異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#364 The Worst Saver

帝国を生きる者の中で、特に鬼門組に所属する者の中で九年前の一件を知らない者は居ない。それは凰蓮が鬼門組の総監に選ばれる契機となった帝国史上最悪の犯罪者 鳳巌との激突である。それは鬼門組や市民だけでなく、帝国の裏社会にまでも強烈な衝撃を与え、今も尚伝説として語られている。

そして今、その伝説が再現されようとしている。鳳巌の根城に鬼門組が突入を掛けた時点でそれは最早決定付けられていた。その激突は根城の内部全体に響き渡る轟音によってその始まりを告げた。

 

 

 

***

 

 

余談だが、凰蓮と鳳巌は共に九年前と同じ武器を依然として使っている。人間の頭部が丸ごと隠れる程の表面積を持った刃が取り付けられた武器だ。九年という、それも激動の日々を乗り越え、再びこの二本が相まみえる事になったのは奇跡という他にない。その二本は再び出会い、そして九年前と全く同じ音を響かせた。鬼門組だけではなく、哲郎もその音を聞いていた。

 

「……………………!!!!」

 

一言で言うならば、哲郎は圧倒されていた。無論の事、鬼門組の面々は誰もが命を懸けてその職務を全うしている。彼等には申し訳ないが、その乱戦が霞んで見える程に中央の激突は壮絶なものであった。常人には到底理解し難い動きで二つの刃が飛び交い、ぶつかり合い、周囲に轟音と火花をまき散らしている。

客観的に見ても二人の実力は互角。戦況は拮抗していた。しかし直ぐにその拮抗が崩れる出来事が起こる。それは哲郎の心を強烈に揺さぶる事だった。

 

「ぬぅあっ!!!!」

「!!!!」

 

それは時間にして一秒未満の出来事。しかし哲郎の目はその全てを正確に捕らえた。

結論から言うとそれは鳳巌が凰蓮を投げ飛ばした場面だ。凰蓮の上半身の筋肉を総動員させた突きを鳳巌は身体を屈めて躱し、伸びきった肘に肩を掛け、身体を翻した。凰蓮程の巨体が宙を舞う。その事実が鳳巌の膂力の程を雄弁に語っていた。

 

投げ飛ばされ宙を舞うという非日常的な出来事を目の当たりにしても凰蓮の精神は全く動揺していなかった。即座に身体を旋回させて体勢を立て直し、着地に成功した事がその証拠だ。自分の数倍もの体格を持ちながらそれ程俊敏な動きを可能にする凰蓮の技量の高さも思い知らされた。

 

「…………存外に軽くなったな 凰蓮。九年の事務仕事で腕が鈍ったか?」

「貴方こそ随分と技量が落ちましたね。罪の無い人ばかり相手にしているからですよ。」

 

言うまでも無く、哲郎は九年前の一件を目では見ていない。しかしそれは今自分が目の当たりにしている光景と全く同じなのだと理解させられた。《転生者》同士の戦いと言われても違和感が無い壮絶な戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

***

 

 

 

「捕縛、完了致しました!」

「良し、陸華仙に護送するぞ!!」

 

哲郎が鳳巌の根城の中に居る頃、一人の犯罪者が連行されようとしていた。その人物は公務中の凰蓮を襲撃するという前代未聞の犯罪を犯した。加えて鳳巌の娘を自称したという事実からも鬼門組の面々は細心の注意を払って任務にあたる。

その人物とは、黐詠である。彼女は全身の自由を奪われ今にも罪に問われようとしている最中にも自分の事を案じてはいなかった。彼女の脳裏にあったのは唯一、今も鬼門組と衝突しているであろう鳳巌の事だ。

 

(こ、これで終わりなの………………!? パパがこれからこいつらに殺されそうになるのを指を咥えて見てる事しか出来ないの…………………!!?)

 

黐詠の苦悩も虚しく、鬼門組の馬車は彼女の身柄を乗せて出発しようとしていた。しかしその瞬間、出発に待ったを掛ける人物が現れた。黐詠は閉ざされた空間の中で聞き覚えの無い(・・・・・・・)声を聞いた。

 

『!!? な、何故貴方様(・・・)が此処に!!?』

『………助けてやろうか。鳳巌の娘。』

『!!!!?』

 

その瞬間、黐詠は彼等の悲鳴を聞いた。何故そんな声が聞こえるのか、先程の聞き覚えの無い声は誰のものなのか、不明な点は数え切れない。しかし黐詠は確かにそこに自分が助かるかもしれない可能性を見出した。黐詠の精神状態とは裏腹にその人物は一人(・・)口角を上げた。

 

(…………牛檑の奴に仕掛けた矢は上手く発動したようだな。これで鳳巌の根城の場所が分かっただけじゃなく、《CHASER》の奴は俺がそこに居るって思い込んだに違いない。

奴は時間を食い潰して居やしない俺を必死こいて探すんだ。その隙に俺はダメ押しのカードを手に入れる……………………。)

 

悲鳴が止んでから数秒後、黐詠の網膜を光が刺激した。それは言うまでも無く、馬車の扉が開けられ閉ざされた空間に光が差し込んだからだ。そして黐詠は、返り血に塗れたその人物の顔を見た。その人物が何者なのかは知らないが、自分を助けてくれるのではないかという淡い希望を見い出した。

 

しかし次の瞬間、彼女の意識は断ち切られた。それが今日、彼女が見た最後の光景(・・・・・)となった。

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