異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#342 Visibility of the Garuda

哲郎は何回も生命の危機に瀕している。初戦のゼース戦では身体に雷魔法の直撃を食らい、真剣で何度も斬り付けられた。それだけではなく体内に電撃を直接流し込まれた事も両腕を焼かれた事も、更には戦法上自身の首を切断させられた経験すらある。

そして今回、哲郎は一本の巨大な槍(恐らく生物の身体の一部)が自分の頭部の真横を貫くという事態に直面した。後数ミリでもずれていれば頭部を一撃で破壊されていた(そうなった場合《適応》の対象内であるかどうか疑わしい)事は言うまでも無く、誇張抜きに生命の危機といえる。

 

本来ならば今回とこれまでの事態によって起こる《死》という現象に優劣など存在する筈は無く、今回だけを特別視する理由は無い。しかし哲郎は今までで一番と言っても過言では無い程に精神を動揺させていた。

その理由は哲郎本人だけでなく彩奈や虎徹にも同様に生命の危機に瀕していたからであろうと直後の哲郎は己の思考を分析している。

 

 

 

***

 

 

『…………………………!!!!!』

 

当時、哲郎達は口から一言も声を発さなかった。否、声を発してはいけないと自分に言い聞かせていただけかもしれない。しかし事実として哲郎達は声を出さない事に成功した。例の一発の後に一切の追撃が無かった事がそれを証明している。

故に、当時の屋根裏に誰かが聞き耳を立てていたとしても一切の声は聞こえなかったであろう。しかし哲郎達の鼓膜は絶え間無く音を拾っていた。それは己の心音である。

 

矛盾した表現になるが、その時の哲郎達の状況を表現するならば《騒々しい静寂》と形容する他ない。それ程までに彼等の心理状態は混乱していた。そしてそれを破ったのは虎徹の一言だった。

 

『…………如何やら追撃して来ん以上、敵の攻撃ではなさそうじゃな。』

『!!』

 

虎徹のその声は側に居た哲郎達でも辛うじて聞き取れるかどうかという程か細い声だった。しかしそれですら虎徹にとっては一世一代の大博打であったと言える。その一言を聞き付けられて追撃を食らう可能性も十分にあった。

 

『………ええ。多分今のは皇居の━━━━』

『!! 哲郎さん!! 大変です!!』

『!!』

 

哲郎の返答に彩奈が横から(小声で)口を挟んだ。それに反応するよりも早く彩奈は哲郎と虎徹に触れて《転送》の能力を発動させた。そして次の瞬間には彩奈の姿もその場から消えていた。

 

*

 

以下は鬼ヶ帝国皇帝(羅王)《魍焃》の思考の一部である。

当時、彼は思った。妙だ。鼠共の気配が行き成り(・・・・)消えた と。

 

*

 

以下は鬼門組 陸華仙に勤務する男の報告書の一文である。

○月×日 擁護者虎徹 哲也 杏珠 収容個室

異常無し(・・・・)

 

*

 

「……………上手く行きましたね。」

 

場所は鬼門組陸華仙の個室。巡回に来た男が離れて行った事を確認してから、哲郎は一言 そう呟いた。彼等がここに居る理由は言うまでも無く、彩奈の《転送》の能力によるものである。先程彩奈が言った『大変』とは哲郎達が居る筈(・・・)の個室に巡回が来た事であり、彩奈の能力で三人を個室に《転送》させる事によってこれをやり過ごしたのだ。

万が一にも哲郎達が個室に居ない(皇居に居る)事に気付かれては、それは帝国での居場所を失う事にも等しい。故に哲郎も深く息を吐いた。

 

「…………虎徹さん、怒ってます? 皇居潜入が途中で終わって。」

「否、元よりこういう事は想定済みじゃ。目先の情報源より奴等の信用を優先すべきなのは儂も分かっておる。

……………して、どうする。また向こうへ行くか。」

『!!!』

 

虎徹の提案は的を得ていたと言える。巡回の者が去った今、しばらく監視の目が無いであろうこの状況は再び皇居に調査の目を向ける絶好の機会だ。

しかし、二人はその提案に即答出来なかった。その理由は純粋な恐怖である。絶命寸前まで追い込まれたという事実が二人の前に立ちはだかっていた。

 

「答えは否か。まぁ分からんでも無いがな。何より奴等が来る度に抗して戻るというのも忙しないしな。」

「そうですね。皇居には恐ろしい何かが居るって分かっただけでも十分でしょう。」

 

皇居への潜入が却下されるや否や虎徹は懐から一枚の紙を取り出した。哲郎はそれを見ただけで虎徹の意図を理解する。

 

「次は凰蓮さんの方から情報を得ようという事ですね。」

「そういう事じゃ。主等の推測が正しければ彼奴は今頃件の場所に居る頃じゃろう。」

「分かりました。もしもの時は助けに行かないと━━━━━━━━

ッ!!!?」

『!!?』

 

虎徹から凰蓮の視覚を共有する紙を受け取った哲郎は驚愕の声を発した。

それ程までのものを哲郎は見た。凰蓮の視界に一人の少女が映っていた。哲郎は彼女の姿に見覚えがあった。

それは間違い無く、鳳巌の娘を自称した黐咏である。つまり哲郎が今見ているのは、凰蓮と黐咏が激突している現場なのだ。

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