《適応》の身体を手に入れてからというもの、哲郎は度々考える。今の自分が交通事故に遭遇したら果たしてどうなるのだろうか と。幸か不幸か今居る世界の科学技術は自動車を製造する能力を有していなかった(あるとすれば馬車程度)。故に哲郎の疑問の答えが明かされる事は無かった。
しかし今、哲郎の前には自動車を彷彿とさせる
その男の名は《牛檑》。彼は齢十一の少年でありながら鬼門組の一隊員の姿を借りている哲郎を強敵と見なし、己が出せる最大火力を放出した。
*
哲郎は既に牛檑の
そこまで考えて哲郎はタックルを受け止める選択を取った。大型車両を彷彿とさせるその衝撃を最小限に抑え込む方法を《適応》によって獲得した時間で実行する。
『━━━━━━ゴォッ!!!!!』
「!!!!」
哲郎は両手で突進してくる牛檑の額と顎を受け止めた。牛檑の体重と速度が丸ごと加算された衝撃が腕を通して全身に駆け巡る。その衝撃を後方へ逃がし一瞬踏ん張る事が哲郎の限界だった。瞬く間に哲郎の位置は後方へ急速に移動した。
『ギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリギャリ!!!!!』
「~~~~~~~~~~~!!!!」
「うおおおおおおおおおおおお!!!!」
火花が散るような地面を削る音と哲郎の苦悶の声、そして牛檑の雄々しい声が地下通路内に反響する。今の牛檑の進行方向は例の大広間とは反対方向である為、この男を乱戦の場に放り込む心配は無い。しかし徒に時間を空費する気は無かった。哲郎の足と背に限界が迫っていた。
(このままじゃあの入り口の壁に激突して押し潰される!!! それにこんな事続けてても何にもならない!!
………やっぱり僕に出来るのはこれしかない!!!)
「!!?」
哲郎は身体を屈めて牛檑との力の拮抗を崩した。それと同時に顎を受け止めていた手を首に移動させ支点に変える。牛檑の身体は突進の運動のままに宙を舞った。
「━━━━うりゃあッッ!!!!」
『ズドォンッ!!!!』
「!!!?」
牛檑の身体は哲郎の動きに巻き込まれる形で宙を舞い、そしてそのまま背中から地面に激突する
しかし、今回はその限りでは無かった。
「!!?」
「━━━━この俺の攻撃を受けて平然としている事には取り敢えず驚いてやる。だが、そんな見え見えの攻撃俺には通じない!!!」
哲郎が耳にしたのは牛檑の
(あ、あんな体勢で踏ん張ってる!!! 一体どんな筋力があればあんな事が……………………!!!)
「ぬんっ!!!!」
「!!!?」
牛檑は逆に哲郎の手首を掴み、そして尋常ではない筋力を以て身体を急速に起こした。その動きに哲郎を巻き込み、片腕で哲郎を地面へ投げ落とす。そこに哲郎のような技量は存在せず、純粋な馬鹿力だけがあった。
「ッッ……………!! ガッ………………!!!」
今まで幾度も敵を投げ落としてきた哲郎だったが、投げ落とされた経験は乏しい。その不慣れな衝撃が背中から全身を貫いた。その一瞬の間に牛檑は次の攻撃の準備を終えていた。
「!!!」
「ぬぅんっ!!!!」
「!!!!」
哲郎の目は肘を振り下ろそうとしている牛檑の姿を捉えていた。反射的に身体を横方向へ移動させその追撃から逃れる。追撃から逃れた次の瞬間には地面を打ち付ける音が哲郎を襲った。その場に留まっていれば肘打ちが哲郎の顔面に襲い掛かっていた。その事実が哲郎の精神を無条件に動揺させた。
「………………!!!」
「なかなかどうして勘の良い餓鬼だな。だが今ので確信した。俺は一撃でお前を挽き肉に出来る!!!」
(あんなに強く地面を殴ったのにケガ一つ負わないのか!! やっぱりこの人は、いや、轟鬼族は今まで戦って来た人達とは身体の作りが違う……………………!!!)