異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#340 The Golden Pandemonium 4

逢魔ヶ宮殿

それは鬼ヶ帝国におけるあらゆる政治を運営する、謂わば権力が集中する場である。その内部は帝国に暮らす者の中でも一部の人間しか知る事を許されない、トップシークレットと呼ぶべき存在である。

外装以外の全てが鉄壁の秘密で守られたその要塞に立ち入ろうとしている者達が居た。彼等は今、不可視の衣に身を包み宮殿の正門から目と鼻の先の地点でその機会を今か今かと伺っていた。

 

『………虎徹さん、凰蓮さんの動きは今どうなっていますか。』

『うむ。未だに馬を走らせておるだけじゃ。この分じゃと件の地点へ着くのは暫く先と言った所じゃろう。因みにじゃが彼の部屋にも近付く者はまだ居らん。』

『分かりました。彩奈さん、もしもの時は頼りにしてますからね。』

『は、はいっ!』

 

哲郎の言ったもしもの時とは今哲郎達が居なければならない(・・・・・・・・・)部屋に巡回の目が入る事である。しかし哲郎はこの問題を虎徹の能力による千里眼(哲郎が勝手にそう例えて解釈した)と彩奈の能力を使用する事によって解決した。

常に虎徹が部屋の周囲を監視し監視の目が迫った時に既に行った事のある場所(・・・・・・・・・・・)である部屋に彩奈が《転送》するという作戦だ。

 

(━━━━哲郎さんがここまで言ってくれるなんて……………!!!

私の能力なんて何の役にも立たないって思ってた。けど、私がこの能力で国を助けるんだ……………!!!)

 

言うまでも無く、自分達が今やっている事は(少なくとも帝国民にとっては)許されざる行為である事は彩奈も理解している。勝手に鬼門組の命令に背くだけでは飽き足らず帝国の最高機関である皇居へ立ち入ろうとしている。それが如何に重大な事であるかは十分に理解していた。

しかし一方で何の役にも立たないと思っていた自分の能力を哲郎達が信頼してくれているという事実に喜んでいる側面もあった。更にその歓喜に裏付けされた使命感が彼女の心を強く奮い立たせていた。

 

『主等、与太話は其の辺りにしておけ。先も言ったが此処からは何が起こってもおかしくはない。先ずは皇居に入る機会を伺うのじゃ。』

 

哲郎達は今、虎徹が《墨汁(能力)》で不可視の能力を与えた布を身に纏い隠密状態になっている。それでも彼等が動こうとしない理由はその布で偽装出来る要素が《視覚》だけだからだ。

万が一皇居の中に聴覚の優れた者が居て哲郎達の足音を聞かれ気付かれでもしたら目も当てられない。それは即ち帝国を救う機会を逸するという事だからだ。

 

『えっとそれはつまり、音を立てずに中に入りたいって事ですよね? というか、それくらいなら虎徹さんの能力でどうにかなるんじゃないですか? あ、別に虎徹さんに頼りたいって訳では無くて……………』

『無論其れは出来る。じゃが聴覚を誤魔化すのは簡単ではない。少なからず墨汁(すみ)を消費する。其れこそ儂の身体から搾り出さんとならん程にな。』

『!!!』

 

哲郎が掛け値なしに最強(デタラメ)と評する虎徹の能力《墨汁》。

しかしそれにも欠点が存在する。それは能力である墨汁は自分の身体から消費されるという事だ。虎徹はそれを血液と同様のものと考えている。即ち多用しすぎると彼女の身体に危険が及ぶという事だ。そして墨汁の消費量は文字数と効果の強弱で決定する。視覚を偽装するより聴覚を偽造する方が強力な効果と見做されるのだ。

 

『早い話が来る戦いに備えて少しでも墨汁(すみ)を蓄えておきたいから此の場は能力に頼らずに切り抜けたいと言うておるのじゃ。今迄にも無視出来ん量を消費してしまったからの。』

『………じゃあ虎徹さん、あれ(・・)とかどうですか?』

『! ほう……。』

 

哲郎が指差した方向を見た虎徹は口角を上げた。そこに自分が言った能力を使わずに皇居に入る方法があったからだ。

そこにあったのは荷台の馬車だった。皇居には食材、備蓄、政治資料など様々な物資が行き来する。それらが乗った馬車が日に何度も行き来するのは帝国民も知る所だ。

 

 

 

***

 

 

「…………災害対策用の水と食料、そして一週間分の萬瑪(よろずめ)地方、惇圖(とんず)地方の経済情報の資料。確かに確認しました。奥へ進んで大丈夫です。」

「ありがとうございます。本日は後に一矻(いっこつ)地方の経済資料が届くと思いますので確認をお願い致します。」

 

皇居 逢魔ヶ宮殿の正門、門番を務める男が事務的な言葉を口にしていた。しかし決して機械的ではなく、確かな使命感と共にその言葉を口にしていた。荷物を届けるふりをして武器を持ち込み国に危害を加えようとする人間は少なからずいる。自分にはそれを未然に防ぐという義務があるのだと男は仕事の度にそう言い聞かせていた。

今回、馬車に乗った男が運んできたのは備蓄と資料であり、門番の男もそれを確かに確認した。馬車の男の仕事にも門番の男の仕事にも決して不備は無かった。

 

馬車の荷台には他にも人間(・・)が居た。正確には乗り込んで来た。

馬車の男がそれに気付かなかったのは彼等が馬車に音も無く移動して来たからであり、門番の男が気付かなかったのは彼等が透明だったからだ。

 

 

(……………ひとまず上手く行ったな。)

 

そう心の中で呟いたのは哲郎だった。彼等は今馬車の荷台に乗っている。彩奈が見えている範囲の馬車の荷台に自分達を《転送》させたのだ。これにより哲郎達は音を立てる事無く皇居の門を潜る事に成功した。

 

(後は荷物が下ろされるタイミングを見計らって出るだけだな。大丈夫だ。人から隠れて行動するのは慣れている。今まで通りにやって、絶対に敵のしっぽを掴むんだ………!!)

 

一瞬でも感付かれる事が致命的というこの状況で哲郎は己の心を自信で埋め尽くした。それによって今まで何度も窮地を脱してきた。そしてそれは虎徹だけでなく彩奈にも伝わっていた。

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