鬼ヶ帝国の大地を馬の蹄が踏みしめて揺らしている。帝国民の記憶の中においてこのような事態が起こるのはこれが
今回、凰蓮は無論の事作戦に参加した隊員の殆どが今回と九年前の事を紐付けて考えていた。そして同時にこれから起こる事は九年前をはるかに上回る事態に発展する事を予感していた。
そしてもう一人、凰蓮達を追って地面を駆ける者が居た。因みにその時、哲郎達は皇居に向けて行動していた。そしてその数分後、哲郎達は思いもよらない光景を目の当たりにする事になる。
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時は昨日、鳳巌が自身の根城から哲郎を追放してから数十分が経った頃。場所は鬼門組 陸華仙の総監室。そこには凰蓮だけが居り、机に向かって紙の上に筆を走らせていた。その紙の内容を隊員達が知るのは凰蓮が根城へ向けて馬を走らせてからしばらくの時が経った頃だ。
結論から言うと、凰蓮が書いたその紙の内容は《遺書》である。この戦いに掛ける自分の思いや自分が死んだ後の鬼門組の運営などが詳細に書かれていた。しかしそれを読んだ隊員達は驚く事をしなかった。
凰蓮が再び鳳巌と激突する時、それは凰蓮か鳳巌のどちらかが死ぬ時であると組に居る誰もが漠然と理解していたからだ。無論、凰蓮が生き残りその上で鳳巌も死ぬでは無く逮捕され法の裁きを受けられるならばそれに越した事は無い。しかしそんな楽観的な考えが通じる話では無い事を理解している。
組に居る者であれば誰もが九年前の逸話を知っている。当時の激突ですら二人共に生死の境を彷徨う程の重傷を負った。九年前の激突がより大きな規模で再現されるならばその先に待っているのは目を覆いたくなるような惨劇であろうという事を理解しているのだ。
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凰蓮は心の中で隊員達に感謝していた。自分の我儘と言っても過言では無い鳳巌との因縁への決着にこれ程の人間が命をかけて付いて来てくれた事、そして自分が死に場所へ向かう事を認めてくれている事に対してだ。
本来、鬼門組の総監とは組の管理、運営を担う役職であり、前線に立って任務に就く総監は異例である。特に帝国民の中には凰蓮の行動を不安視する者も少なくは無かった。総監が負傷、そして最悪の場合殉職となれば帝国全体が混乱に陥るからだ。
それを理解していても尚、凰蓮は一切の迷い無く死地へと向かっていた。寧ろ自分はこの時の為だけに総監になったと言っても過言では無いとすら思っていた。たとえ刺し違えてでも鳳巌の暴虐を終わらせ、帝国の明日を少しでもより良いものにする。それが総監としての自分の責務であると考えていた。
(……………鳳巌。
……………だけどそれはもう叶わない。ならせめて、総監として決着を付けねばならない。でなければ僕を支えてくれたこの国の人達に向ける顔が無い。此処で動けなければ総監になった意味が無い……………!!!)
「凰蓮総監殿!! もうすぐで目標の地点になります!!」
「!
……………はい…………!!」
隣を走っていた男の言葉によって凰蓮は自分の思考に飲まれていた事を理解した。そして同時に自分は一人では無い事を理解する。鳳巌との決着を付けるというのは自分の意思だが、この戦いは帝国の命運を賭けたものであり、凰蓮だけのものではない。自分の後ろに居る者の中には肉親を、大切な人を鳳巌やその仲間に殺された者も居る。彼等が起こした事件を捜査した隊員も居る。
その事実が凰蓮の精神を支えると同時に絶対に勝たねばならないと己を奮い立たせた。
「……………皆さん、良く聞いて下さい。
此処こそが正念場です。今まで此の国は一人の男に煮え湯を飲まされ続けました。皆さんが受けた怒り、悲しみ、そして屈辱、それは察するに有り余ります。
だからこそ今日、此処で全てを終わらせます!!! 必ずや鳳巌という巨悪を打ち滅ぼし、希望ある明日を我々の手で掴み取りましょう!!!!」
「やらせない!!!!!」
『ガァンッ!!!!!』
「!!!?」
その言葉は凰蓮の斜め後ろから聞こえて来た。凰蓮は咄嗟に持っていた薙刀を構えて後頭部を守る。瞬間、凰蓮を衝撃が襲った。鼓膜を甲高い衝撃音が震わせる。それは刃と刃が衝突した音だ。
「……………!!?」
「し、少女……………!!!?」
「く、曲者だ!!!」
隊員が言う通り、凰蓮を襲ったのは一人の少女だった。日本刀を持った少女が凰蓮に飛び掛かり刃を振るった。その少女の顔を見た瞬間、凰蓮はその顔に一人の女性を重ね合わせた。そして凰蓮は瞬時に一つの結論に達する。
彼女こそが
(この顔、この面影、もしや彼女が━━━━!!!)
「鬼門組総監 凰蓮!!!
斯くして凰蓮と黐詠は激突した。哲郎が見たのはこの瞬間である。