それは、鬼ヶ帝国には存在しない非力な者の為の技術。相手の体内の水分、或いは魔力に直接衝撃を叩き込む、謂わば相手の力を利用した攻撃。
哲郎が帝国内でそれを使うのは初めてでは無い。特に鳳巌に向けて繰り出した時の事が一番印象に残っている。
鳳巌はそれを知っていた。その上で自分には効果の薄い攻撃だと一蹴した。無論の事、哲郎はその言葉を事実として肯定し重く受け止めている。
その技の名は魚人波掌。鳳巌の根城の中、敵の《転生者》廠桓に向けて繰り出された。
***
『バチィン!!!!!』
『!!!!』
それは、鬼ヶ帝国の国民には耳馴染みの無い攻撃音だった。拳を握り、相手の身体を攻撃する戦法が通例の帝国民にとって、身体を
今回、哲郎が廠桓に向けて繰り出したのは特に威力に特化させた派生技《
(な、何と凄まじい音!! 此れが哲郎さんの奥の手……!!)
(完璧に決まった!!! これで終わるか━━━━━━━━)
『ドパァンッ!!!!』『!!!?』
瞬間、廠桓の身体を覆っていた赤い鎧が液状に流動化し、その背中が弾けた。
その光景は、傍から見れば廠桓の生命が断ち切られた瞬間に見えたかもしれない。しかし当の哲郎の目には自分に殺意を向ける視線がはっきりと感じられた。
「隙ありィ!!!」
「ッ!!!」
至近距離で一瞬硬直した哲郎の隙を見逃さず、廠桓は回し蹴りを放った。哲郎は咄嗟に反応し、その蹴りを身を引いて躱す。しかし廠桓の攻撃はそれだけでは無かった。
「!!! 凰蓮さん!!!」
哲郎は上下が反転した視界の中で、凰蓮に向かって飛んで行く赤い刃を見た。瞬時にそれが廠桓の能力によるものであると気付く。
廠桓は蹴りを放つ際、その足に血液を溜めて振り抜き、その勢いを利用して血の刃を飛ばしたのだ。
「ぬぅっ!!!」
『!!』
凰蓮は手に持った武器を振り下ろし、飛んで来る血の刃を迎撃した。数瞬の力の拮抗の後、刃は真っ二つに裂けて凰蓮の両隣を飛んで行った。その直後、哲郎は廠桓との距離を取ると同時に凰蓮の元へ合流した。
「くぅっ……………!!」
「哲也さん、大丈夫ですか!? 今のは一体………!?」
「僕は大丈夫です。それと質問は説明すると長くなるので手短に言います。
今僕は、相手を内側から攻撃する技を出しました。廠桓はその対策を実行したんです。」
哲郎の言う通り、廠桓は自身の能力を応用し哲郎の魚人波掌を攻略した。
魚人波掌とは、端的に言えば水分に衝撃を撃ち込む技。廠桓はそれを受ける瞬間、身体を覆っていた血の鎧の血液凝固を解き、液体状に流動化させた。それにより哲郎が撃ち込んだ衝撃は鎧となって体を覆っている血液中
(考えてみれば単純な理屈!!
魚人波掌は水分を攻撃する技。なら周りを液体で包めば衝撃は体内に届かない!! なんでこんな簡単な事に気付かなかったんだ……………!!!)
哲郎の得意技が魚人波掌であり、その特性を知っているならば容易に思い付くであろう対策。廠桓が血液を操作する能力を持ち合わせていると判明した時点で気付くべきだったと、哲郎は己を責めた。
(今のが通用しないとなったらあの血の鎧、かなり厄介だ………!!
あの自信満々の様子からして、多分強度は凰蓮さんの攻撃も通さない!! その上で僕の攻撃が通じるかも怪しい。さっきの魚人波掌はもちろん、たとえ地面に頭を叩き付けてもきっと血をクッションみたいにして防御される!!
なら狙う場所は━━━━━━)
「『剝き出しの顔面に魚人波掌を撃ち込めばいい』とでも考えてんだろ!? 甘いんだよ!!!」
『!!』
哲郎の思考を見透かしたかのような廠桓の一言と共に、彼の血の鎧が更に変形した。首の部分が流動化し、血液が頭部を覆い尽くし硬質化する。それは西洋甲冑の兜のようだった。
(血で兜を作った………………!!!)
「こいつがどういう意味を持つか分かっただろ!? これでお前の十八番は完全に封じた!!!
今の俺ならたとえ頭から
「!!」
哲郎は廠桓の口から漏れた貴重な情報を聞き逃さなかった。
哲郎の耳には馴染み深い『コンクリート』という材質を表す言葉。しかし異世界に居る今となってはそれを知る者は限りなく少ない。その言葉を知っている条件は一つしか無い。
(この人は僕や彩奈さんと同じ、
「あらあら俺、口を滑らしちまったか? だがまぁ心配はねぇな。この情報が意味を持つのはお前等二人が俺を下した時だからよ!!」
「否、三人だ。」
『!!!?』
その瞬間、廠桓に向けて拳を振るう者が居た。その人物は先程廠桓に身体を撃ち抜かれた鳳巌である。彼の拳が廠桓の鎧に突き刺さった。
「ほぉ、こいつァ意外な援軍だな。」
「何者かは知らんが貴様、一体黐詠に何をした!!!!」