異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#34 Achievements and evidence

「…まず、この男の名前を教えてください。」

 

哲郎は食堂で2人に質問をした。

 

「はい。名前はラドラ・マリオネス。

この学園でもトップクラスの実力者です。」

「実力者?」

 

実力者とはどういう意味だろうか。

学業か、それとも単純な強さの意味か。

 

「でも、この人が今回の件とどう関係が………」

「わかりました。 順を追って説明しましょう。 僕が昨日見た事を全て。」

 

 

 

哲郎は全てを説明した。

グスがいじめをしており、なおかつ彼女のバックに組織の存在があるという確信を掴んだこと。

人知れない場所にある廊下に秘密の扉が存在していたこと。

そこにあった大広間に複数人の人がいて、そのリーダーらしき男がそのラドラという男だということ。

 

 

「……な、なんて事だ。

まさかラドラさんの手先になってたなんて………!!!」

「こ、これじゃあもう問題解決なんてとても……!!!」

「落ち着いてください。

ひとまず、そのラドラという男が何者なのか、説明願えますか?」

 

動揺を隠せないファンとアリスに哲郎は冷静に説明を要求した。

 

 

結論から言うと、2人も彼のことはあまり知らなかった。それでも2人がくれた情報を整理するとこうだ。

 

 

彼、ラドラ・マリオネスとは、このパリム学園において、一、二位を争う成績と実力を持つ生徒で、彼を取り巻いて大規模な組織が作られているのだという。

その構成員が、哲郎が昨日 あの部屋で見た黒髪黒眼鏡の男や、仮面を着けた男なのだと言う。

 

 

「……なるほど。

………ところで、ファンさん……でしたね。」

「はい。 何でしょうか?」

「確か昨日話してくれましたよね?

このグスという女がいじめをやっている証拠は持っていると。

とりあえず それを見せてくれませんか?」

「ああ。わかりました。」

 

ファンはそう言って懐から1つの結晶を出した。

 

「? これは一体………」

「それは映像結晶です。

そこに入っている映像を見てください。」

 

哲郎が結晶を持って指示通りに操作すると、何も無い空中に映像が流れた。

しかし、その内容はファンが体育館裏で学園紹介のVTRのリハーサルをやっているというものだった。

 

「あの、すみません。

これのどこに証拠が………」

「3分20秒 位の所の左端を見てください。」

「3分20秒?」

 

哲郎が言われた通りにやり、画面の左端に注目すると、そこにうっすらとグスの姿が映っていた。

 

「この時間に体育館裏で………

まさかこれって!!」

「察しの通りです。

彼女はその時、1人の女子生徒を暴行していたんです。」

「な、何と…………!!!!」

 

哲郎は返す言葉を失った。しかし、すぐに話の筋を戻す。

 

「し、しかし、こんなうっすらとしたものを証拠と言うには………」

「証拠は他にもあります。」

 

そう言って今度はアリスが1枚の写真を手渡してきた。

 

「その写真は、その映像が取られた時と同時刻に1つの部活が屋上から校庭を撮ったものです。その端に彼女といじめの被害者が映っていたんです。

それはその場面を拡大して解析したものです。」

 

哲郎が見ると、そこには確かに、表情が分からないとはいえ緑色の肌をした巨漢と女の姿が映っていた。

 

「それから、暴行を受けた生徒も、相手は言ってくれませんでしたが時間帯は証言してくれました。

ちょうど その映像と写真が撮られた時です。」

 

「………なるほど…………。」

 

哲郎は言葉を濁した。

確かに証拠は揃っているが、これを活用する術が見当たらない。

仮に今すぐに教師に突きつけたところで、あのラドラという男にもみ消されるのは火を見るより明らかだ。

 

「今日はこれで失礼します。

もう少し 彼女のことを探ってから作戦を考えようと思いますので、引き続きご協力をお願いします。」

「「わかりました。」」

 

 

***

 

 

(……このままじゃ 埒が明かないな…………。)

 

哲郎は寮の自室のベッドの中で思考を巡らせていた。ちなみにルームメイトのマッドは既に眠りについている。

 

(……何か対策を練らないと、ただひたすらに時間が過ぎていくだけだ………

それに、早くしないとあの女がいつ何をするか分かったもんじゃないし………)

 

結果を急ぐのは良くないと分かっていても焦ってしまう。

 

(……こうなったら、ノアさんにも協力を仰ぐしかないか………)

 

この依頼を勧めてくれたノアだが、哲郎は当初 彼の力は借りないと決めていた。

彼は哲郎がこのラグナロクで初めてぶち当たった壁なのだから。

 

(まぁ、彼への協力は視野に入れるくらいにしておくか………

 

いかんせん 情報が足りないな…………

よし 明日、またあの大広間に潜入してみるか…………)

 

哲郎はそう 明日の予定を決め、今日はもう英気を養おうと眠る準備を進めた。

 

慣れない学園生活の故か、睡魔は存外に早く哲郎の意識を奪っていった。


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