鳳巌は活動場所に拘りは無かった。雨風を凌げ鬼門組から身を隠せるならばたとえ洞窟だろうと住処として選んだだろう。しかし肥大した権力が、彼の意思とは裏腹に向上した立場が、そして仲間に据えた者達の飽くなき欲望がそれを許さなかった。
鳳巌を棟梁とした組織は豪かで、堅牢で、そして強固な要塞を必要とした。組織の人間は荒廃した地域から人々を攫い、労働を強制させ、僅か数年で地下に一から要塞を作り上げた。それは帝国の権力の目を掻い潜り、犯罪者を生かす機能を果たしたのである。
そして今、その悪意の温床とも呼ぶべき根城に正義の風穴が開く。それは一人の男の一撃によって、余りにも唐突に開いた。
*
凰蓮の余りにも唐突で強烈な一撃、そして自分達が今落下しているという事実は鍛え上げられた団員達の精神をも動揺させた。しかし、その動揺は目の前に広がる光景によって即座に鎮められる。そこには彼等が求めて止まなかった光景が広がっていた。
欲を練って固めた贅の極みのような料理の数々。それを囲む男達の品性の欠片も無い表情。その光景が彼等の直感にこここそが鳳巌の根城であると教えた。
「総員!!!! 一斉攻撃開始です!!!!!」
『!!!!!』
凰蓮のその一言は、鬼門組の団員達にとっては帝国の犯罪者達に引導を渡す合図であり、根城に居た彼等にとっては自分達の自由の終わりを告げる絶望の一声だった。その一声が地下空間に響き渡るよりも早く、鬼門組の先制攻撃が始まる。彼等の共通理念は一つ、『連中に何もさせない』という事だった。
『炎妖術!!! 《豪炎瀑布弾》!!!!!』
『!!!!!』
哲郎は視認出来なかったが、凰蓮の両隣に陣取っていた団員達が懐から赤色の札を出してその技名を口にした。瞬間、哲郎の視界は赤一色に埋め尽くされた。それが炎
(分かってはいたけどなんて光景だ……………!! これでも轟鬼族にとっては普通なのか……………!?)
目の前に広がる光景は哲郎の目には虐殺や排除というような凄惨な単語で表現されて然るべき状況だったが、凰蓮はそれを犯罪者の生け捕り及び無力化の方法として選択した。
帝国に足を踏み入れてからというもの、哲郎は轟鬼族という種族の身体的な頑丈さを幾度も目の当たりにした。今までは通用した哲郎の攻撃が通用しなかった場合も存在する。ならば目の前に広がるこの大火も彼等にとっては軽い火傷の原因にしかなり得ないのだろうと、そう強引に結論付けた。
『━━━━ズドォン!!!』
『!!!』
自らの
「……!!」
炎が消えた後、そこに広がっていたのは死屍累々の惨状では無かった。多少服や髪が焦げただけで(動揺はしているものの)平然と生きている犯罪者達が依然としてそこには居た。やはり今の火炎放射ですら最初の抵抗を防ぐ為の牽制でしか無かったのだと再認識した。
そして鳳巌の根城に降り立った団員達の中心に凰蓮が居た。根城で自由気ままに振る舞っていた犯罪者達にとってそれは《絶望》の象徴とも言い換えられた。
「━━━━さてさて、今日まで此の国を騒がせてくれた皆さん、
初めまして。そして、左様なら。」
『!!!!!』
その時、凰蓮は表面上は笑みを浮かべていた。しかし、彼の心中を埋め尽くしていたのは怒りや正義感を混ぜ込んだような激情だった。彼の背後に居た哲郎はその表情を見てはいないが、後ろ姿だけで凰蓮の中に渦巻く感情の本流を肌で感じた。
今、凰蓮の目の前に居るのは卑劣な犯罪者である。彼等の凶行によって人生を破壊された罪無き人間は枚挙に暇がない。そして凰蓮は総監としてその事件の全てを知っている。ならば今この場で最も憤っているのは他でも無い凰蓮だ。
「~~~~~~!!!!!
アアアアアアアアアアァァァァァッ!!!!
凰オオオォォォ蓮ェェェェェン!!!!!」
「!!!」
凰蓮の言葉を聞いた瞬間、一人の男が地面を蹴り飛ばして凰蓮に強襲を掛けた。その顔は目に見えて歪んでいた。明らかに自棄になっている。そして手に持った刀を振り上げる。
それでも尚、彼は決して凰蓮に攻撃などしてはいけなかった。それを彼が知る由は無い。それを理解する前に意識を断ち切られたからだ。
『ズドォンッ!!!!!』
「!!!!?」
それは単純明快な凰蓮の蹴りだった。しかしそれによって男の身体は一直線に吹き飛び、城の壁に激突して意識を失った。それを見届けて凰蓮は再び口を開く。
「……言い忘れていましたが、私は貴方方が抵抗するならば決して情けは掛けません。賢明な判断を強く推奨しますよ。」
凰蓮は既にこの場を支配し、その場に居た全員の注目を集めていた。しかし、それによって団員達は気付いていなかった。その時既に、