異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#371 BLOOD

それは、ある者の耳には唇の隙間から漏れた空気の音に聞こえたかもしれない。

それは、ある者の耳には目の前の状況に対する驚愕の声に聞こえたかもしれない。

 

しかし声を発した哲郎にとっては明確な意味を持つ言葉だ。それは平仮名一文字の単語でありながら、敵の《転生者》の能力を示す言葉でもある。

 

 

その一言が哲郎の口から漏れた。

 

*

 

敵の《転生者》廠桓の手首から流動的な赤い盾が形成され、凰蓮の一撃を受け止めた。それが今の哲郎の眼前に広がる光景だ。その光景を目撃した一秒後、哲郎はそれが敵の能力使用故であると理解し、今まで得た情報から敵の能力に辿り着いた。

その結果、哲郎の口から不意に漏れた言葉が『血』という単語だ。

 

(……………!!?

こ、これは一体━━━━━━)

 

鬼門組 総監の凰蓮は様々な修羅場を潜り抜けている。その中で妖術(魔法)の使い手を相手にした事も一度や二度ではない。しかし凰蓮はそれら全てを持って生まれた力でねじ伏せて来た。

しかし、今彼の目の前に広がる現実はそれらの成功体験からも大きく逸脱していた。自分の一撃が不意に現れた不定形な赤い盾に防がれた。

その事実を認識し脳内で処理する事に数瞬を要した。それが凰蓮の次の運命を決定した。

 

「(能力を使った!!!) 凰蓮さん まずい!!!」

「『血』? 当たりだ!!」

『ズドォッ!!!』「!!!?」

 

凰蓮は目の前の非現実に動揺し、哲郎は凰蓮の危険を察知し駆け寄ろうとし、廠桓は自分の有利に口角を上げる。

次に瞬間、凰蓮の力は行き先を失い、刃は地面に叩き付けられた。廠桓が展開した赤い盾が限りなく地面に垂直になり、刃が表面を滑った。武器が地面に刺さり、眼前の敵に隙を晒す。

その隙を突いて廠桓は跳び上がり、横方向から凰蓮に向けてその足を振り上げた。

 

「!!!」

「流石は鬼門組の総監様だぜ。この俺に能力使わせるとはな!!!」

『ドゴッ!!!!』「!!!?」

 

廠桓の蹴りが凰蓮の顔面を捉え、その巨体を軽々と吹き飛ばした。その最中にも哲郎の目は廠桓の足、正確には脹脛の部分の筋肉が盛り上がり青筋が走っている光景を捉えた。その事実が更に哲郎の推測をより強固にする。

 

(こ、この膂力は………………!!!)

「凰蓮さん!!!」「!!」

『ドゴッ!!!』

「うぐっ!!!」

 

凰蓮が吹き飛び、今にも根城の石壁に叩き付けられそうになっている最中、哲郎が彼の背後に移動し、その巨体を受け止めた。先の(交通事故の経験は無いが)大型車両を彷彿とさせる牛檑の最大火力(タックル)と比べても遜色無い衝撃が哲郎の五体を貫く。

しかし牛檑の戦いを経ている哲郎は今回の衝撃、体重にも即座に《適応》し、凰蓮の身体に掛けられた運動エネルギーを全身で中和した。

 

「━━━━━━━━ふぅっ!!

凰蓮さん、大丈夫ですか!!?」

「え、えぇ。顔を攻撃されるなど日常茶飯事ですよ。

其れより助かりました。あのまま壁に衝突でもしていれば、下手をすれば此処が崩落していたかも知れません。」

「そんな事考えている余裕無かったですよ。無事ならそれで何よりです。」

「恐縮です。其れは其れとして、実際に戦って理解出来ましたよ。此の世界には本当に、我々の常識では計れない人間が居たのですね……………。」

「おいおいおっさんとガキで何を話し込んでんだ? 俺も混ぜてくれよ。」

『!!』

 

あわや根城の崩落という危機を乗り越えた哲郎と凰蓮へ廠桓が歩み寄って来る。その立ち姿には隙が無く、それでいて自分の勝利を信じて疑わない不敵さが感じられた。

意味の薄い努力と分かっていながら、哲郎は凰蓮にしか聞こえない声量で彼に語り掛ける。

 

『凰蓮さん、良く聞いて下さい。敵の能力が分かりました。』

『!? 本当ですか!?』

『はい。『血』です。敵は血を操る能力を持っているんです。そう考えれば今までの全ての現象に説明が付きます。』

 

*

 

哲郎は敵の能力を『血を操る』能力と考えた。それであれば今まで起こった全ての現象に説明が付く。

鳳巌や牛檑を撃ち抜いた赤い矢、隊員達を斬り付けた赤い刃、昨日鳳巌の仲間を射殺した謎の凶器、そして今凰蓮の攻撃を受け止めた赤い盾。それらは全て廠桓が血を操り硬質化させる事で武器に変えたからだった。

更に哲郎を丒吟地方へ移動させた本来不可能な移動や今回の凰蓮を吹き飛ばす蹴りも、血流を操り自身の身体能力を向上させたが故であると考えれば辻褄が合う。

そして最後に陸華仙を襲った暴徒達や先程の黐詠も、白目が充血し全身に青筋が浮かんでいた事実からも、廠桓が彼等の血管に干渉したと考えられる。

 

*

 

『……………血を操る、ですか。其れでなくとも其の様な多種多様な芸当、とてもでは無いですが一つの妖術では出来そうにありませんね。其れが《転生者》とやらの強みなのでしょうか………………』

『それが強みかどうかは分かりませんが、手数の多さの厄介さは身に染みて分かっていますよ。』

 

哲郎と凰蓮は廠桓の能力に気付いて増々自分達の気を引き締めた。譬え能力に気付いたとしても第二第三の手札が隠されていないとも限らない。《転生者》廠桓との戦いはまだ始まったばかりだ。

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