鬼門組は彩奈から得た情報によって鳳巌の根城の予測位置を正確に弾き出していた。そして哲郎が彼等と共に居る場所はその予測位置から数百メートル程離れた場所である。その地点で一旦停止した理由は鳳巌に接近を悟られない為だ。
凰蓮の(周囲に聞こえる程度の声量の)一喝の後、哲郎は彼等に付いて行く形で百メートルという道程を歩いた。その道を歩く時間は哲郎が何度も体感した間も無く戦場に足を踏み入れる時の独特の緊張感であった。
その際、凰蓮は哲郎に向けて今後の作戦を話した。彼曰く、奇襲を仕掛けてから最初の数分が勝負である。その際に出来る限り多くの雑兵を捕らえ、相手が準備を整える隙を与えずに組織を壊滅に追い込む。その場で起こる戦闘は自分と鳳巌の一戦に抑え込む事が理想と凰蓮は語った。
凰蓮達鬼門組の最優先の目的は鳳巌やその
逆に言えばその目的を邪魔しない限りは鳳巌の根城で何をしても問題無いと哲郎は独自に解釈している。都合の良い解釈であるとは分かっているが、そうでもしなければとても自分の目的を遂行する事など出来ない。
*
「……………………」
「総監殿、此処が確かに目的の場所です。しかし、此処は………………」
十数分を掛けて凰蓮達は目標に定めた位置に到着した。しかし、彼等の心中を埋め尽くしたのは達成感や緊張では無く、困惑の感情だった。その理由はそこに
入り口になりそうな物も見張りの者も、犯罪組織の根城であれば当然ある筈のものが一切無く、何の変哲もない森が広がっているだけであった。目の前に広がる光景に誰もが騒めき、そしてその心の中を一つの懸念が埋め尽くす。彩奈の情報は全くの的外れであり、ここは目的とは無関係で自分達のここへ至る道は全くの徒労であったという懸念が。
「総監殿、此れはもしや彼女の情報に誤りが━━━━」
「いいえ、そう考えるのは些か早計ですよ。
彼女の情報から割り出したのは飽くまでも二つの音声通信の最大距離から割り出された予測位置に過ぎません。逆を言えば、私達が今居る此処が鳳巌の根城
「! も、申し訳ありません、浅はかな事を言ってしまいました!! 直ちに周囲を捜索し手掛かりを見つけ━━━━━━」
「いいえ。其の必要はありません。」
「!!?」
その瞬間、団員の男が見たのは凰蓮の
「もし此処が根城の上であるなら、入り口は今此処で、私が作ります!!!」
「!!?」
その言葉を発した際、凰蓮は手に持った武器、具体的には巨大な薙刀を両手に持って振り上げていた。その状態で視線は真っ直ぐに地面を見据えていた。全身から気迫が立ち上り、誰が言及するでも命じるでもなく、哲郎を含めたその場に居た全員が一斉に後ろに引いて凰蓮から距離を取った。
そして次の瞬間、その判断が自らの命を救うものであったという事を全員が痛感させられる。
「カアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」
『ボゴォンッ!!!!!』
『!!!!!』
凰蓮が取った行動は単純明快。振り上げた武器を渾身の力で地面に振り下ろす、ただそれだけであった。しかしそれによって地面に亀裂が走り、そして崩壊した。一人の男が魔法すら使わずにただ純粋な膂力のみによって引き起こされたそれは周囲に膨大な土煙を巻き起こし、哲郎の視界を茶色一色に塗り潰した。
しかし、哲郎の神経を刺激したのは視覚だけでは無かった。足元に感じた神経の刺激、それは即ち《浮遊感》であった。
***
その時、
しかし、それは瞬時に終わりを告げる。彼等の日常を終わらせたのは突如天井から飛来した数十人の男達であった。彼等にとって最も忌み嫌う男達が一斉にだ。
*
「…………………」
(これは………………!!)
結論から言うと、そこにあったのは哲郎が昨日見た光景と全く同じものだった。高台に囲まれた大広間、そこに並べられた大量の料理、それを囲む男達。寸分違わぬ光景がそこに広がっていた。
『哲郎さん、此処は昨日貴方が見た根城と同じものですか?』
『! はい! 間違いなくここは鳳巌の根城です!!』
『………そうですか。貴方を連れて来て正解だったようですね。』
(!!
「総員!!!! 一斉攻撃開始です!!!!!」
凰蓮のその一喝が始まりだった。鬼ヶ帝国の未来を左右する世紀の一戦の始まり。それは帝国一の精鋭達による一方的な正義の蹂躙であった。