哲郎は凰蓮と黐詠が激突するその現場を見た瞬間、自分はそこへ行くべきではないかという思考が芽生えた。そして両者が武器を構えて走り出した瞬間、それを
それを防ぐ為に哲郎は馳せ参じた。彩奈に一言『自分を《転送》しろ』と言い、虎徹の能力を通して凰蓮の視界を見た彩奈は哲郎に触れ、能力を発動した。彩奈は半ば反射的に能力を使用したが特段の迷いは無かった。今まで哲郎の言う通りにして状況が悪化した事は無いからだ。
彩奈に《転送》された哲郎が最初に取った行動は二人の激突を止める事である。今回は運良く二人の間に《転送》されたため両者の武器を受け止めるという形でそれを成功させた。それにより哲郎は両手に常識では測れない激痛を受けたが持ち前の《適応》と精神力によってそれを押し込んだ。そして最も短い時間でこの状況を鎮圧する為の行動として黐詠を抑え込むという方法を取った。
そこまでの時間はたったの数秒。凰蓮の反射神経をも凌駕し最悪の未来の回避に成功した。
━━━━と判断出来る程現実は手心は無かった。
「ッ!!?」
「ガァッ!!!!!」
哲郎は間違いなく黐詠を抑え込んでいた。関節の固定の仕方にも体重の掛け方にも何一つ間違いは無く、多少身体を動かしたところで哲郎の拘束から逃れられる筈など無かった。哲郎に落ち度があったとすれば黐詠という人間の
結論から言うと、黐詠は哲郎の拘束から脱した。その方法は常軌を逸するものであった。
哲郎が黐詠を拘束した方法は片方の腕を上方向に上げて肩の関節を固定する最も有名な方法の一つである。黐詠はその拘束から逃れる為に自ら肩の関節を破壊し、身体を宙に舞い上がらせた。力の均衡が崩れた哲郎は体勢を崩し、黐詠を離してしまう。
「……………………!!!!」
「ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ……………………!!!!」
空中で体勢を立て直し着地した哲郎が最初に認識した光景は固定されていた肩を抑えて荒い息を吐く黐詠の姿だった。言うまでも無く彼女の表情は苦痛に歪んでいた。自らの関節を破壊されて平気な人間など居る筈が無い。
それでも尚哲郎を驚愕させたのは黐詠の執念である。このまま捉えられて父を助けられなくなるくらいならば自分の肩など平気で差し出すという黐詠の常軌を逸する行動に驚愕させられた。
そしてそれ以上に哲郎の精神を動揺させたのは当初の予定が完全に狂った事である。哲郎が態々この場に出向いた理由は黐詠を瞬時に捉える事によってこの場を鎮める為である。しかし黐詠の捨て身の策によって脱出しその前提は崩壊した。
その前提の崩壊により起こる事の中で哲郎が最も恐れた事は凰蓮が攻撃に参加する事である。それは哲郎が出向いた意味が無に帰る事だけではなく黐詠の身に危険が及ぶという事である。それがどうしても哲郎には許容出来なかった。
無論、それが哲郎の我儘である事は他でも無い彼自身が強く理解している。しかし《生命》の喪失が今の哲郎には最も耐え難い苦痛なのだ。たとえそれが敵であろうと無関係の者であろうとも、過去の友との別れを想起させる事を哲郎は最も嫌悪する。
故に哲郎は自分の行動の責任を取る事を選択した。凰蓮の目に今の自分は勝手に出しゃばり事態を混乱させた少年に見えている。ならば自分が取るべきはこの状況を速やかに鎮圧する事だ。その為の言葉を凰蓮に投げ掛ける。
「凰蓮さん!!! 僕に後十秒だけ時間を下さい!!
後十秒でこの人を捕らえます!! その後で責任は取りますし聞かれた事にも全て答えます!!! だから━━━━
!!!」
哲郎が言葉を言い終えるより早く黐詠の攻撃は始まった。しかしそれは攻撃と呼ぶにはあまりに単純な突進だった。地面を蹴り飛ばし刀を刺突の状態に構えている。奇しくもそれは凰蓮に向けたものと全く同じだった。
哲郎もその攻撃に無策だった訳ではない。哲郎は着実に準備を整えていた。森の木の前に立つ。それが哲郎の準備だった。
「ッ!!?」
哲郎は黐詠の刺突に対し身体を半回転させて彼女の突きを躱す。そして視界に彼女の刀が入った瞬間、彼女の手首と肘に手を掛け、肘に掛けた手を振り上げた。瞬間、黐詠の身体は舞い上がり、そして逆さまの体勢で
『━━━━ズドォン!!!!!』
「!!!!?」
黐詠を襲ったのは哲郎の肘撃ちだった。しかしそれはただ哲郎の筋力だけで繰り出されたものでは無かった。それならば黐詠の意識を奪う事は叶わなかったであろう。故に哲郎は自身の能力を最大限に活用し最大火力を出した。
黐詠に肘を繰り出す瞬間、哲郎は舌を弾いて音を出し、
加速によって威力が増大した哲郎の肘は轟鬼族の黐詠の腹筋を貫通し、その意識を断ち切った。苦痛を意に帰す暇も無く黐詠は地面に倒れ伏した。それを認識した次の瞬間、哲郎の鼓膜を凰蓮の声が震わせた。
「━━━━お見事ですね。私の任務を妨害した責任は
「……………………」
「間怠こしい事は嫌いですから一言。
哲也さん。いえ、