帝国の平穏を脅かす五億の男 牛檑。彼には一度だけ逮捕歴がある。しかし裁判に掛けられる事も無く、陸華仙による
当時、その留置所の警備を担当していた隊員の男
「━━━━一言で言うなら、あれは猛獣のようでした。我々はあの男を
ええ。あの時私は留置所の入り口に配置を移したんです。何時仲間が襲撃に来るかと気が気では無かったのでね。ですがそれがいけなかったんです。たとえ外部から襲撃される危険を冒したとしてもあの男に機会を与えてはならなかったんです。
入り口に様子を見に行った時間ですか? いえ、ものの数秒ですぐ戻るつもりでした。あの時の自分は迂闊だったと言う他にありません。
聞こえたのは爆音でした。最初はてっきり、仲間達が爆弾で留置所の壁に穴でもあけようとしたのかと思いましたよ。まさかそれが生身の人間が発生させた音だとはね。
音が聞こえた方に駆け寄って、私は自分の目を疑いました。そうです。例の檻と壁に穴が開いていたんですよ。丁度牛檑の
ですが調査を進めて、その仮説が当たっていた事を思い知らされました。牛檑はね、体当たりで留置所を突き破って逃走したんですよ。それまで大人しくしていたのは恐らく機会を伺っていたんでしょうね。あの堅牢な留置所の石壁を障子紙のようにですよ? そんな怪物を一体どうすれば捉えておけると言うんですか?」
*
帝国でも屈指の堅牢さを誇る鬼門組 陸華仙の留置所の石壁。それを身一つで突破した記憶は他でも無い牛檑の五体に刻み込まれ、そしてそれは揺るぎない自信へと成長した。轟鬼族の肉体を以てしてもその石壁を上回る肉体強度を持つ人間は著しく限られる。
自分の体当たりは帝国に住まう者を、ごく一部の例外を除いて悉く叩き潰せると、牛檑はそう強く確信していた。だからこそ彼は目の前に広がる光景を肯定出来ずにいた。唯の鬼門組の隊員が自分の渾身の体当たりを受けて原形を保っているなど、ましてや明確な戦意と共に立っているなど有る筈が無い と。
「……………………!!!」
「お前の其の身体、頑丈なんてものじゃない。たった今確かに砕いた筈の四肢の骨も
答えろ。お前、唯の下っ端の隊員では無いな?」
「!!!」
哲郎は最初、目の前の牛檑という男を感情的な猛獣のような男だという印象を抱いた。しかし今、それが如何に短絡的な判断であったかを思い知らされる。牛檑は凶悪な犯罪者でありながら自分の置かれた状況を冷静沈着に分析出来る男だ。
(まずい、《適応》の能力がバレかけている………!! この人の前で無暗にダメージを受け過ぎたか………………!!!
どうする? そもそも僕の目的は敵の《転生者》を見つけ出す事で、この人と戦う必要は何処にも無い。隙を見て逃げ出そうか…………………………………
いや、それはダメだ!!!)
《
この男を野放しにする事は、例えるならば通行人で埋め尽くされた交差点に暴走大型車を突っ込ませるような危険な行為であり、その結果目も当てられない光景が広がる事は想像に難くない。哲郎の信念がそれを許さなかった。
(この人を自由にさせてはおけない!!! たとえ敵の思い通りになったとしても、この人は僕が止める!!!!)
哲郎が取った選択肢は目の前の牛檑を速やかに制圧し本来の目的遂行に戻るという事だった。両手を上下に構え、前方に突き出す。牛檑がこれから取るであろう最大火力に対し哲郎が取れる最適な防御の構えだ。
「………………答える気は無い か。まぁ、それなら別に良いんだ。お前の身体の謎も、たとえお前が組の者じゃなかったとしても、今ここで叩き潰しちまえば関係ないんだからな。」
「!!!」
「先は叩き砕いた四肢が立ち所に治った訳だが、ならば其の胴の中の五臓六腑を叩き潰して生きていられるのか!!!!?」
「!!!!」
牛檑の出せる最大火力は堅牢な石壁すら軽く叩き潰す事の出来る渾身の体当たりである。今回、哲郎との戦いの場でもそれを選択した。闘牛と遜色無い巨体を持つ大男が全身全霊の力で一直線に向かって来る。
その時の哲郎の目には彼の姿に大型車両が重なって見えた。