虎徹は言った。凰蓮は今夜の戦闘の果てに死ぬ覚悟である と。
奇しくもそれは当たっている。凰蓮はこの世に生まれ落ちてから今日まで続く鳳巌との因縁に終止符を打つ時が自分の死に場所になると、そう予感していた。いつしか鬼門組に入隊したのも、そこでの活動の目的も鳳巌を止める事に変化している事を彼は実感していた。
しかし一方で凰蓮には
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「う、う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「逃げるな!!! 自分だけ助かるつもりかクズ共が!!!」
「畜生ふざけるな!! こんな所で終わってたまるかよ!!!!」
鬼門組の眼前、そこには蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う醜い犯罪者達の姿があった。恐怖に慄く者、他者を卑怯と詰る者、思い描いた明日を死守しようとする者、様々な人間がそこには居た。しかし彼等には唯一共通している部分があり、それは同時に彼等の精神構造の根幹でもあった。それは『自己保身』である。それ故に凰蓮はこの作戦の成功を強く確信していた。
犯罪者達がこの根城に居る理由は偏に鳳巌という権力の笠の下で自由気ままに振る舞う為である。彼等の心中には多少なりとも鳳巌への憧憬や敬意はあれど、それ以外の人間を敬う心は皆無である。彼等の精神の本質は安全に自由気ままに犯罪行為を繰り返したいという欲求及びそれを行う為の保身であり、その本質は凰蓮という窮地と相対した事によって露骨なまでに姿を現した。
自分だけは捕まりたくないという欲求はその場に居た全員に伝播し、根城の広間に大混乱を巻き起こした。そしてその混乱は寧ろ犯罪者達の合理的な逃走を阻害し、ある者は転倒し、ある者は他者と衝突し、ある者は同志である筈の他者と醜い感情をぶつけ合う醜態を鬼門組に晒していた。
それを見て増々凰蓮はこの作戦の成功を強く確信した。全く同じ事を確信した重役の一人が部下に檄を飛ばす。
「さぁかかれ!!! 奴等はか弱い市民をいたぶるしか能の無い低能ばかりだ!!!
力も正義も我等にある!!! 臆する必要など微塵も無い!!!!」
『うおおおおおおおおおおおお!!!!!』
『!!!!!』
その言葉を引き金として、遂に鬼門組が根城の犯罪者達に一斉攻撃を掛けた。その後の状況を一言で言うならば鬼門組の圧勝である。
凰蓮という敵を前にしていつも通りの明日を迎える事は最早絶望的と理解してしまっている犯罪者達と、卑劣な輩への義憤に燃え帝国の明日の為に戦うという気概を持っている鬼門組とでは、そもそもの士気が雲泥の差だった。強いて犯罪者達の幸運を挙げるとすれば、鬼門組の目的が犯罪者の
ある者は手に持った武器で四肢を斬られ抵抗する力を奪われ、ある者は関節を捻り上げられ、ある者は地面に叩き付けられて身体を縛られていく。
鬼門組の隊員達は間違いなく職務を全うしていた。彼等に落ち度があるとすれば、目の前の犯罪者達に集中し過ぎた事であろう。彼等はもう一人、意識を向けなければならない人物が居た事を失念していた。そしてそれは同時に
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鬼門組の隊員達の心中は犯罪者達への義憤一色に染まり、犯罪者の逮捕という一つの目的に向かっていた。しかしその集団から外れ、逆方向に走り続ける
(━━━━さすがに強いな! 警察で言う所の公安とか特殊部隊みたいな人達(ドラマで得た情報だけど)だから当然か。
あそこはあの人達に任せて、僕は僕のやる事をしないと………………!)
根城の中を単独行動しているのは
凰蓮は隊員達の前では哲郎に目的地が根城であると確認出来次第直ぐに引き返すようにと偽の指示を出し、その後哲郎だけに突入後姿を変えての単独行動を許可した。その条件は鬼門組の邪魔をしない事と自分の負傷を自己責任とする事である。哲郎もその覚悟で帝国に潜入したため、一切の異議を唱えなかった。
鬼門組、鳳巌、そして《転生者》、それぞれの思惑が入り乱れる戦いは鬼門組の圧倒で始まり、凰蓮が戦場を支配した。しかしその勢力図が変化するのは時間の問題である事を哲郎は強く確信していた。