哲郎達の皇居への旅路は依然として続いている。そして同時進行で凰蓮達は鳳巌の根城へ奇襲を掛けるべく歩を進めている。帝国での長い潜伏期間が実を結び国の運命を左右する一戦が始まる瞬間は秒を読むばかりだ。
その最中にも哲郎は思考を巡らせていた。そして彼の脳裏には常に最悪の可能性が染み付いて離れなかった。
「……………何じゃその面は。何か案ずる事でもあるのか。」
「………はい。もし皇居に敵が居るって読みが的外れだったら、とは思ってますね。」
「無駄骨に終わる事を恐れておる、という面ではなさそうじゃな。」
「もちろんです。そうなった場合、凰蓮さんに危険が及ぶのは間違いないでしょうから。」
皇居に敵が居るという哲郎達の読みが外れる。それは偏に皇居への移動が徒労に終わるというだけでなく、敵が鳳巌の根城に居るという可能性が九分九厘になるという事である。鳳巌はその指摘を否定したが、《転生者》が鳳巌の近くで活動している可能性は否めない。
そしてそうなった場合、凰蓮及び鬼門組の人間達の身が危険に晒される事になる。鳳巌達と《転生者》を同時に相手取った鬼門組が如何に悲惨な結末を辿るかは火を見るよりも明らかだ。
「案ずる事は無い。既に対策は講じてある。」
「え!?」
「此れじゃよ此れ。」
虎徹は得意げに口角を上げ、懐から二枚の紙を取り出した。紙の面積は手の平に収まるような大きさだったが、それがただの紙ではない事は容易に想像できる。そしてそこにはそれぞれ《視》と《聴》の文字が記してあった。それが何で書かれているのかは聞くまでも無い事だ。
「この意味は既に分かっておるようじゃな。まぁ、あれじゃ。当ててみろ。」
「! これは……………!」
哲郎は半ば直感で《視》の紙を目に、《聴》の紙を耳に当てた。それにより何が起こるのかは容易に予測出来たが、哲郎が少しばかり驚いたのはその紙を通して哲郎の神経に入って来た情報だ。
森の中で規則的に上下し高速で通過する光景、周囲に居る馬に乗った男達、蹄の足音、男達の話し声。それらの情報が虎徹の紙を通して哲郎の神経、脳へ入って来た。
「これってもしかして━━━━!!」
「そうじゃ。凰蓮が今見聞きしておるものじゃ。何故其の様な事が出来るのかは言わんでも分かるな。」
「……凰蓮さんに何かした、ってところですよね。」
「まぁな。隙を見て奴の背に其れと同じ物を貼っただけの事よ。」
「それだけで盗み見や盗み聞きが出来るんですか……………。
でもこれがどうして僕の不安の対策に━━━━━━━━
!!!」
哲郎は改めて手に持った二枚の紙に目を落とした。自分は今、盗聴器を手に持っているも同然の状態にあるのだと再認識する。加えてこの紙が意味するもう一つの意味に哲郎は気付いた。
「え? 哲郎さん、どうしたんですか?」
「……………!!」
「?」
それに気付き哲郎の表情は険しいものとなった。背後からそれを察知した彩奈が哲郎に声を掛けると、哲郎はその表情のままに振り向き彩奈を見る。即ち哲郎が気付いた事に彩奈が関係しているという事だ。彩奈自身もそれに気付き、険しい表情で口を閉ざす。
「如何やら主も分かったようじゃな。儂の狙いは其処にある。」
「え? どういうことですか?」
「つまりこういう事ですよ。この紙と彩奈さんの《
「えぇっ!!?」
彩奈の転生者としての能力《転送》。
その内容は触れた物や人を
そしてその能力と虎徹の紙が合わさる事で哲郎達は自由に
それを半ば興奮気味に話し終え、哲郎はようやく一息をついた。それは即ち自分達が凰蓮達を守る事が出来るという事であり、他でも無いそれが一番哲郎を安心させたのだ。
「まぁ即ちじゃ、儂の策に抜かりは無いと考えて貰えれば其れで良い。主等は何も案じずに目の前の物事に集中しておれば良い。
おぉ! 遂に見えたぞ!!」
「!!! あれが……………!!!」
虎徹が指差した方向、森の奥の木々の中にその建物は姿を現していた。森の奥は霧と雲に包まれているがそれでもその建物は圧倒的な存在感を放っていた。
その建物の外装は金色に覆われ、階層は両手の指では数えられないと思える程に高くそびえ建っていた。それが鬼ヶ帝国の政治の中枢、《逢魔ヶ宮殿》である。
(……………あれがこの国の宮殿!! なんて豪華な━━━━!!!
(確か昔の日本にもあんな建物あったよな……………。))
帝国の権力の結晶とも呼ぶべきその豪華絢爛さに哲郎は圧倒され、同時に二つの印象を抱かされていた。後数分後の自分はその建物の中に居るという事実を改めて認識し、哲郎は背後の彩奈に向けて口を開く。
「彩奈さん、気合を入れていきましょう!!! ここからは何が起きてもおかしくはありません!!!
僕達の行動一つ一つにこの国の運命が掛かっているんですから!!!!」
「!!! は、はいっ!!!」