異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#345 Devote Myself For You Part1 ~Sheltered Girl~

鳳巌は黐詠を娘として身内に置いた事を何一つとして後悔していない。凶悪犯の身内は鬼門組にとって恰好の情報源であるが、彼等は哲郎の口からその情報を聞くまで彼女の存在を知らなかった。それ程までに鳳巌は徹底的に黐詠の存在を秘匿したのだ。

まず大前提として、鳳巌は黐詠を犯罪行為から遠ざけた。彼女もそれをおかしいとは思わず、鳳巌から与えられる食事を取り、書物を読み、偶に人目に付かない場所で日の光を浴びる生活を送り続けた。

 

しかしその生活にも転機が訪れる。鳳巌の誤算は黐詠にとって自分が想像以上に大きな存在になっていた事である。

鳳巌は自分の死期を察知した。特に武道会会場を襲撃し哲郎という情報源を野に放った事は決定的だった。加えて彼には予感があった。近々九年前の凰蓮との激突が更に大きな規模で再現される事になるだろうと。

 

そしてその旨を黐詠に直接伝えた。結果だけを見るならばそれは悪手だった。

鳳巌は黐詠には犯罪とは無縁の生活を送らせ、自分が死んだ後も、たとえ犯罪者の娘という烙印を押されようとも立ち直り、それ相応の生活を送ってもらおうと願っていた。しかしその願いは叶わずに終わる。

 

黐詠は犯罪行為を犯した。それも鬼門組総監 凰蓮の襲撃という前代未聞の犯罪をだ。

 

 

 

***

 

 

 

総監である凰蓮が襲撃されるなどという可能性は隊員の想定からは完全に抜けていた。それでも尚心身共に訓練された鬼門組の最高機関 陸華仙の精鋭達はほんの数瞬で思考停止状態から脱する。更に瞬時に凰蓮を襲った女性こそが件の鳳巌の娘(を名乗る)黐詠であると確信する。

峨彩が作成した似顔絵の情報は既に陸華仙の隊員全体に共有されている。そして瞬時に隊員達の思考は一つの行動遂行に集約した。

 

「く、曲者だァ!!!!」

「出会え出会え!!!」

「狼狽えるな!!! 奴こそが鳳巌の娘を名乗る黐詠だ!!!」

 

比較的若い隊員達が半ば興奮気味に己を奮い立たせるような檄を飛ばし、経歴のある隊員の声がその興奮を冷ます。いずれにせよ一触即発の状態である事は疑いようが無い。しかしその状態は爆発寸前で押し止められた。止めたのは凰蓮だった。

 

「皆さん!! 止まる事は許しません!!! 早急に鳳巌の根城へ急行する事を命じます!!!」

「!!? 総監殿 何を!!?」

「此の場は私が食い止めます!! 彼女を捕縛した後、私も直ぐに向かいます!!!」

「!!!」

 

このような場合、組織の最高位に位置する者が殿を買って出るのは正道に反する。鬼門組の人間も、そして当の凰蓮もそれを理解していた。しかし隊員達は凰蓮の決死の表情に反論の言葉を噤んだ。

隊員達は凰蓮を残して足を進め、場には凰蓮と黐詠だけが残った。

 

「……………どういうつもり? 総監(トップ)のあんたが残るなんて。」

「此れが最善であると判断したまでです。貴方の目的は私でしょう。ならば此処であなたを確実に捕らえる事が最も合理的です。

して、今更にはなりますが貴方が黐詠ですね?」

「………やっぱり全部分かってるんだ。そうだよ。私が黐詠。パパは私が守る!!!」

 

鳳巌の娘を自称する黐詠の目的は言うまでも無く凰蓮の足止めである。そうなればこの場で凰蓮が歩を進めれば当然黐詠は追跡する。それを防ぎ戦場を乱さないための方法がこれだ。当然凰蓮が残れば黐詠も執着し場に残る。凰蓮の今の狙いはこの場を一刻も早く鎮圧する事に変わった。

 

「…………貴方に二つ聞きたい事があります。貴方にとって、鳳巌は何ですか?」

「? そんな事決まってるでしょ。 私を助けてくれた大切な人だよ!!!」

「そうですか。ではもう一つ、貴方は過去に犯罪を犯した経験はありますか?」

「? ……………いや特に。人を殺した事も何か奪った事も無いよ。」

「………成程。では、《銃刀法違反》、《公務執行妨害》、《傷害未遂》ですね。今なら十分に引き返せます。」

「何が言いたいの?」

「分かりませんか? 貴方達を捕らえた後の話をしているんですよ!!!」

「それをさせないために私が居るの!!!!」

 

その言葉を合図に凰蓮と黐詠は同時に地面を蹴った。瞬間、互いの武器が衝突する音が森の中に響く。無論、先を行った隊員達の耳にもその音は届いた。しかし、それが寧ろ隊員達の精神を安心させた。その音が聞こえた後の背後にどのような光景が広がっているかが容易に想像出来たからだ。

そしてそれは現実に反映されていた。

 

「ガッ!!! アガッ!!! ウグッ!!!!」

 

それは黐詠の身体が地面を転がりながら発せられた声だ。凰蓮に完全に力負けし、吹き飛ばされた。それは凰蓮だけでなく、当の黐詠にも薄々分かっていた事だ。自分と凰蓮には埋められない実力差がある。それでも彼女は意を決して死地に足を踏み入れた。

黐詠の身体は森の木の幹に衝突してようやく止まった。凰蓮は悠然とした歩みで黐詠に近付く。最早勝負は決し、後は彼女の手首に錠を掛けるのみだ。

 

「…………………………!!!!

ま、まだ………!!! まだ終われない……………!!!!」

「……………」

「パパを、私を椴廃から連れ出してくれたパパを死なせたりしない……………!!!!!」

「!!?」

 

椴廃

黐詠の口から発せられたその言葉が凰蓮の心を動揺させた。

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