異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#376 The Bloody Marionette 3

凰蓮は言った。鬼門組が総力を挙げれば鳳巌の下に就く幹部達を捉える事は造作も無い、と。今回の奇襲が成功すれば確実に鳳巌の仲間達に引導を渡す事が出来ると、そう確信していた。それは哲郎と渡り合った牛檑、幹部の中でも取り分けて戦闘能力に秀でている彼が根城に舞い戻るという可能性を想定に入れても尚、だ。

 

しかし今や、その想定は二つの不測の事態によって脆くも崩れ去った。一つは帝国を狙う敵の《転生者》、廠桓の存在。そしてもう一つはその廠桓の能力によって黐詠と牛檑が操られ、通常より遥かに高い戦闘能力を引き出されているという事だ。

 

*

 

「ウグアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」

「ブルアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!!」

『!!!!』

 

それは理性を欠いた猛獣の咆哮では無く、立派な人間の口から発せられた声である。しかしその声の主達は今や廠桓の毒牙によって理性を奪われ、唯目の前に立ちはだかる者達を破壊する事だけを強制されている。その声を発した黐詠も牛檑も、今となっては廠桓の意のままに動く武器と化していた。

 

『ズゴォッ!!!!』

『ドゴォッ!!!!』

『!!!! んぐっ……………………!!!』

 

黐詠は変わらず手に持っていたその刀の一閃を、牛檑はその馬鹿力にものを言わせた全身全霊の突進を繰り出した。

その猛攻に対し、哲郎は黐詠の刀を持った手首を止め、凰蓮は手に持った武器の柄で牛檑の突進を受け止めた。その一発だけで、自分が彼等の力量という、無意識の内に決め付けていた前提が塗り替えられた事を理解させられる。

 

哲郎は二度に渡って黐詠と交戦している。一度目は隙を突いて逃走に成功し、二度目では無傷で彼女を制圧している。その成功体験が逆に哲郎の深層心理に黐詠が弱小な存在であるという事を刻み込んでしまっていた。

凰蓮も同様に、総監として牛檑の情報、力量に関する逸話を度々聞いていた。その情報を統合しても尚、自分が前線に出れば牛檑を制圧する事は困難では無いと決めて掛かっていた。

しかしその思い込みとも言うべき前提は廠桓の能力によって覆された。今自分達が相手にしているのは遥かに手強い相手であると思い直さなければならないと理解させられた。

 

「~~~~~~!!! ヌゥンッ!!」

『ガキィンッ!!!』

 

凰蓮は手に持った武器を振り払い、その勢いのままに牛檑を弾き飛ばした。牛檑の巨体は受け身もまともに取らずに地面を転がる。自分の身を案じるという当然の思考すら奪われてしまっている。

 

「(凰蓮さん!! やった━━━━)

!!! うわっ!!?」

 

凰蓮の活躍に意識が向いたその一瞬で、黐詠は更なる攻撃を試みた。足を振り上げて哲郎の顎を狙った蹴りを放つ。哲郎はそれを身を引いて躱した。しかしそれは決して有利の獲得では無く、黐詠の刀を自由にしてしまったという事だ。

本来ならば、振り上げた足を地に付けてから刀を振るおうとするのが人情だろう。しかし今の黐詠は相手への攻撃しか考えていない。足を振り上げた体勢のまま刀を振るうだろう。ならば哲郎に残された道は黐詠の攻撃よりも早く次の技を繰り出すしか無い。それを即座に実行した。

 

「はぁっ!!!!」『ズゴォンッ!!!』

 

黐詠が刀を振るう、その一瞬の間に哲郎は攻撃を繰り出し、難を逃れた。

黐詠に対して背を向け、その直後に舌を鳴らし、その音に《適応》して追い付く事で身体を加速させ、超高速の当て身を繰り出したのだ。その直撃を受け、黐詠の身体は吹き飛ばされる。

 

一見は哲郎達が戦闘の主導権を握っているように見えるが、状況は何一つとして好転していない。その証拠に他でも無い廠桓が顔色一つ変えずにいる。彼を攻撃出来なければ、それ以外の事に何一つとして意味は無い。

 

「……………どうですか!? こんな事をいくら続けても何にもなりませんよ!!! 貴方自身が向かって来ないとね!!!」

「……………………」

 

たった今牛檑と黐詠を吹き飛ばした、その事実を材料にして哲郎は廠桓を挑発する。何度人を操って自分達に繰り出しても意味は無い。自分が立ち向かって来なければ時間の無駄だ と。

その挑発を受けても尚、廠桓は余裕の笑みを崩さなかった。彼の身体に傷一つ付いていないからだ。

 

「……………確かに、天下の鬼門組総監と《転生者》一人を相手にたった二人ってのはちょいと力不足だったかもな。仕方ねぇ。もうちょい足すか(・・・)。」

『!!!?』

 

その時、大広間は既に哲郎と凰蓮、本来此処に居る筈の無い廠桓、そして操られている黐詠と牛檑を中心にして静まりつつあった。立て続けに起こる異常事態に、隊員達の中にも犯罪者達の中にも己の現状を忘れて凝視する者が現れ始めていた。

その状況の変化を廠桓は待っていた。それに気付き、哲郎は頭の中で更なる最悪を思い描いた。それは他でも無い自分達にとっての最悪だ。

 

「に、逃げて!!!!!」

「もう遅ぇよのろま!!!!!」

『!!!!!』

 

余りにも唐突に、哲郎が思い描いた最悪、その始まりが現実のものとなった。廠桓は血の鎧を変形させて無数の矢を四方八方へ放った。しかしその矛先は哲郎達では無い。

その無数の矢は鬼門組の隊員達を、鳳巌の下に就いていた犯罪者達を、その場に居た全員を無差別に貫いた。

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