝国の命運を左右する戦いは哲郎達、凰蓮率いる鬼門組、鳳巌とその手下達、そして帝国を狙う敵の《転生者》の四つ巴にその形態を変えた。
そしてその火蓋は哲郎達と凰蓮達が各々の目的地に着いた時に切って落とされる。