哲郎は《適応》の能力を手に入れてからというもの、特にノアの飛行魔法を見て自分にも
そして帝国に足を踏み入れた初日、山賊団が乗る豚(の魔物)の俊足に追い付けないという状態に《適応》し、自分の速度を加速させる応用を編み出した時にこれまでの努力が実を結んだと直感した。今までの理想を追い求める執心が無ければ決してこの境地には辿り着けなかった、と。
しかし、哲郎は
その深層心理の変化を哲郎は今この時になってようやく理解した。自分より遥かに巧みに能力を応用させている《転生者》、廠桓を目の前にした時に。
*
「………………!!!」
「驚いて声も出ねぇみてぇだな。この俺の能力の使い方の精度によ。
俺はこの能力と何年も向き合って来た。お前とは《転生者》としての年季が違う!! ほんの数ヶ月も能力を使ってないお前には絶対に辿り着けない境地に俺は居る!!!」
「!!!」
廠桓の言葉は哲郎の心の内を見透かしていた。
哲郎は帝国で武道会や鳳巌の根城で独り戦っている時に、《適応》の能力を伸ばす事は考えなかった。それは即ち成長を放棄したという事だ。
(何をやってたんだ僕は!! 能力の向上をもう十分だと考えていい気になっていた!!
あの人も、里香も、虎徹さんも、きっと皆能力を成長させる事を止めなかった!! 今の僕に足りないのはそれだ…………!!!)
「お? 何だその顔。俺の説教が効いたか? 今更成長する気になったってもう遅ぇよ。俺がそんな余裕与えねぇからな!!!」
「!!!」
哲郎は後方に殺気を察知し、視線を送った。
人の上に人が登り、それが何度も繰り返されて積み重なった人の山を登り、操られた隊員の一人が哲郎に向かって飛び掛かって来た。不意に向けられた、野生動物のような脅迫めいた殺気に哲郎は咄嗟に身構える。しかし、隊員の攻撃は廠桓にとっては唯の囮でしか無かった。
「やっぱり嘴の黄色いガキだな お前は!!!」
「!!?」
廠桓は血の鎧の隙間から血液を噴き出し、血は哲郎の身体全体に掛かった。不意の攻撃に驚いた直後、彼が何故これまでのように血を武器にして攻撃して来ないのかを不審に思った。その答えは即座に明るみになった。
「!!!? これは……………!!!」
瞬間、哲郎の身体を覆っていた血が茶色く変色し固まった。まるで全身をコンクリートで固められたかのように身体の自由を完全に奪われる。巨大な褐色の塊の中で哲郎の頭部だけが露出していた。
「お前も人間なら経験あるだろ!? 傷口から流れた血が固まってカサブタになった経験がよォ!!」
「!!?」
血液の中に、血小板という成分が存在する。傷口、即ち血管の損傷の際に効果を発揮し、傷口を塞いで出血を止める。そして生まれる血小板の塊を人は
即ち瘡蓋とは血液凝固の結果に生まれるものである。廠桓は血を操る能力を使う事で血液凝固を自在に起こす事が出来るのだ。
(か、かさぶたの檻!! 血で武器を作ったのと同じように!! まだこんな隠し玉を……………!!!)
「命救う為のカサブタに攻撃されてちゃ世話無ぇな!! 人間!!!」
「!!!?」
廠桓は足からの血のジェット噴射で再び哲郎との距離を詰め、そのまま哲郎を蹴り飛ばした。哲郎はそのまま吹き飛ばされ、操られている人々の身体の上に墜落する。その衝撃で哲郎の身体を覆っていた瘡蓋の拘束は破壊された。
「んぐっ……………………!!!」
「これで分かったろ? 俺とお前じゃ《転生者》としての年季が違うって事がよォ!!!」
廠桓は哲郎を見下して勝ち誇ったように言葉を発する。哲郎はその言葉を否定する事が出来なかった。しかし勝負を諦めている訳では無い。哲郎は自分の新たな手札と共に、敵の弱点を模索していた。
実際に、哲郎は廠桓の能力に一つの疑念を抱いていた。
(…………どういう事だ!? あの人はさっきから考え無しに血を噴き出している!! なのにどうして平気でいられるんだ!?
能力の中に血を生み出す力も組み込まれている!? それとも魔力を血に変化させて……………!?
何であれ血が無限に湧き出て来るなんて有り得ない!! 能力が完全無欠なんて事がある訳が無い!! 確かに使い方は僕より上手いけど、あの血を操る能力にもどこかに弱点がある筈だ!! それさえ分かれば…………………!!!)