哲郎と牛檑との戦いに割って入った不審な矢。哲郎はその正体に心当たりがあった。その矢が使われた可能性のある事件を昨夜聞いたばかりだ。
哲郎が鳳巌の根城から
哲郎が聞いたのはこれらの情報だけだったが、その情報からある一つの結論に達した。それは被害者が自分を遠くに追放した鳳巌の配下の男であり、犯人は帝国に潜む敵の《転生者》であるという事だ。
哲郎はこれら二つの事例を順を追って虎徹に説明し、独自の見解を述べた。飽くまで推測の域を出ない事は哲郎自身が良く理解しているが、この推測が間違っていないという確信も同時に持ち合わせていた。
「………………僕はこう考えているんですが、虎徹さんはどう考えますか?」
『………確かにあり得る話ではある。じゃが其れならば明確に腑に落ちん点があるぞ。
仮に其の不届き者が敵の《転生者》と仮定して、主を助けた理由は何じゃ。そして今、主を攻撃せず野放しにしておる理由は?』
「!!」
虎徹の指摘はそれまでの哲郎の確信を容易く瓦解させる威力があった。(負ける可能性は著しく低いとはいえ)牛檑を攻撃して哲郎を助ける理由も今この場で哲郎を野放しにしている理由も全く見当たらない。一瞬そう思った哲郎だったが、その理由に思える仮説を一つ見つけた。こじ付けと言われれば否定出来ない希薄な仮説だが、同時に一度だけでも言う価値はあると考えた。
「…………あの、その理由ですけどもしかしたら、僕の命よりも優先して達成したい目的がその敵にある、としたらどうでしょうか。」
『ほう。例えば何じゃ。』
「例えば、僕より先に倒しておきたい人がこの場に居る、とか━━━━━━━━」
『━━━━ズガァンッ!!!!!』
『!!!?』
その音は突如として、通路の奥深くから鳴り響いた。金属同士が衝突したかのような甲高い音だった。瞬間、哲郎はその音を鳴らした
「分かりましたよ虎徹さん!! 敵の目的はもしかしたら、凰蓮さんか鳳巌の命かもしれません!!!」
虎徹の返事を待つよりも早く哲郎は駆け出していた。自分の死よりも避けるべき事態が眼前に迫っているという実感が強まっていた。
*
この世界には元々の出身でありながら《転生者》と互角に渡り合える例外的存在が四人居る。そしてその内の一人は帝国の現皇帝 魍焃である。これは帝国に来てからラミエルに与えられた情報だ。
この情報は同時に皇帝以外の全ての帝国民は実力で《転生者》に劣るという事を意味する。実際に哲郎も試合、実戦を問わず帝国民に後れを取る事は無かった。それらの事実を考慮に入れても尚、自分達に届き得ると考えられる人物が二人居る。それが凰蓮と鳳巌である。
両者とも、その実力は《
帝国への影響が重大かつ敵が比較的容易に始末出来る人間が二人、この根城の中に居る。加えて哲郎の勘が当たっている場合、今現在その二人は激突している。先程の轟音はそれによるものと考えるのが自然だ。
この思考からも分かるように、哲郎の意識は一刻も早く最後に凰蓮を見た大広間へ向いていた。しかし意識の全てをそこに向けている訳では無かった。
(━━━━どこを見ても
哲郎は通路の何処にも牛檑を撃ち抜いた大量の矢が落ちていない事実を目の当たりにし、自分の中の確信をより強めて行った。昨夜団員から聞いた殺人事件の不審点と今回の状況は完全に一致している。しかしその時、哲郎は既にその例の矢を
*
「!!!」
数分と経たずに哲郎は先程の大広間に着いた。そこには彼が想定した通りの光景が広がっていた。凰蓮と鳳巌が中央で互いが持っている武器を衝突させている。鬼門組の襲撃を聞き付けて頭領の彼が直々に出張って来たのか、その経緯は知る由も無い。しかし確信している事が一つだけあった。
(ここだ。敵は必ずここに現れる………………!!!)
言うまでも無く、敵も味方もただ二人の戦いを棒立ちで見ている訳ではない。鬼門組の団員達は己の職務を全うし、鳳巌の配下達は必死に抵抗している。その乱戦のどこかに敵が潜んでいると、哲郎は深く確信した。