異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#369 Codename 《CHASER》

哲郎は目の前に立っている男を知っている(・・・・・)

と言ってもこの時より前に面識があった訳では無い。人間にとっての人を『知る』という事には大別して二種類あると哲郎は考えている。

 

一つは実際に対面し互いの情報や存在を把握しあう『知る』である。そしてもう一つは新聞やテレビなどの情報媒体を通して相手の存在を認知する『知る』だ。この二つの大きな違いは情報が双方的か一方的かにある。

そして、今回の哲郎の『知る』は後者だった。哲郎は目の前の男を写真で知っていた。

 

*

 

(━━━━廠桓……………………!!!)

 

廠桓

帝国の政治の重要人物である筈の(・・)男がそこに立っていた。哲郎が見た顔写真は真顔であり、切れ長の目にも閉じられていた口にも感情による余計な変化は無く、精々が『険しい顔つき』という印象しか与えなかった。

しかし、目の前に立っている廠桓は目を細め、口元は残虐性に醜く歪んでいた。

 

「…………え、し、廠桓様…………………!!?」

 

根城は今、鳳巌が狙撃された事や哲郎が取った目立った行動を認識し、乱戦は落ち着き代わりに混乱が生まれ始めている。その混乱にダメ押しを掛けるように廠桓が登場した。それは隊員の一人がその名前をぽつりと口にした事で決定的になる。

この場に居る筈の無い人物の登場に、面々は己のとるべき行動も忘れ入ってくる視覚情報を処理する事しか出来なかった。それは哲郎も例外では無かった。

 

「…………………!!!」

「おいおい、折角念願の素顔(・・)を明かしてやったってのにリアクションが成ってねぇんじゃねぇのか? 《CHASER》!!」

「……………さっきも言っていたその『チェイサー』っていうのは僕の事ですか?」

 

哲郎のその問いはただの時間稼ぎでしか無かった。敵が自分をどのように呼んでいようが構う所ではないし興味も湧かない。

ただ、哲郎の意識は敵の正体に向いていた。敵の正体が果たして帝国に転生した純粋な廠桓という人間なのか、それとも敵が廠桓という隠れ蓑を纏っているのか、この事をはっきりとさせておく必要性がある。

その哲郎の思考など構う事無く、廠桓は口を開いた。

 

「何だお前、知らないのか。

《CHASER》ってのはお前の《転生者》としての識別名(コードネーム)だ。相手がどんなに強くてもそれに適応し(追い付い)て勝っちまう。お前にピッタリだろ?」

「……………それは誉め言葉と思って良いんですか?」

「まぁな。けど考えたのは俺じゃねぇ。誉め言葉は受け取れねぇよ。」

「……………………」

 

哲郎が稼げた時間はそれだけだった。その時間では哲郎の望む情報は得られなかった。

程無くして、そもそも現状ではいくら時間を与えられたとしても敵の正体には辿り着けない事に気が付いた。目の前に自分に敵意を持った廠桓が立っている。今はその事実を得られただけで十分と思うしかない。哲郎にその事を気付かせたのは凰蓮の言葉だった。

 

哲郎(・・)さん、彼が貴方の言っていた帝国を狙う不届き者なのですね? ならば貴方は下がっていて下さい。この場は私が━━━━』

『!! 凰蓮さん!! ダメですよ!!! 敵の狙いは凰蓮さん達なんです!!! 凰蓮さんにもしもの事があったらこの国が━━━━

 

ッッ!!!!』

 

哲郎が凰蓮に声を発し終わるよりも早く、廠桓が攻撃を仕掛けて来た。それに反応し防御したのは凰蓮の武器だった。

攻撃は体重全てを乗せた単純な正拳突きであり、《転生者》の能力を使った様子は無い。しかしその威力は強大であり、防御した音はまるで金属同士を打ち鳴らしたような轟音だった。

 

「~~~~~~~~~~ッ!!!」

「ほう。この俺の攻撃に反応するとはな。」

「━━━━どうやら我々に敵対すると見て間違いないようですね。

カァッ!!!!」

「フッ!!!」

 

凰蓮は廠桓に向けて武器の刃を振り上げた。零距離からの攻撃であるにも関わらず、廠桓は全くの切り傷も負わずにそれを躱し、その勢いのままに距離を取った。

 

「………………果たして貴方が化けの皮を被っていた廠桓なのか、それとも廠桓に成りすましている誰かなのか、それは今は考えている場合ではなさそうですね。

貴方が何者であろうと我々のすべき事に変わりはありません。この場における度重なる殺人未遂の現行犯で、貴方を確保します。」

「そりゃ面倒が省けて良かったぜ。来いよポリスマン。今日でお前の無敗伝説を終わりにしてやるからよ。」

「……………………!!!

(だ、ダメだ!! もう止めようが無い…………………!!!)」

 

凰蓮は人の命を嘲笑う極悪人を捉える法の番人として、廠桓は己の目的である凰蓮の首をその手で落とす為。その二人が一触即発の状態で向き合っている。哲郎が恐れていた状況が余りにも簡単に完成してしまった。

こうなってしまっては最早哲郎にも止める術は無い。帝国を狙う《転生者》廠桓の最初の相手は凰蓮となった。

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