異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#356 The Mad Bull

哲郎にとって幸運だったのはやはり、鬼門組の面々が突入後直ぐに乱戦を繰り広げた事であると言える。鬼門組の団員に変装し単独行動を行う上でこれ以上の隠れ蓑は無いからだ。加えて鬼門組の団員は他の団員の全員を把握している訳ではない。仮にこの時の哲郎を誰かが見た所でその姿は他の場所に居る犯罪者達を確保するために奔走している団員としか見えなかっただろう。

しかし、哲郎の目的は犯罪者の確保では無かった。走りながら、一度目にこの根城を訪れた時の事を思い返していた。哲郎は今、この根城の本当の出入り口(・・・・・・・)を見つける為に走っている。

 

(━━━━あの大広間に連れて行かれる前に、僕は鳳巌に連れられて歩いた。音や空気の動きから考えても歩き方はただまっすぐ、曲がったりも無く一本道だった。なら、鳳巌が僕を連れて来るために使った本当の出入り口(・・・・・・・)はあの大広間の反対の方向にあるはずだ!!)

 

哲郎が今走っている通路はまともな光源は無く、湿気に包まれて至る所にカビやコケが生えている。哲郎の皮膚はその感覚すらも正確に記憶していた。歩を進めれば進める程にここが例の根城で間違いないという確信が強くなっていく。ならば自分が探し求めるものはすぐ先にある筈だと、哲郎は強く確信する。

 

「!!」

 

走り続けて数分後、目的のそれは哲郎の目に入り込んできた。哲郎の夜のように暗い通路に《適応》した目は、確かに通路の奥にぶら下がる縄梯子を捉えた。それだけではなく、今にもそれによじ登ろうとしている二人の太った男達の姿もあった。鬼門組の奇襲を如何にして察知したのかは知る由も無いが、誰の目にもそこから逃れようとしている犯罪者である事は明白だった。

 

哲郎には必ずしも犯罪者と戦闘し確保する義務は無いが、それでも逃げようとする男達を前にした瞬間、野放しにする選択肢は即座に捨てた。正義感か、彼等を野放しにすれば外が騒ぎになるという打算か、敵にとって有利になるかもしれないという危機感か、その理由を言葉にしようとすればそこには無いともその全てとも言える。兎に角哲郎にはその行動(・・・・)こそが最善だと結論付けた。

 

「おい!! さっさと上れよ!!」

「くそぉ!! こんな所で終わってたまるか!!」

 

鬼門組の団員(に扮した哲郎)が迫っているとも気付かず、男達は太った身体に鞭を打って全速力で縄梯子を上ろうとする。それが自分達の運命に終止符を打つ行為である事に彼等は遂に気付かなかった。

今やこの世に、哲郎から逃れられる者は存在しない。

 

「ッッ!!!!?」

「!!!? なっ…………!!!?」

 

梯子の足場を手で掴み、腕で身体を引き上げて身体を加速させた、その行為こそが命取りだった。哲郎はその速度に《適応》し、身体を加速させて男に肉迫した。そしてその速度と体重を全て乗せて男の背中に跳び蹴りを見舞った。轟鬼族の頑強な背骨や筋肉はその蹴りの衝撃を受け止めはしたが、顔が歪む程の衝撃が彼を襲った。

 

「!!」

「このっ!!! 帝国の狗がぁっ!!!!」

 

鬼門組の団員の姿をした男が自分の前に現れた。その事実を認識した瞬間、後続の男は哲郎に向けて拳を繰り出した。しかし、凰蓮の見立て通り私欲を満たす事しか考えていない犯罪者と訓練された鬼門組の団員とでは実力に差があり過ぎる。増してや相手が《転生者》田中哲郎であるならば猶更その実力差は明々白々である。

 

「ふんっ!!」

『ゴッ!!!』

「んがっ━━━━!!!?」

 

哲郎は男の拳を手慣れた動作で躱し、無防備になった顎を肘で撃ち抜いた。男自身の速度がそのまま全て乗っている事、男が口を開き顎や脳が衝撃に脆くなっている事などが幸いし、男の意識はその一撃によって断ち切られた。

 

「!!」

 

後続の男の身体が地面に倒れ伏すよりも早く、次なる攻撃が哲郎を背後から襲った。縄梯子を上っていた男が哲郎に向けて襲い掛かる。しかし、攻撃される事と窮地に陥る事は必ずしもイコールでは繋がらない。寧ろ絶好の攻撃の機会だった。

 

『━━━━ズダァンッ!!!!』

「!!!!」

 

哲郎は背後から襲ってくる男の手首を掴み、腕を肩に乗せて身体を回転させた。男の身体は手首を軸にして宙を舞い、そして背中から、偶然にも後続の男の腹部に叩き付けられる。

 

「━━━━ふぅっ!

(終わった。 それにしてもこの人達と言いさっきの人と言い、鬼門組(僕達)の顔を見ただけで襲い掛かって来たな。そんなとんでもない人達がこの世界には居るんだな……………。)」

 

哲郎は今しがた制圧した男達を見下ろし、彼等の醜さを改めて認識していた。結果だけを見れば哲郎の圧勝だが、彼等が哲郎を殺そうとして襲い掛かって来た事は動かし難い事実である。己の保身だけでそれを平気で行う彼等の精神構造を哲郎は理解し切れずにいた。

しかし、目の前の彼らすら序の口であるという事を哲郎は忘れかけていた。

 

『━━━━ズンッ』

「!!?」

 

背後から聞こえた物音に視線を送ると、そこには一人の男が立っていた。縄梯子を降りて根城に入って来た事は容易に想像出来るが、哲郎が最初に認識したのはその男の気迫だった。鳳巌の権力にしがみ付くだけの犯罪者とはまるで異なる雰囲気から哲郎は瞬時に目の前の男が凰蓮の言った犯罪組織の幹部の一人だと断定した。

哲郎の予測は当たっている。彼の名は《牛檑(ごらい)》という。

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