異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#372 BLOOD 2 ~CRIMSON ARMOR~

転生者の能力が魔法より優れている点はその多彩さにあると哲郎は考えている。哲郎がこの持論に至った要因は他でも無い自分の《適応》の能力の成長と、かつて戦った《人形》の能力を持つ姫塚里香との戦闘の経験である。

哲郎はこれまで、様々な経験を経て《適応》の能力から浮遊(重力への《適応)》や加速(速度への《適応)》などの技を編み出した。

それと同様に里香もまた《人形》の能力一つで《操り人形》、《人形(ヒトガタ)》、《藁人形》、《くるみ割り人形》などの多彩な技の数々で哲郎を追い詰めた。この世界を生きる何者にもそのような芸当の全てを真似する事は出来ないだろう。

 

そして今、哲郎は更なる《転生者》廠桓と対峙している。彼の能力は血液を操作する能力。彼は既にその能力で武器を作り出し、人を操り、自らの身体能力を強化している。それらの能力を前にした哲郎の懸念は、他にどのような事が出来るのかという未知の手段にあった。

 

(……………血を操る、それは間違いないんだ。問題はその能力で他に(・・)どんな事が出来るかって事だ。一国を滅ぼそうと息巻いてるような人だ。これでもう手札が尽きたとは考えにくい………………。)

『哲也さん、帝国の人間者として、私が持つ廠桓の情報を提供しておきます。』

『!』

 

*

 

廠桓

彼は帝国における、主に国防における政策を担っている人物である。言うまでも無く、鬼ヶ帝国は鎖国国家であり、その堅牢さは政策的なものに留まらず、特殊な海流に国土を囲まれている事による物理的な意味合いも含まれている。

故に帝国民の誰もが国外から誰かが攻めてくるなどと夢にも思っていない。それでも尚政治に国防が含まれている理由は他でも無い廠桓が進言したからだ。彼の五年前の発言により、本格的な取り組みが行われた。

 

*

 

『元々貧民の私ですが、少なくとも総監の座に就いた九年前には、既に彼は帝国の皇居で勤務していました。彼は其の時から既にこの国の崩壊を目論んでいたと思いますか?』

『……………否定は出来ない、としか言えませんね……………。』

 

凰蓮の言葉の裏に隠された意味を、哲郎は即座に察知した。簡潔に言うならば、凰蓮は信じられないのだ。帝国の警察組織の最高機関 陸華仙。更にその頂点である総監を経験し鍛え上げられた彼の精神を以てしても、以前から知っていた廠桓が国家転覆を目論む敵として立ちはだかっているという現実を受け止め切れていないのだ。

対する哲郎は《転生者》として、その問いに答える。不幸にも哲郎はその限りでは無いが、《転生者》と常人との精神状態には計り知れない開きがあると、そう確信している。本性を現した廠桓の心の内は凰蓮に理解出来るものではないだろう。

 

「おいおい《CHASER》、いい加減にしろよ。さっきからボソボソとよォ。」

『!!』

「まぁ、お前の考えてる事は分かるぜ。俺の能力の全貌ってヤツが分からなくて不気味でたまらねぇんだろ?

答えてやると、俺はまだまだ手札を隠し持ってるぜ? 例えば、こんなのとかよォ!!!」

『!!!』

 

廠桓の、先程手首を切り付けた傷口から大量の血が噴き出し、それが生物のように流動し彼の全身に纏わり付いた。一秒も経つ頃には血液は金属のように固まり、ある形(・・・)を持った。それを意味する言葉が哲郎の口から漏れた。

 

「………鎧……………!!?」

「血液を凝固させて武器を作り出すと言うならば、やって出来ない事はありませんね……………。」

「ほらほらどうした!? ビビっちまったか!?

言っとくが誰も助けになんか来ねぇぞ!? 誰も彼もテメェの事で手一杯だからよォ!! お前等二人でこの鎧を突破するしかねぇぜ!!!」

「…………我々が其の鎧に臆しているかどうかは、私の攻撃を受けてから判断してもらいましょう。」

 

今までの印象から大きく乖離した、本性を現した廠桓の言動に凰蓮は少なからず動揺している。過去の事を何一つとして知らない哲郎もそれは容易に想像出来た。

だからこそ哲郎は、やはり自分が主体となって廠桓と戦わなければならないと思い直した。そしてその作戦を確実に成功させる為に凰蓮に話し掛ける。

 

その内容は、『出来る限り廠桓の気を逸らして欲しい』というものだった。

 

*

 

廠桓への売り言葉への買い言葉の代わりと言わんばかりに、凰蓮は手に持った武器を振り上げた。帝国民が見れば、その誰もがその迫力に震え上がるだろうが、廠桓はそれを前にしても尚不敵な笑みを崩さなかった。

 

「分かってるよな? さっきお前は俺の血の防御を破れなかった。だからお前は俺に顔を傷付けられた。それを繰り返す程馬鹿なお前じゃないだろう!?」

「えぇ。理解していますよ。故に次は人の手を借りる事にしました。」

『!!?』

 

その時、廠桓は自分の視界から哲郎が消えている事に気が付いた。凰蓮の話に気を取られ、哲郎の存在が一瞬頭から抜けた。

哲郎は口の中で舌を弾き、その音に追い付いて一瞬にして廠桓との距離を取った。その腕は胸の中心で掌と甲を重ねた《カジキの構え》を取っている。それは哲郎の得意技を撃ち出す為の構えだ。

 

《魚人波掌 杭波噴(くいはぶき)》!!!!!

『バチィン!!!!!』 「!!!!?」

 

哲郎の得意技 魚人波掌

その中でも別格の威力を誇る掌底が、廠桓の鳩尾へ叩き込まれた。

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