敵の《転生者》の狙いは、比較的簡単に倒す事が出来、帝国に甚大な影響を及ぼす事の出来る凰蓮と鳳巌の命だと、哲郎はそう推測した。そして先程、鳳巌の身体を牛檑を襲ったものと同じ矢が貫いた事でその推測はより強固なものになった。
鳳巌を襲撃し、次は凰蓮を背後から襲おうとした。それを阻止する事に成功した。それは帝国に足を踏み入れ、遂に訪れた見えざる敵との対面の時だった。
(こ、この人が敵の《転生者》……………!!!)
哲郎の精神は待ち望んだ敵との対面の時を迎えても尚、張り詰めていた。それは凰蓮の背中目掛けて刃物を振り上げる動きの淀みの無さを見たからだ。
哲郎はこれまで、里香とトレラという二人の《転生者》と交戦している。二人共人間に危害を加える事に何ら躊躇いを見せなかった。しかし目の前に居るこの人物は明らかに無駄の無い動きで、背中から凰蓮の心臓に刃を突き立てようとした。
今まで出会った誰よりも人間を殺害する事に手慣れている。それを理解したからこそ哲郎は一切の感情を抑え込んでいる。
(さっきは赤い矢で、今度は赤い刃物…………!! まさか、赤い武器を作り出すのが敵の能力って訳は無いし…………!!)
「!?」
その時、哲郎の肩を掴む者が居た。目の前の敵に注意を向けながら横目で見ると、その者が鬼門組の隊員の一人であると分かる。その表情は明らかに青ざめていた。
(!? な、なんだ……………!?)
「な、何をやっているんだ!!! お前、
「!!?」
隊員の不可解な言動に哲郎は一瞬 気を取られた。しかし彼には一切の悪気はない。今の彼にとって哲郎はただの一隊員に過ぎない。加えて彼は
「邪魔だ。」
「!!!」
哲郎が隊員に気を取られた一瞬の隙を突いて、敵の《転生者》は追撃を試みた。哲郎の目は彼の指先が赤黒く光る光景を見た。それが何を意味しているのか、哲郎は瞬時に察知した。
「危ない!!!!」
「!!!?」
哲郎は敵の手首を離し、全霊の力で隊員の男の身体を突き飛ばした。直後、隊員の肩を牛檑や鳳巌を襲ったものと同じ、真っ赤な矢が貫く。その位置は先程まで隊員の頭部があった場所だ。
「グアァッ!!!? な、何が━━━━━━!!!」
隊員の男は肩に空いた風穴を抑え地面に倒れた。激痛に苦しみ悶えるが哲郎を糾弾はしなかった。彼に助けられた事は理解出来ているからだ。対する哲郎も隊員を助けられたという最小限の事実だけを認識すると再び目の前の敵に向き直る。
今の哲郎の脳内は敵の能力への疑念と激情に埋め尽くされていた。
(指から赤い矢を!? 一体どういう事だ……………!!?)
「何をやっているんですか!!! さっきと言い今と言い、この人達は無関係でしょう!!? 僕が間に合っていなければ死んでいましたよ!!!!」
「だからどうした。邪魔だったから片付けようとしただけだ。
何より今は抗争状態だ。誰が死んでもおかしくはない。」
「!!!!!」
敵の一言は哲郎の心の傷を真正面から刺激し、激怒させるには余りに十分だった。しかし哲郎は寸での所でその激情が短絡的な行動に繋がる事を抑え込む。それが敵の術中であると分かっているからだ。
「そんなにこいつらに死んで欲しくないならお前が黙ってその首を差し出してくれよ。そうすりゃ今すぐにでも帰ってやるからよォ!!!!」
「!!!!」
瞬間、哲郎の目は敵が持っていた赤い刃、正確には小刀程度の長さの刃が瞬時に伸びる光景を捉えた。その長さは隊員を庇った事によって生まれた間合いに容易に届く。それを察知した哲郎は刃の変形という不可思議な現象への疑念を纏めて抑え込み、全神経を回避に徹した。
『━━━━━━ガァンッ!!!!』
「!!!?」
その時、哲郎の視覚と聴覚に不自然な現象が起こった。
上半身を引いた回避行動によって見える筈の空を切って通過する赤い刃が見えず、その前に金属同士が衝突する甲高い音が彼の鼓膜を震わせた。その現象の原因となった人物は哲郎の背後に居た。
(お、凰蓮さん!!!)
哲郎は背後に居る凰蓮の姿を視認した。そして直後、彼の持っていた武器が敵の振るった刃を受け止めた事を理解した。
「ほう、まさか獲物の方から網に掛かってくれるとはな。」
「……………先程から立て続けに起こっている不可解な現象、全てあなたの仕業ですね? 即ち
「!!!」
「しかし、信じがたいですね。一体どうして貴方が……………」
哲郎の目には凰蓮の表情がほんの少し曇ったように見えた。その理由が敵にある事は明白だが、何故なのかは判別出来なかった。
「ふっふっふ。
「!!!?」
その言葉と共に敵は大仰な動作で身を包んでいたマントを脱ぎ捨てた。直後に見えた敵の全貌に哲郎の背筋は凍り付いた。
哲郎はその顔に見覚えがあった。刹喇武道会の観戦者として写真で見た《